イチキシマ姫(市杵島姫)その2 | 神々様の童話作家 あいかわゆき

神々様の童話作家 あいかわゆき

縄文時代の指導者であられた日本の神々様の物語★
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できればと願っています。

ある日、ニニキネさまが、筑紫へ行幸される(注2)という知らせがはいりました。

 

「筑紫。お母さまといっしょにながされた、あのくらく、さびしい、思い出の地」

 

つらいきおくがよみがえり、タナコさまは目をふせて、胸をおさえました。

 

その筑紫へ、さんなんぼうのウサツヒコさまがご同行することになり、タナコさまは、あるけっしんをしました。

 

 

ことりたちが、ピチュピチュとさえずるすがすがしい朝、イフキヌシさまが、よくみのった橘に目をほそめていると、タナコさまが、しずしずと近づいてきました。

 

「ことしは、橘もよくそだっておりますね」

 

タナコさまが、イフキヌシさまに声をかけました。

 

「うむ。日のひかりを、じゅうにぶんにうけたからな」

 

イフキヌシさまが、まんぞくそうにこたえました。

 

イフキヌシさまといっしょに、お日さまのようにかがやく橘を、まぶしそうに見つめると、タナコさまは、思いきってきりだしました。

 

「ニニキネさまが、筑紫へ行幸されるそうですね」

 

「ああ。いよいよ、筑紫でも、水田かいはつに力をいれられるようだ」

 

「子どものころ、わたくしがおりましたころは、まだ、とてもさびしいばしょでした。とくに、わたくしたちが送られた山のなかは」

 

「そうであろう」

 

イフキヌシさまが、いたわるようにいいました。

 

「あのころのことは、今でもわたくしの心に、かげをおとしております」

 

「うむ」

 

「オロチにとりつかれた母に、あなたたちのことなど、どうでもいいといわれたこと。そして、その母のために、お国に大きなそうどうがおきてしまったこと」

 

「・・・・・・」

 

「わたくしは、そのいまわしい記憶を、あたたかなものに変えたいのです。ウサツヒコとともに、ニニキネさまにご同行させていただくことを、おゆるしいただけますでしょうか」

 

とつぜんのタナコさまのもうしでに、イフキヌシさまは、おどろいた顔をされました。

 

けれど、タナコさまのしんけんなまなざしを見ると、しぜんにうなずいていらっしゃいました。

 

「それで、タナコのきもちがはれるなら、いってくるといい」

 

「ありがとうございます」

 

タナコさまは、イフキヌシさまに、ふかぶかと頭をさげられました。

 

 

注2)筑紫は、げんざいの九州。行幸(みゆき)とは、アマカミさま(天皇)がおでかけされること。

 

 

 

 

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