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龍樹菩薩池田 得太郎
 
小説仏教シリーズ14
龍樹菩薩
池田 得太郎
小説仏教シリーズ2弾 4
ハードカバー
第三文明社
定価780
278ページ
昭和491215日 初版発行
 
2015年 平成27年 57日 読了
 
★ ★ ★
 
【目次】
混沌の芽
心の旅
出家
いばらの道
サンガ
ヒマラヤの峯
大河
無量の珠
故郷
闘いの道
華開く国
 
あとがき
 
★ ★ ★
 
インドに発した仏教思潮はシルクロードを通って中国に伝えられ、日本にまで流れ着いた。このシリーズはインド・中国・日本で仏教流布に活躍した名僧・高僧等の苦悶と求道の生涯を人間のドラマとして描いたものである。
文明の破局的様相の現代に新たな人間の生き方を示すものといえよう。
(シリーズの特色)
 
若き日の挫折を機に出家し、大乗仏法の真実を求めてインドを遍歴した大論師ナーガールジュナの苦悶と激闘の生涯を描く
(帯より)
 
南インドの名家に生まれたナーガールジュナ(龍樹)は、青春時代の挫折を機に出家し、大乗仏教の論師となっていった。
その求道の生涯を気鋭の新進作家が描く。
(出版社の案内文より)
 
★ ★ ★
 
小説仏教シリーズ第14巻、「龍樹菩薩」。
 
膨大な著作を残し、後の大乗系仏教に大きな影響を与え、「大乗八宗の祖」といわれた龍樹の伝記です。
 
「空」の理論などが有名ですが、本書では、教義的な解説はひかえ、目の前の苦しむ人を、いかにして救っていくかという、龍樹の苦悩と葛藤を中心に描かれています。
 
仏法の教義を求めるのも、苦しむ人を救うための模索であって、学問的な空理空論を徹底して嫌った龍樹の生き方に、共感を覚えます。
 
また、王であれ、盗賊であれ、平等に接した龍樹の生き方が生き生きと描かれており、「人は、このように生きろ」という、著者の強いメッセージを感じます。
 
以下、ポイントメモです。
 
六師外道の教え(P44)
 
●出家シタナーガールジュナ(P75)
 
●リグ・ヴェーダなどの、どこか抽象化された文章にくらべると、ブッダのそれは、生ぐさいまでに人間的であった(P89)
 
●民衆を救うことを忘れたサンガの出家者たち(P121)
 
●悩み苦しむ人を救うために仏法を求めることを誓う(P133)
 
●仏陀はなぜ方等部を30年もかけて説いたのか(P171)
 
●「仏」とは、おのが身であることをを悟る(P187)
 
●法華経にめぐり合い、全てが仏であることを悟る(P193)
 
●「空」の概念について(P212)
 
●ナーガールジュナと盗賊のやりとり(P223)
 
●この世でもっともいけないのは、人間に善なるものがないと思い込ませることだ。
人間を卑屈にさせ、絶望させ、なるようにしかならぬと思い込ませる思想ほど、結果として悪を咲かせるものはない。
人間の尊さと申しても、この一点を深く納得させることに尽きよう。もろもろの律法がよからぬのは、その根底に人間は悪だとの絶望があるからだ。
それよりも、人間の悪と、現実の汚れを認めて、よしそこから人間の尊さを発掘しようとなされたのが、ブッダであろう(P229)
 
●ナーガールジュナが恐れたのは、無慈悲ということであった。人間の救済を忘れて、仏法を権威の手段にしてしまうことであった(P259)
 
●法華経に地涌の菩薩が妙法の流布を誓う場面があるが、ナーガルジュナはこの人びとの群れも、人間群の下方、つまり民衆の大地からの出現とうけとめていた。
上から降りてくる形ではない。下からスクラムを組んで躍り出てくるイメージであった(P265)
 
●ナーガールジュナの中論により、生命の実体は、後に中国にわたって、天台大師が一瞬の生命を三千の範疇に抽象して完成させている。
要は、ブッダの法華経にしろ、ナーガールジュナの空観にしろ、人間と世界を貫く生命の実在を示そうとしたものにちがいなかった(P270)
 
●人間は決してこの世に苦しむために生まれたのではない。てこでもゆるがぬ幸福を生命に満喫するために生まれたのである。
一切の制度も、一切の現象も、一人の人間の幸福を創るべく、けんめいに律動している。
この律動に共鳴して、生きることに歓びを感じた境地、これを仏ともいい、常住の説法ともいう、とナーガールジュナは語った(P275)