月原悠の恋愛小説―クラシック音楽とともに

月原悠の恋愛小説―クラシック音楽とともに

夕日、音楽、初恋。クラシック音楽とともに、切ない恋愛小説を綴っています。

月原悠の恋愛小説――クラシック音楽とともに

 

 

 

 

 

ショパン《ノクターン遺作》

 

人を好きになることは、切ないですよね。

届くようで届かない想い。

 

そんな時におすすめの曲の一つです。

 

ショパンの《ノクターン遺作》

 

この作品は、甘い旋律の中に、どこか届かない想いのような寂しさがあります。
 

美しいのに、胸の奥が少し痛くなる。
そんな響きが、水江の心にも重なるように感じました。

 

このエピソードでは水江の切ない想いと、琴音の可愛らしい花占いのが中心に描かれています。

 

 

 作品紹介

 

夕日の野原で出会ったピアノの先生に、三つ編みの髪をした十六歳の少女・琴音は、初めての恋をした。

優しくて、少し寂しそうで、ショパンの切ない曲を弾く人。
「可愛い」と言われるたびに、琴音の胸は大きく弾んでいく。

一方、工場で働く姉の水江もまた、ある青年に心を惹かれていた。
その人は水江に優しくしてくれるのに、なぜか手だけはつないでくれない。

先生の涙。
青年の秘密。
夕日、波音、ピアノの音色。

姉妹それぞれの淡い恋は、やがて思いがけない真実へと重なっていく。

これは、初めて人を好きになった少女が、恋の喜びと痛みを知っていく物語。

 

 

 前回までのお話

 

夕日の野原でピアノの先生・川崎に出会った琴音は、少しずつ淡い恋心を抱くようになりました。

 

一方、姉の水江は、工場で出会った青年・渡辺に心を惹かれていきます。

けれど渡辺は優しくしてくれるのに、なぜか水江の手をつなぐことだけはできませんでした。

 

 

 

夕日に映る君 第4話 戸惑いと花占い

 

 

どこかで記憶が静かに流れた。

「お父さん、お父さん。ほら、夕日がきれいだよ」
「そうだな」
「すぐ目の前に届きそう。石を投げて見るかな? えい。届かないや」
「そうか、そうか。夕日までは遠いからな。遠くても、夢を持つことが大事だぞ」
「それを目標にして、頑張って進むんだ」
「わかったよ。父さん」
 

「じゃあ、父さんが肩車してあげよう」
「うん」
「ほら、ほら」
「わあ、怖いよ」
「はははは」
 

「家に帰って、一緒にご飯でも食べよう」
「うん、今日は何かな?」
「そうだな、何が食べたい」
「僕は何でもいいよ。お父さんとお母さんと一緒に食べることができればね」
 

「そうだな。家族とはいいものだな」

父さん……僕は……



水江は想いが伝わらない切なさに覆われていた。

「水江さん、最近どうしたの元気がないけど、僕が何かしたかな?」
「いえ、気のせいです……」
 

「僕でよかったら、なんでも相談にのるから」
「はい……渡辺さん……いえ、やっぱりよかったです……」
「どうしたの? 言ってごらん」
「お願いしたいことがあります」
「何かな?」
「やっぱり、いいです……」
「どうして……」
「いえ、ごめんなさい。私の方から言い出したのに」
「水江さん、気にしなくていいよ」

水江はいつものように、仕事のことで班長から叱られていた。

「ほら、水江さん、前に頼んだ書類はできたのかね?」
「班長、ごめんなさい。もう少しです」
「さっさとしてもらわないと困るよ」
「申し訳ありません」

しばらくして、渡辺が声をかけた。

「水江さん、書類を見せて。ああ、僕がやっておいてあげるよ」
「いえ、悪いです」
「いいんだよ、そんな気分なんだ」
 

「どうして、渡辺さんは私に優しくしてくれるのですか?」
「ほっておけないんだ」
「それはどういう意味ですか?」
「なんとなくかな……」
「なんとなくですか?」
「渡辺さんは誰にでも優しいのですね」
「そんなことはないよ……」
 

「渡辺さん、書類は明日作りましょう。もう、遅いです」
「大丈夫だよ。それより、もう少ししたら、一緒に帰ろうか」
「はい」
 

「だいぶ出来上がったから、明日の朝には僕が作り上げておくよ」
「いえ、申し訳ないです」
「いや、気にしなくてもいいよ。じゃあ、一緒に帰ろう。水江さんの家は近くなのかな」
「はい」

