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「妙楽大師」後閑 英雄
 
小説仏教シリーズ19
「妙楽大師」
後閑 英雄
小説仏教シリーズ第2弾 9
ハードカバー
第三文明社
定価780円
269ページ
昭和50年9月30日 初版発行
 
2015年 平成27年 11月30日 読了
 
★ ★ ★
 
【目次】
江南の春
金華山
処士服のままで
楊貴妃と安禄山
叛乱の日
詔勅
嵐の音
 
あとがき
 
★ ★ ★
 
インドに発した仏教思潮はシルクロードを通って中国に伝えられ、日本にまで流れ着いた。このシリーズはインド・中国・日本で仏教流布に活躍した名僧・高僧等の苦悶と求道の生涯を人間のドラマとして描いたものである。
文明の破局的様相の現代に新たな人間の生き方を示すものといえよう。
(シリーズの特色)
 
西紀711年中国の荊渓に生まれた湛然(たんねん)――妙楽は、20歳にして天台の奥義を学び、後に理の一念三千の深義を明かす。
兵乱、飢餓の中での唐代仏教者の求道の生涯を描く。
(出版社の案内文より)
 
★ ★ ★
 
小説仏教シリーズ第19巻、「妙楽大師」。
 
難解な天台教義を整理し、天台宗の復興に尽力する生涯を描いています。
 
「一念三千」という言葉も妙楽大師が作ったもので、どう説明すれば万人が理解しやすいかを考え抜いたうえでの造語だったようです。
 
単なる学者ではなく、民衆救済を根本にした仏教教義の探求心であったということに、大きな感銘を受けます。
 
ただ、時代背景や説明に多くのページがさかれており、伝記としては面白みに欠ける本でした。
 
以下、ポイントメモです。
 
●迦葉、阿難といった大菩薩でさえできないという末法での弘法をする、十大弟子なんかよりよほど優れた菩薩にお会いしたい。
そして、機根が悪い衆生を救う、力のある大法を聞きたいという、末法を慕う気持ちが強くなる湛然(P46)
 
●天台大師は、「実相」というものを、なぜか回りくどい説明をして、その証得したものを、一言で明確にしていないような気がしてならない(P57)
 
●仏法の悟りは学問や研究をつみ重ねていって、そののちに到達するというものではない。直達正観といい、円頓止観という言葉は、一瞬のうちに最深奥に秘められた実相を悟達しうることを示している。
それを可能にするのは、信力、行力であり、それは学問によって一歩一歩心理に近づいていくのとは、まったく次元の違う方法論であるといえよう(P117)
 
●欲界の頂上が、他者を支配して、思うままに動かしたいという欲望である(P153)
 
湛然は、新しい言葉を思い切って使いながら、講説を進めていった。一念三千という言葉も、天台大師の説に対して、彼がそう名づけたものであった(P173)
 
●末法の時代に生まれ合わせることを願いながらも、自分の使命を自覚する湛然(P187)
 
●人の行動はすべて、己心の中に行ずる法門を説いていると言うこともできる--湛然はそんなことを考えた。
その法門を、奥底の一念といってもいいだろう。それが、すべての振る舞いを決定していく。
表面をとりつくろってみたところで、また偽善を行ったところで、いつかは説己心中所行法門があわられてくる(P205)
 
湛然は、人間の美しい行為も醜い行為もともに、容認したいような気持ちにかられることがあった(P206)