馬を放つ
  監督 : アクタン・アリム・クバト
  製作 : キルギス・フランス・ドイツ・オランダ・日本

  作年 : 2017年
  出演 : アクタン・アリム・クバト / ザレマ・アサナリヴァ / ヌラリー・トゥルサンコジョフ

 

 

まさに題名のままに馬を放つわけです、夜中に、忍び込んで、勝手に、連れ出して。それをご近所を掻き集めても数十人といった村のなかで繰り返しているんですからなかなか以て大胆です。(まあ中には草原に放ってやるどころか盗んだ馬を食肉業者に卸すのを生業にして村中にそうと知られながら尻っぽを掴ませずにのうのうと暮らしている者もあるんですから上には上があるものですが... ただこちらはっきりと犯罪を職業にしている輩ですから警察でこそへらへらとしていますが現場で出喰わしたりしたら大変です。酷薄な猛禽類の顔つきで容赦なく発砲してきますよ。) 他人の馬を繋がれた厩舎から連れ出して草原へと放してやるなんて勿論バレたら只で済むはずはありません。わざわざそんなことを繰り返すのは(何か動物への愛情によって軟禁から解放してやる博愛的な行動を想像してしまいますが然もあらず)狙われた馬に動機の糸口はあります。馬はすべて飛び抜けた走力を誇る高価な競走馬でして夜通し草原を駆け巡ってはそのまま(生かしも殺しもせずましてやどこかへ売り飛ばされることなく)捨て置かれるのです、ですから馬は程なく発見されて所有者の許に戻ってきます。まあそれもあってこれまで大きな問題とはならずに有力者、財産家、成り上がり者に付きまとう嫌がせだと見過ごされてきたわけです、肝心の愛馬さえ無事に帰ってきたのならどんな火の粉が振りかかるやも知れず今更犯人探しには及ばない。しかるに先程のプロの馬泥棒、彼にしてみれば自分の領分を犯されているわけですから盗人の矜持に関わります、有力者をけしかけて犯人をおびき寄せる罠を仕掛けまして... (村人たちこそ知りませんが)映画では冒頭から犯人は明かされていて主人公のしわざです。子供こそまだ幼いですがもう五十の坂はとっくに越えたそんな壮年男子がなんでまたそんなことに夜な夜な明け暮れるのか、それは彼が口誦さむ土地の神話に発した彼なりに民族救済の決意なのです。いまを遡る数世紀モンゴル帝国に支配されていたこの土地に馬に戦いの翼をもたらすという守護神が舞い降ります。そして圧政者を戒めますが聞き分けるどころか兵をやって守護神を殺そうとしたところ忽然と消えて以降土地から幸福と繁栄が消えてしまうのです。しかし心の正しい者が月夜に駿馬を駆って守護神を呼び戻せばふたたび土地に友愛の絆が取り戻されると。確かに中国とロシアに挟まれた中央アジアのこの地域には大国と大国が押し合うひずみと罅割れがいまもその隅々に走るでしょう、土地の言葉で話をしながら書くとなると公用語のロシア語です。そう熱心ではないながらイスラム教が土着ししかし道をまたげばロシア正教が典礼に練り歩いていて、女性が夢中なるのはインド映画。しかもいまや開放された経済に村のなかでもその時流に乗る者が現れて同じ土地に住む者たちがどんどん他人の関係へ遠く引き裂かれているのです。そんな現実を照らす月夜の晩に五十男のあえかな願掛けはさて馬に翼を与えるのでしょうか。

 

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