野原は再び水江と渡辺を待っていた。

「野原の近くだね。今日もここで休んで話をしよう」
「はい」
 

「もう、星が見えるね」
「はい」
 

「星はすぐ手に届きそうなんだよね。小さい頃から、そう思ってきた。あれが北斗七星か。僕は小さい頃はとても星がきれいに見えていたんだ。でも、最近はそう感じなくなることがあって……」
 

「どうしてですか?」
「その答えは簡単さ。視力が落ちたからだよ」
 

「そうなんですね、ふふふ」

「でも、水江さんの瞳の輝きはきれいだよ」
「もう、あまりお世辞をいわないでください。渡辺さんは、いつもそうやって言います。女性には誰にもそう言っているのではないですか?」
「そんなことはないよ……」
 

「もう一度、お願いしたいことがあります。手をつないでください。やっぱり駄目ですか?」
「ごめんね、それはできないんだよ」
「そうですか……ごめんなさい、無理を言って。女性からこういうことはいけませんね……」
 

「僕こそ、ごめんね……」

夜空が何かを言いたげに輝いていた。

一方で琴音はときめきを隠せなかった。でも、本当に川崎が自分のことを好きなのか自信がなかった。
 

琴音は想う。

先生、好きです。
でも、私はまだ十六歳よ。
可愛いって、お世辞だったのかしら?
そうだ!
あそこにある花で花占いをしてみよう。

先生は琴音が好き!
お世辞……
やっぱり、琴音のことが好き!
うーん、お世辞?
きっと私のことが好き!
あ、両想いだ! やった!

琴音の恋心はやわらかな花のようだった。
そっと風が吹いただけで、飛んでいきそうだった。

 

*記事内の画像はAIによるイメージです。

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 トロイメライ

 

 

今回は主人公の琴音の初恋の色が描かれています。

まるでシューマンの《トロイメライ》のように夢心地の世界が漂います。

 

初恋の色は、あなたにとってどのような色でしたか?

甘酸っぱかったでしょうか?

苦い思い出だったでしょうか?

 

シューマンの《トロイメライ》は、甘いけれど、どことなく寂しさある曲に思えます。

 

みなさんは、どのように感じますか?

 

 

シューマン《トロイメライ》の夢見心地な世界を、夕日の中の少女に重ねてみました。
 


作品紹介

 

タイトル

 

夕日に映る君―初恋の音色

 

夕日の野原で出会ったピアノの先生に、三つ編みの髪をした十六歳の少女・琴音は、初めての恋をした。

優しくて、少し寂しそうで、ショパンの切ない曲を弾く人。
「可愛い」と言われるたびに、琴音の胸は大きく弾んでいく。

一方、工場で働く姉の水江もまた、ある青年に心を惹かれていた。
その人は水江に優しくしてくれるのに、なぜか手だけはつないでくれない。

先生の涙。
青年の秘密。
夕日、波音、ピアノの音色。

姉妹それぞれの淡い恋は、やがて思いがけない真実へと重なっていく。

これは、初めて人を好きになった少女が、恋の喜びと痛みを知っていく物語。


 

 

 夕日に映る君―初恋の音色 第3話 想いのメリーゴーランド

 

 

とある場所にて、時が流れて行った。

「僕はいずれ……」

男は一人寂しく呟いた。

「どうしたの、元気がないよ。何の独り言を言っているの?」
「空耳だよ……」
「それより、すべきことがあるでしょ」
「そうだね、でも、僕は自由の羽を奪われたんだ」
「また、そんなことを言う」
「僕が悪かった」
「一人で呟いていて、男らしくないわよ」
「今日は一人にさせてくれ……」
「わかったわ……」

男は一人になり想いをはせた。

あの人に会いたい。どうして僕はこうなるんだ。
今頃、君は何をしているのかな? 笑っているのかな。
優しい笑顔だよね。怒った顔も見てみたい。
さぞかし可愛いだろうな。僕のことをどう思っているのだろうか?
この世に神がいれば僕は見捨てられたようなものだ……
きっと、そうだ……

ピアノ教室にて琴音は川崎にレッスンを受けていた。

「琴音ちゃん、あ、琴音さんだったね」
「やっぱり、琴音ちゃんが可愛いですか? 先生……?」
「そうだね、琴音ちゃんの方が可愛いよ」
「じゃあ、琴音ちゃんでいいです」
「練習してきたかな?」
「はい!」

