およそ2,500年前、インドの地で仏教をおこし広めたブッダ。ブッダは人生につきまとう苦しみを見つめ、悟りを開きました。
ブッダ本人が語った教えが収められている『真理のことば』。人生を襲うさまざまな苦しみに、人はどう立ち向かって生きていけばよいのか。ブッダのことばからその答えを探ります。
【100分DE名著】
ブッダ『真理のことば』①
生きることは苦しみである
解説:佐々木 閑(しずか)さん(仏教学者•花園大学教授)
生きることは苦しみである
- 『真理のことば』=ダンマパダ(パーリ語)=法句経(ほっくぎょう)
- ブッダが弟子たちのために説いた悟りへの道を423の詩にまとめたもの
苦しみには2つある
- 避け難(がた)い苦しみ(例:震災など)
- 人間の心が生み出す苦しみ(例:ダイエットの苦しみなど)
ブッダは、避け難い苦しみをどのように考えていたのか
『パターチャーラーの物語』
大富豪の娘だったパターチャーラーは、身分の低い召使いと駆け落ちし、流れ着いた土地で子どもを産みました。2人目の子どもを身ごもった時、母が恋しくなり実家へ帰ろうとしました。しかしその当日、夫がヘビに噛(か)まれて死んでしまいます。不幸は続きました。生まれたばかりの赤ん坊を鷹(たか)にさらわれ、上の子も川で溺(おぼ)れて死んでしまったのです。パターチャーラーは嘆き悲しみました。その悲しみは正気を失うほどでした。さらに豪雨で実家も流され、パターチャーラーは天涯(てんがい)孤独になってしまいます。
* * *
そんな彼女にブッダが声をかけました。
「案じることはありません。この生死(しょうじ)の輪廻(りんね)においてあなたのように子どもをなくして嘆き悲しむ人々の涙は四大海(しだいかい)の水より多いのです。命を絶つ必要はありません。生き方を変えなさい。」
* * *
パターチャーラーはブッダの教えに従って出家し尼となり、最期は本当の安穏(あんのん)と幸せの中で一生を終えました。
ブッダが説いた生き方とは?
ものごとには発生と消滅がある
ということを理解せずに
百年生きるよりも
発生と消滅の原則を
見通しながら
一日生きる方がすぐれている
(真理のことば 113)
※ すぐれている=安楽である
諸行無常(しょぎょうむじょう)
- 永遠に変わらず存在するものはない
- 「苦しみ」を受け止め自分を変える
諸行無常を知って生きよ
仏と法と僧に帰依(きえ)する者は
四つの聖なる真理
すなわち「苦」と
「苦の発生原因」と
「苦の超越」と
「苦の終息へとつながる八つの聖なる道」とを
正しい智慧によって見る
(真理のことば 190ー191)
※ 仏と法と僧=仏教
※ 帰依(きえ)=信じてすがる
ブッダが説いた四つの真理とは?
四聖諦(ししょうたい)
- 苦諦(くたい)⇒世の中は「苦しみ」で満ちている
- 集諦(じったい)⇒「苦しみ」の原因は煩悩である
- 滅諦(めったい)⇒煩悩を消したときに「苦しみ」が消える
- 道諦(どうたい)⇒「苦」を消すための実践の道
実践の道には八つの道がある
八正道(はっしょうどう)
- 正見(しょうけん)=正しい知見(ものごとのありさまを正しく見ること)
- 正思惟(しょうしゆい)=正しい考え(論理的思考)
- 正語(しょうご)=正しい言葉
- 正業(しょうごう)=正しい行為
- 正命(しょうみょう)=正しい生活
- 正精進(しょうしょうじん)=正しい努力
- 正念(しょうねん)=正しい思念(正しい気持ちをいつも念頭に置く)
- 正定(しょうじょう)=正しい瞑想
日常の中で正しく見ることをトレーニングする
自我を見つめたブッダ
苦しみの原因を追究し解決する方法を説いたブッダ。ブッダはどのようにして悟りの境地に至ったのでしょうか。
長い修行が終わり悟りを開いたブッダは大変な喜びを感じました。
私は、苦しみの基盤である
「自分」という家の作り手を
探し求めて、幾度も生死(しょうじ)を
「自分」という家の作り手を
探し求めて、幾度も生死(しょうじ)を
繰り返す輪廻(りんね)の中を
得るものもなくさまよい続けた
何度も何度も繰り返される生(しょう)は
苦しみである
だが家の作り手よ
お前は見られたのだ
もう二度と家を作ることはできない
その垂木(たるき)はすべて折れ、棟木(むなぎ)は崩れた
心はもはや消滅転変することなく
渇愛(かつあい)の終息へと到達したのだ
得るものもなくさまよい続けた
何度も何度も繰り返される生(しょう)は
苦しみである
だが家の作り手よ
お前は見られたのだ
もう二度と家を作ることはできない
その垂木(たるき)はすべて折れ、棟木(むなぎ)は崩れた
心はもはや消滅転変することなく
渇愛(かつあい)の終息へと到達したのだ
(真理のことば 153ー154)
- 「家」=自我の世界、自分の基準で見て作り上げてしまった虚構の世界、誤った自我意識
- 「私」という世界はないことに気がついたことで「苦しみ」が消える