宵待草
  監督 : 神代辰巳

  製作 : 日活
  作年 : 1974年
  脚本 : 長谷川和彦
  撮影 : 姫田真佐久
  音楽 : 細野晴臣
  出演 : 高岡健二 / 高橋洋子 / 夏八木 勲

 

 

ありていに申して70年代の青春に向かうべき場所はありません。理想、目的、目標は60年代に消尽されてしまって... だって言ってみれば月にまで行ったのにそこで見つけたのは人類の未来ではなく単なる限界ですものね、植木等ではないですがまさに<はい、それまぁでぇよ>ということです。あれだけ血眼になった革命にしてもずるずると先送りされ自分でも先送りしているうちに誰しも何となく狂熱の芯を失って60年代という人類の進歩と調和の祭典は終わります。祭りのあとの、あの物侘びしい吹きさらし、しかしお祭りは去っても人間は残され、時間も残ります。本作に先んずる1970年にシドニー・ポラックは『ひとりぼっちの青春』を撮ります。それは昼夜を問わずぶっ通しでダンスを踊り続け最後まで勝ち残れば賞金を手にできるというこの上なく過酷でどこまでも馬鹿馬鹿しい見世物です。ひしめく参加者を日に何度か強制的に脱落させるためにダンス会場をぐるぐると走らされて気がつけば見世物自体がただ主催者の掌をくるくる回されているだけなのです。目的も目標もなく時間を無為へと巻きつけるようにただぐるぐるとその場を廻っている...  ポラックは30年代の大不況を背景に選びましたが本作も(題名はまさに大正浪漫ですが、作中で復興節も流れもはや傾向映画は終わったともこれからはキートンばりの大活劇の時代だともやや映画史的に屈曲していますがこの辺りは脚本の長谷川和彦は時代を大きく捉えて)やはり同じ時代です。主人公は高岡健二、高橋洋子、夏八木勲、訳あって右翼の巨頭からも朝鮮の独立運動と連携したアナーキスト集団からも追われる身でしていやそれどころか行く先々で揉め事を起こしては全編を市電からガタ馬車、自動車、自転車、馬、バイク、汽車、挙句に気球まで乗り換えながら彼らもまたぐるぐると活劇的な逃走を続けています。しかし彼らが自分たちのいまを取り敢えず立て直すためには満州行きの密航船に乗り込まなければならないのです、しかし果たしてそんな向かうべき未来はあるのか。三人の男女の冒険譚で、本作もまたロベール・アンリコ監督『冒険者たち』(フランス 1967年)の翻案です。しかしかの作品では莫大な富を手にしながらただひとり残される中年男の、大海原にその虚無を獅子吼る60年代的なセンチメンタリズムでありましたが、もはやそんな慰めは誰の胸にも宿りません。神代辰巳が示すのは希望なき希望、しかし本当の戦いは或いはそこから始まるのかも知れません。

 

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