琴音の心は踊っていた。

「最初はね、バイエルという教本で練習するんだ。これを練習したら、少しずつ弾けるようになっていくよ」
「頑張ります!」
「琴音ちゃん、ドレミファの音階の場所は覚えたかな?」
「はい、先生!」
「じゃあ、弾いてみて」
「こんな感じですか?」

琴音は恐る恐る弾いてみた。

「そうだよ。上手く弾けているね。次はバイエルの音階の簡単な練習曲を弾いてみよう。こんな感じだよ」
「こうですか?」
「そうだよ。上手だよ」
「本当ですか?」
「ああ!」
「うれしい、先生!」
「この調子で練習しておいで!」
「うん」
「琴音ちゃんは可愛いね!」

「先生、バイバイ!」

喜ぶ琴音に対し揺れる心の水江。

「お姉さん、お姉さん。川崎先生から褒められてね。それでね!それでね!それでね!可愛いって言われたの!」
「本当、よかったね……」
「うん」
「うれしくて、今日は眠れるかな? 川崎先生、好きです」
「琴音、何か言ったの?」
「何も言ってないよ」
「そう、琴音……明日、学校だから早く寝なさい……」
「そうね……どうしたの、お姉さん?」
「ううん。渡辺さんのことを想っているの……琴音、おやすみ……」
「おやすみ、お姉さん!」

水江の想いは眠りを妨げていた。

渡辺さん。どうして、私の手をつないでくれなかったの……
私の片思いなのかしら……
でも、私の瞳がきれいだって言ってくれた……
あれはなんだったのかな……
ただ、からかっただけかな……
でも、海に誘ってくれたし……
私のことをどう思ってくれているのかな?
海がきれいだったな。きれいな波の音にピンクの貝殻。
また、連れて行ってくれるといいのに……
ああ、こんなことを考えたら眠れなくなっちゃった。
あの時みたいに月がきれい……

翌日になって

「おはよう、水江さん」
「おはようございます。渡辺さん……」
「どうしたの? 水江さん? すぐ、あっちを向いて」
「花がきれいかなと思って……」
「そうだね、でも、花がきれいだから、あっちを向いたのかな?」
「そうです……」
「そうなんだね?」
「いえ……」
「どうしたの? 水江さん……」
「いえ、なんでもないです……」

「そうか、花もきれいだけど、水江さんもきれいだよ」
「本当はそう思っていないのでしょ?」
「どうして、水江さん?」
「だって……」
「だってとは?」
「いえ……」
「ほら、水江さん?」
「どうしました?」
「肩に葉が落ちているから取ってあげるよ」
「水江さん……」
「ごめんなさい……」
「どうしたの?」
「渡辺さんの手に触れてしまって……嫌ですか? 渡辺さん」
「それは……」
「そうですよね……ごめんなさい」
「水江さん……」

水江と渡辺は工場にいた。

「水江さん、ほら、書類を書くのを手伝ってあげるよ」
「いえ、結構です」
「さっきのことで怒っているの?」
「いえ、ちがいます……渡辺さんの気持ちがわかりません……」
「水江さん、ちがうよ」
「どうして、ちがうのですか?」
「それは言えない。言えないんだ……」
「どうせ……私のことは……」
 「ちがうよ、水江さん……ちがうんだ」
「もういいです……」

二人の想いは交錯していた。

一方で、ピアノ教室にて琴音は川崎からレッスンを受けていた。

「琴音ちゃん、練習してきたかな?」
「はい!」
「頑張りました。ほら、先生!」
「おお、上達したね!」
「はい、だって……いえ、なんでもないです……」
「琴音ちゃんは可愛いね。肌の色が白くて」
「本当ですか? でも、最近ね、太ったの……」
「そうかな? そんなことないよ」
「先生……」
「どうしたの?」
「聞いてもいいですか?」
「いいよ。琴音ちゃん」
「先生は好きな人はいますか?」
「うん、いるよ」
「教えて……どんな人ですか?」
「可愛い子だよ」
「誰ですか?」
「それは教えられないな」
「先生、本当に私は可愛い?」
「ああ、本当だよ」
「先生は年下の女の子とかは好き?」
「好きだよ」
「頑張る子とか?」
「そうだね、応援したくなるね!」
「肌の白い女の子とか好き? ぽっちゃりとした子は好きですか?」
「ああ、妹みたいで可愛いよ!」
「本当?」
「ああ」

