心憂しと物憂し、どちらも憂鬱で晴れ晴れしない心持ち、それが垂れ込めた辛さに違いはありません。ただ物憂しにしかない使い方があってこんな具合。帝から結構な申し出がありながら、息子は返事を遅らせています。父としては気が気ではないところで〈物憂がるなめり〉、何か面倒に思っているのだろう。

 

 
 

〈いそぎ〉、勿論古典でも急ぐことです。ではこの場合は?〈御いそぎもいと近くなるぬるを〉。帝にすれば二の宮の行く末を案じて有望と見込んだ大将との結婚を進めます。大将はありありと乗り気でないのを急かして実現に漕ぎ着けようというとき、二の宮の思わぬ病。婚儀の〈準備〉は間近だというのに。

 

 

いざ目の前に現れた大将の素晴らしい召し物、佇まいから湧き上がるような芳しい香り、こちらを圧倒するばかりのその美貌を前に〈かつは著なし給へる人柄なるや、立田姫の人別けなどしたるには非じ〉。衣装に着られているどころか、すべては彼を以て着こなされていて、裁縫の女神が贔屓したのではない。

 

 

〈我〉とは勿論私のことです。しかるにこんな物言い、〈我さへ斯く宣ふこそ心憂けれ〉。自分の不徳とは言え宵闇に忍んだ弾みに契った相手のいまが気になるところ。聞き出したいが頼みの女房には寧ろ事の次第を世に明らかにされてはと逆捩じ。〈あなたにそう言われては辛いばかり〉、そうこの我は相手。

 

 

〈たけし〉は猛し、勇壮であることを意味しますが、では〈ただたけき事とは御湯などをだに見入れ給はで〉。望まぬ妊娠の上にその心痛で母が急逝。ひとり残された将来も生きるに非力な身とあっては周りが決める一切に結局は従うしかない運命、差し出された薬湯に目もくれないぐらいが〈精一杯のこと〉。

 

 

女性との仲がよそよそしいなんて滅相もない、目の色変えて男の反論です。〈すべてただまろ寝にてこそ、夜昼扱ひ候しか〉、まろ寝は帯を解かず寝ることです。末永く一緒にいたいため女性が心を開いてくれるまでひとつ部屋でも着物を着たまま夜も昼もそのように過ごしたのです、どこがよそよそしいと!

 

 

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