「先生、バイバイ!」

「まだ、練習の途中じゃないか、何か気になることでもあったの?」

琴音は自宅に帰り、喜びを隠そうとはしなかった。

「お姉さん、お姉さん、お姉さん!」
「どうしたの、琴音?」
「私は川崎先生と両想いかもしれない」
「そうなの……琴音?」
「どうしたの、お姉さん? 元気がないよ」
「ううん、いいの……」
「もしかして、渡辺さんと何かあったの?」
「もう、ほっといて」
「あ、ごめんなさい……」


琴音は後悔した。

しまったなあ、言わなきゃよかった。どうしよう……
そっとしておこう。
でも、うれしい。どうやって、川崎先生をデートに誘うかな……
ああ見えても、川崎先生は恥ずかしがり屋さんのような気がするな!

琴音は嬉しくてたまらなかった。
心の中の花が咲き乱れていた。
 

*記事内の画像はAIによるイメージです。

 

 

 

『夕日に映る君――初恋の音色』第2話です。

 

今回は、琴音の姉・水江の物語です。
 

工場で叱られていた水江の前に、ひとりの青年・渡辺が現れます。

夕日、海、そして少しずつ動き出す恋心。
 

この回には、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番のような、深く揺れる感情を重ねています。

 

それでは、第2話「波がピアノを奏でる」をお読みください。

 

 

『作品紹介』

 

夕日の野原で出会ったピアノの先生に、三つ編みの髪をした十六歳の少女・琴音は、初めての恋をした。

優しくて、少し寂しそうで、ショパンの切ない曲を弾く人。
「可愛い」と言われるたびに、琴音の胸は大きく弾んでいく。

一方、工場で働く姉の水江もまた、ある青年に心を惹かれていた。
その人は水江に優しくしてくれるのに、なぜか手だけはつないでくれない。

先生の涙。
青年の秘密。
夕日、波音、ピアノの音色。

姉妹それぞれの淡い恋は、やがて思いがけない真実へと重なっていく。

これは、初めて人を好きになった少女が、恋の喜びと痛みを知っていく物語。

 

タイトル

 

『夕日に映る君―初恋の音色』

 

第2話 波がピアノを奏でる

 

ささやく波の音と優しい夕日が二人を待っていた。
水江の工場での出来事だった。
 

どうやら、上司である班長と渡辺とのやりとりであった。

「渡辺君、昨日の仕事は終わったかな?」
「はい、班長、報告書の方は書いておきました」
 

「どれどれ、見せてくれ、おお、ちゃんと出来ているじゃないか。これは外国語じゃないか?」
「はい。貿易会社への報告書で班長が取引先の社長がギリシャの方だとお聞きしましたので」
 

「まあ、確かにそうだけど日本語も出来る方だぞ」
「ええ、でもギリシャ語の方が伝わりやすいかと思いまして」
 

「どこで、ギリシャ語を勉強したのかね?」
「以前、ギリシャに留学していたこともあり、ギリシャ語を学びました」
 

「ほお、そうだったのか。それは、お世話になっている貿易会社との仕事がスムーズにいくかもな」
「それは良かったです。お褒めの言葉をいただきありがとうございます」

水江は仕事で班長から叱責されていた。

「水江さん。また、頼んだ書類が間違っているじゃないか。大体、漢字が間違って書かれているぞ。今日中に作り直しなさい」
「はい、申し訳ありません」
「困るよ、こんなことじゃ」

班長が帰ると、そこには渡辺が現れ、優しく声をかけた。

「水江さん、大丈夫だよ。書類は僕が書いておくから」
「いいのですか、渡辺さん?」
「ああ、心配しなくていいよ」
 

「渡辺さんは頭がいいのですね。でも、申し訳ないです」
「そんな事はないよ。それよりさ、すぐ書き終えるから。終わったら、近くの海に行かないかな? 水江さんは海が好きだって言っていたからね」

「はい、是非行きたいです」

優しく声をかけられた水江は嬉しくてたまらなかった。

「早速行こう!」

海に着くとそこには優しい輝きを放つ夕日が二人を待っていた。

「渡辺さん、海の音がきれいですね」
「ああ、そうだね」
 

「まだ聞いていませんでしたが、渡辺さんの下のお名前を教えてください」
「僕は渡辺雄二、水江さん、これからも、よろしくね」
「はい」
 

「浜辺に座ろうか」
「はい」
「ちょうど、あの時みたいに夕日がきれいだ。ほら、海に沈んでいくよ。水江さんの瞳が紅色に輝いているかな。まるで、宝石みたいだよ」


「私は浜辺で貝殻を拾ってきます……」


「どうしたの急に?」
「いえ……」
 

「待っているからね」
「取って来ました。ピンク色できれいです」
「本当だね」
 

「渡辺さんは夢がありますか?」
「僕は好きな人と結婚して幸せな家庭をつくりたいかな……」
「今はそういう人がいるのですか?」
「ああ、いるよ……」
 

「どうされましたか? 急に元気がなくなられて……」
「水江さんこそ、好きな人はいるのかな?」
「それは秘密です……」
「そうか、教えてくれないのか……」
「はい……」
 

「波の音がさびしく聞こえるかな……」
「どうしてですか?」
「それは秘密だよ」
「お互いに秘密だらけですね……」
「そうだね。でも、さびしいけど、波の音は僕を優しくしてくれる……」
「どっちなのですか?」
「どっちもだよ。水江さんは?」
「秘密です……」
「また秘密なんだね」
「はい」
 

「夕日が沈んで月明かりが降りてきたよ」
「渡辺さんは詩人みたいですね、」
「そうかな? 今度は月明かりが水江さんの瞳を輝かせているかな……」


「浜辺で今度は違う貝を取ってきます……」


「また、どうしたの急に? 今度も貝を取ってくるんだね」
「はい。」
 

「よほど、貝殻が好きなのかな?」
「はい。」
 

「波の音が恋しがっているから、そろそろ帰ろうか」
「もう、帰るのですか?」
「ああ……」
 

「渡辺さん、お願いがあるのですが……」
「何かな?」
「手をつないでいいですか?」
「ごめんね、それは出来ないんだ……」
「そうですよね……」
「会ったばかりなのに、ごめんなさい……」
「いや、気にしなくていいよ。僕の方こそ、ごめんね……」
「いえ……」
「そのかわり、明日から仕事を手伝うよ」
「はい、ありがとうございます……」

水江は自宅に帰り着き琴音と話した。

「お姉さん、今日は元気がないよ。どうしたの?」
「いいの、気にしないで……」

「そういえばね、近くにピアノを教えてくれる人がいるみたいなの。明日、お願いに行ってくる」
「よかったね。琴音」
「うん」

琴音は不安ながらも心を躍らて、ピアノの教室へたどり着いた。

ピアノを教えてくれる人の家はここかな? すごく大きな家。きっと、お金持ちなのね。もしかして、このボタンを押すのかな?

ピンポーン

わあ、音が鳴った。

玄関から一人の男性が現れた。

「君はあの時の?」
「あ……川崎さん……ピアノの先生だったのですね」
「そうなんだ。仕事が休みの日だけ教えているんだけどね」

琴音は恥ずかしかったが内心嬉しかった。

「そういえば、君はなんという名前かな?」
「琴音と言います」
「そうか、琴音ちゃんか」
「もう、私は十六歳です」
「そうか、ちゃんは失礼だったかな? じゃあ、琴音さんと呼ぶからね」
「はい。川崎さんでしたね」
「そうだよ」
 

「川崎先生、よろしくお願いします」
「一緒に、頑張ろうね」
「はい」

練習中のことだった。

「先生、何か弾いてみてください。」
「ああ、いいよ。じゃあ、僕が練習している曲の途中まで弾くからね」
 

「わあ、綺麗な曲。でも、なんだか悲しいですね」
「そうだね、この曲はショパンの別れの曲というんだ」
「そうなんですね」
「ああ」
 

「私もそういう綺麗な曲が弾きたいな」
「練習すれば、いつかきっと弾けるよ」
「はい、頑張ります」

川崎は優しく丁寧に指導した。

「ここは、こうやって。そうそう、上手だよ」
「本当ですか?」
「うん、素質があるよ」
「ありがとうございます」
 

「君は妹みたいだな。可愛いよ」
「からかわないでください」
「恥ずかしいですから。
「本当だよ」


「もう、帰ります……」


「どうしたの? まだ練習の途中だよ」
「急に用事ができました……」
「そうか、また、練習に来なさい」
「はい……」
 

「よし、元気があってよろしい!」
「頑張ります!」

琴音は心を躍らせながら、自宅に帰り着き、水江と話をした。

「琴音、今日は様子が変よ?」
「なんでもない……」
 

「どうしたの?お姉さんに教えて」
「どうしようかな……」
「いいから、琴音」
 

「お姉さん、私は好きな人がいるって、前に言ったでしょ。川崎さん、ほら、野原で会った人よ」
「うん。また、会ったの?」
「ピアノの先生でね、ショパンという外国の人の曲を弾いてくれて、とても綺麗だったの」
「そうだったの」
「うん、きれいな曲だったの、先生も素敵で、一生懸命な姿がカッコよかったな!」
「そうだったのね」
「でも、なんだかさびしそうだった……」
「何か事情があるのかもね」
 

「私は片思いになってしまうのかな?」
「私も片思いの人がいるの……」
「じゃあ、お互い同じね」
「そうね」
 

「今日は先生が夢にでてくるかもしれない。そうだとうれしい!」
「そうね、私も夢にでてくるといいな。海と一緒に貝殻を拾う夢を……」
「私も先生といっしょにピアノを弾く夢をみたいな」
「じゃあ、早く寝ようか」
「うん」

二人は恋は、まるで木々の隙間からこぼれる光のようだった。
 

作家、月原悠です。

 

今日は、小説ではなく、少し自分の体調のことを書いてみようと思います。

 

闘病日記というほど大げさなものではありません。

私なりに、日々の悩みや苦しさを、少しずつ言葉にしていけたらと思っています。

 

今、一番困っているのは、CPAPをつける前に寝落ちしてしまうことです。

 

CPAP、聞きなれない言葉ですよね。

 

CPAPとは睡眠時無呼吸症候群の治療で使われる医療機器です。

 

睡眠時無呼吸症候群はご存じですか?

 

睡眠時無呼吸症候群とは文字どおり、眠っている間に呼吸が止まる病気です。

 

そんなあ、息が止まるのか……

って感じです。

 

 

ちなみに、検査結果では、私の場合は1時間あたり31回止まっていました。

 

一回あたりの平均停止時間は25秒です。

最長で45秒です。

 

その間は心臓や脳に負担がかかるわけです。

 

 

改めて、CPAPとはこのような形で使う医療機器です。
※画像はAIで作成したイメージです。

 

 

イラストを見ていただきますと伝わるかと思いますが、寝苦しいです……

 

でも、これが熟睡につながります。

 

そのはずなんです……

でも、そうは簡単にいかないのです。

 

最初に書きましたとおり、寝苦しいので、最初はマスク自体を外すことが多いです。

 

私の場合は、重度に該当すると説明を受けました。
そのため、CPAPは医療保険の対象になるとのことでした。

 

一回あたりの医療費は、機器のレンタル料も含めて6000円程度という説明を受けました。

 

私は、2026年6月8日に診断がでて、その日から使用しています。

 

約2週間経過しましたが、なんとか装着には慣れてきたようにも思えます。

 

それでは、マスクを着けずに寝たとしましょう。

 

私の場合は時折、起きた時に、心臓がバクバクすることがあります。

 

そりゃそうでしょう。

 

長い間、息が止まっているのですから……

 

循環器内科に行こうかとも思ったりします。

 

行くのは怖いけど……

 

でも、自分のためですからね。

 

今日の疾病の一部でしたが、これから少しずつ書いていきたいと思います。

 

疾病のせいにしたらいけないのですが、それがきっかけで、小説を書くようになりました。

 

神さまが何らかの褒美、褒美ではないかもしれませんが、頑張っていこうかと思います。

 

後、何年生きられるかわかりませんが、頑張ります!

 

他の疾病も含めて続きはまた書きます。

 

前向きにね!

ぼちぼち書きます。

 

 

 

 

 

 

シューベルトの《アヴェ・マリア》には、ただ美しいだけではない祈りがあります。

 

静かで、やさしくて、それでいてどこか遠いところへ連れていかれるような旋律です。

 

私は現在、『夕日に映る君――初恋の音色』という恋愛小説を書いています。

 

この作品では、夕日、初恋、姉妹、そして音楽が大切なモチーフになっています。

 

少女・琴音にとって、音楽はただの旋律ではありません。
好きな人を想う気持ちであり、届かない祈りでもあります。

 

シューベルトの《アヴェ・マリア》を聴いていると、琴音という少女の小さな願いと重なるように感じます。

 

タイトル

 

夕日に映る君――初恋の音色

 

作品紹介

 

夕日の野原で出会ったピアノの先生に、三つ編みの髪をした十六歳の少女・琴音は、初めての恋をした。

優しくて、少し寂しそうで、ショパンの切ない曲を弾く人。
「可愛い」と言われるたびに、琴音の胸は大きく弾んでいく。

一方、工場で働く姉の水江もまた、ある青年に心を惹かれていた。
その人は水江に優しくしてくれるのに、なぜか手だけはつないでくれない。

先生の涙。
青年の秘密。
夕日、波音、ピアノの音色。

姉妹それぞれの淡い恋は、やがて思いがけない真実へと重なっていく。
これは、初めて人を好きになった少女が、恋の喜びと痛みを知っていく物語。

 

 

 

夕日に映る君―初恋の音色

 

第1話 夕日のささやき

 

戦争が終わって、町にもようやく明るい声が戻り始めていた。
山の向こうへ夕日が沈みかけるころ、一人の少女は学校帰りの小道を、ひとりぶつぶつ言いながら歩いていた。
 

小道の脇には野原が広がり、夕日に照らされた草の先が、きらきらと小さく揺れていた。

「今日は夕日がきれい。あそこの野原に横になろう。ああ、今日も試験の結果が悪くて先生から怒られた……私って馬鹿なのかな……昨日、あれだけ勉強したのにね。まあ、いいか……よし、頭の休憩、休憩」

髪を三つ編みにした、小柄で色白の少女だった。
すると、野原に座っていた一人の男性が、目の前に現れ少女に話しかけた。

「どうしたの? さっきから独り言を言って」
「ええ……聞いていたのですか」
「ああ、鳥のさえずりが聞こえてね。君も可愛いね」
「じゃあ、私が鳥なら肩の上にとまってもいいですか? そこからなら夕日がもっときれいに見えます」

二人は夕日に重なった。

「じゃあ、ほら、僕の肩にのせるよ」
「駄目です」
「どうして?」
「恥ずかしいですし、私は重いですよ」
「だって、君が僕の肩にとまりたいと言っただろう」
「いえ……」
「僕は川崎というけど、君の名前は?」

少女は恥ずかしくて仕方がなかったため、
頬を赤らめてその場から逃げるように走って家へと向かった。

少女は自宅に帰ると興奮しながら姉に話しかけた。

「お姉さん、お姉さん」
「どうしたの? 琴音」
「学校からの帰り道に野原があるでしょ」
「うん」
「そこに、カッコいい人がいて、私のことを可愛いって言ってくれたの!」
「本当かな? からかわれたんじゃない?」
「ちがうわよ。だって、私を肩の上に乗せようとしてくれたの。川崎さんという人だったの。とてもカッコいい人だったな。今日は学校の先生に怒られたけど、いい日だったな!」
「もしかして、琴音はその人に一目惚れかな?」
「うん!」
「いいな、私も好きな人ができたらな……」

そこに二人の母親が現れた。

「そうよ、水江、あなたもいい年頃だから、早くいい人をみつけなさい」
「そうね、お母さん……」

水江はうらやましかった。
自分は社会人なのに恋人一人どころか好きな人もいなかったからだ。

水江は港町の工場で働いていた。
不器用な方で仕事もあまり出来る方ではなかったが、一生懸命に働いていた。
 

2年程働いていたが、仕事が遅いばかりに工場の班長からしばしば怒られて、自分の能力のなさを悲しく思う日もあった。
しかし、器量の良さに加えて思いやりがあり優しかったため、同僚たちからは人気が高かった。

それは突然だった。
工場長が新入社員を紹介するために工場に訪れた。
新入社員の名は渡辺と紹介され、長身で恰好がよかった。

「みんな、紹介する。今日から、新しく働くことになった、渡辺君だ。よろしく頼む」
「はい、工場長」
「彼女は我が工場の唯一の花である、桑山水江さんだ。間違っても手を出さないようにな」
「はい」

工場内に笑い声が響いた。

「そういえば、渡辺君の年はいくつかね?」
「24歳です」
「水江さんが20歳か、年も近いから、交際でもすればどうかね?」
「工場長、さっき、手を出さないようにと言ったのに……」
「冗談だよ。渡辺君、君もまだ若いな」

「よろしくね、水江さん」
「はい、渡辺さん」
「工場長もああ言っていたからな、おじさん連中は先に帰るとするか」
「そうだな」

「もう、からかわないでください」
「おじさん達の優しさだと思え」

水江は恥ずかしくてたまらなかった。
小さな声で渡辺に話した。

「ごめんなさい。渡辺さん、気にしないでくださいね」
「大丈夫だよ、水江さんはここで働き始めて長いのかな?」
「いえ、まだ、二年ほどの経験です。でも、仕事にミスが多くて班長からいつも叱られてばかりです」
「大丈夫だよ。何事も経験だよ。水江さんは何か趣味があるのかな?」
「趣味ではありませんが、海を見に行くのが好きです」
「じゃあ、今度、一緒に行こうか?」
「はい。楽しみです」
「班長達が帰ったら、僕達も帰ろう」
「はい」

それから数日が過ぎた、仕事も出来て、時々、水江の書類作成を手伝ってくれていた。
そのようなこともあって、水江は渡辺に次第に心を許すようになっていった。

ある日のこと、工場長は歳の近い二人に気をつかってのことか、同僚達に今日は仕事を早く終えるように伝え、同僚たちは足早に帰っていった。

「渡辺さん、気にしないでくださいね」
「ああ、大丈夫だよ。班長達が帰ったら、僕達もすぐ帰ろう」
「大丈夫ですか? 仕事の方はどうするのですか?」
「明日、なんとかするから。僕はこういうことは得意なんだ」
「そうなんですか」
「よし、帰ろう、水江さん」
「はい」

水江はうれしくてたまらなかった。
帰る際のことだった、工場は老朽化していた。
水江は渡辺に足元を気をつけるように言った途端の出来事だった。

「渡辺さん、階段がありますから足元を気をつけて下さ……あ……」
「あ、水江さん」
「痛い……」

水江が階段から足を踏み外した。

「水江さん、大丈夫? ちょっと、足を見せて。足を捻挫したかもしれない。歩けるかな……?」
「痛いです……」
「大丈夫?」
「はい……あ、痛い……」
「ほら、僕の肩に寄り添って、支えてあげるから」
「ごめんなさい」
「気にしなくていいよ」
「はい……」

水江は恥ずかしかったが、一人では歩けなかったので、渡辺の好意に甘える事にしたのだった。

「大丈夫だよ。家まで送っていくから」
「ありがとうございます」

肩を組み、歩幅を合わせながら、水江の家へ向かうと、途中、夕日に染まる野原が目の前に広がった。

「渡辺さん、疲れないですか?」
「そうだね、水江さんも疲れただろうから、そこの野原で休もう」
「ごめんなさい……」
「いいよ、それより、夕日がきれいだね」

野原の向こうには大きな夕日が美しく輝いていた。そして、二人を優しく包んでいた。

「本当ですね。そういえば、妹の話ですが、ここで素敵な男性と話をしたと言っていました」
「そうなんだね。僕は素敵な男性ではないのかな?」
「いえ、渡辺さんが夕日に覆われています……」
「じゃあ、僕の顔がはっきり見えないじゃないか」
「いえ、私にははっきりと見えます」
「ハンサムかな?」
「それは秘密です……」
「そうか、それじゃ家まで一緒に帰ろう」
「ありがとうございます……」

水江は恥ずかしくてたまらなかった。それは渡辺も同様だった。
水江の家に到着した。

「家はここかな?」
「はい。今日はありがとうございました」
「気にしなくていいよ。それじゃ」

水江は自宅に帰り着いた。渡辺から送ってもらえて嬉しかったのである。

「ただいま。あ、痛い……」
「大丈夫? お姉さん。どこか怪我したの?」
「工場の階段から落ちて捻挫したみたい。でもね、素敵な方が肩を組んで家まで送ってくれたのよ。新しく工場で働くことになった人で、渡辺さんという方なの」
「わあ、いいな。お姉さん」
「確か、琴音も野原でカッコいい人とお話をしたのよね。私も、その方と野原でしばらく休んで話をしたの。琴音が話をしたのは確か、川崎さんという方だったよね」
「そうよ!」

琴音はなぜか、家にオルガンがあったことを思い出し、水江に気になることを相談したのだ。

「お姉さん、そういえば私の家にはオルガンがあるでしょ。私はオルガンが弾きたくて」
「そうね、お父さんが高いのにせっかく買ってくれたからね」
「うん。お姉さん、誰か教えてくれる人がいないかな?」
「学校の先生が教えてくれるでしょ?」
「私はあの先生は大っ嫌いなの!」
「そうなの?」
「うん、いやらしい目で私のことを見てくるの……」
「それじゃ、上達しないし、一人で練習はできないでしょ」
「う~ん、でもオルガンを弾きたいな」
「誰か教えてくれる人がいればいいのにね」
「うん」

優しく、時は流れ始めた。
夕日は、二人の恋の始まりを静かに照らしていた。