姫路の救急医療を守る市条例試案 その10
医療と介護の問題に取り組む地域リーダーの会

 13年前に出版された本で“とっさの時に人を救えるか ――災害救急最前線――”橋爪誠著(中央労働災害防止協会発行 中災防新書)を再び読み直した。再び読み直して、再び思ったことは、地震列島に住む住人の必読書であることです。
 何が書かれているのか?
26p~最初の救急対応には、勇気がいる
 ・・・災害時や緊急の事態が発生した時に、負傷した人を最初に見たあなた方一人ひとりが、そのとっさの時に、どうすればよいのか、誰かが意識を失って倒れている場面に遭遇した時、どうすればよいのか。今後、そのような場面に出会った時のために、日頃より何を準備しておくべきか。何を知り、何を身につけておくべきなのかを中心にお話ししたいと思います
 また、社会は、われわれ市民のためにどのような仕組みを用意しているのか、簡単にご説明したいと思っています、これは、ともに社会の一員として生きていくために、社会の仕組みをどう受け入れなければならないのかを知っておく必要があるからです。例えば、集団災害の場合には、優先順位(トリアージ=患者選別)がつけられ、助かる見込みのある緊急度の高い人から応急処置がなされるからです。
 救急医療の最初の対応は、人を愛する気持ち、入の命の尊さを知り、勇気を持った者でなければ決してできるものではありません。この勇気は、前もって備えなくしては身につくものではありません。なぜなら、一刻を争う時に、これからお話しすることをあなた自身ができるかがかが、人の命を左右するからです。
・・・
 災害とはどのような事態が起きた時のことだろうか?
28p・・・「災害」とは、被災地の対応能力をはるかに超えた人と環境との広範な生態系の破壊を指します。重大かつ急激な出来事が発生し、人間とそれを取り巻く環境との広範な破壊の結果、被災地域がその対応に非常な努力を必要とし、時には、外部や国際的な援助を必要とする程の大規模な非常事態のことを災害というのです。
・・・
 今回の熊本地震でも分かるように、大規模な災害では道路が寸断され、被害も広範囲に渡り、被害者の数も多くなれば、専門家による救命救急措置を受けることや、病院への搬送には時間がかかる。
 自分が被災現場に居て、怪我をすることもなく元気な状態であれば、何ができるのだろうか?その時、人を救うことはできるだろうか?また、心構えはどうあるべきなのか?
41p・・・阪神・淡路大震災の時に明らかになったように、平時からの防災訓練が極めて大切です。特に、災害などが発生した時に、自分が何をしたらよいのか、何かできるのか、平時より役割分担を決めてはっきりさせておくと、比較的あわてずに、目的をしっかり持って行動することができます。災害に対する準備とは、まさに、その時に、自分は何をすればよいのか、どう行動すればよいのかを理解することです。
・・・
 本書を読みながら、皆さんにも考えてもらいたい。
本のカバーと著者略歴を添付しておきます。

本書の第7章 瓦礫の下の医療 102pの、次のような記述に注目してもらいたい。

○ ヘリコプターの活用を図り、ヘリポートは、病院も被災する可能性があるため、屋上より地上に設置する。

姫路に計画されている新県立病院では、ヘリポートは屋上となっている。
資料2を添付したので見てほしい。
資料にはこう書かれている。

2 新病院におけるヘリポート整備(委員会意見案)
(1)周辺の騒音対策、敷地面積の有効活用の観点から、新病院においては、ヘリポートは屋上設置を検討することが望ましい。

 新県立病院は姫路の医療の中心になる病院として計画されている。当然、災害時にも災害医療の中心となる病院であるはずです。ヘリポートは屋上であってはならない。
 病院計画が狭い土地に無理やりに建築されることに、ここにも疑問が生じる。何故に病院を中心とした、22haの再開発計画がある広畑に病院を建てないのかが、私には理解できない。広畑再開発地は、病院計画が進められている駅東の土地の7倍もあり、山陽電車の駅の前に広がる広々とした土地です。何故に駄目なのか、どの資料を見ても説得力がない。ヘリポート問題は病院計画を根本から問い直さなければならないことのようにも思える。

・・・・・

姫路の救急医療を守る市条例を策定するための条例思案10

【10】重症の救急患者を収容する医療機関はその不採算性のために維持が困難であり、財政的なバックアップが必要。

 1997年12月11目、厚生省健康政策局発表の救急医療体制基本問題検討会報告書では、「救急医療は“医”の原点であり、かつ、すべての国民が生命保持の最終的な拠り所としている根源的医療と位置づけられる」と述べられている。
 救急医療は「健康的で文化的な」生活に欠かすことができない社会基盤である。国民が「いつでも、どこでも、だれでも」適切な救急医療を受けられることを望むのは当然であり、すぐれた救急医療サービスを実現するうえで、枠組みづくりにおける行政の役割と責任は大きい。
 救急医療が“医”の原点であるのなら、救急医療政策が医療政策の原点ということにもなる。「目の前で苦しんでいる患者さんの求めに応じて、適切な医療を提供する」ことが“医”の原点ならば、苦しんでいる患者を一人でも多く救いたいとの使命感から、過酷な勤務状況に苦しんでいる救急現場の医師がいたのなら、その求めに応じて、適切な政策を提供することが医療政策の責務だと、私には思える。患者と医師の傷病に立ち向かう協働作業を支えるのが医療政策の原点であるだろう。

 6年前に出版された“医療改革をどう実現すべきか”という書籍がある。ハーバード大教授陣が著したもので日本経済新聞出版社から出ている。最後に「なぜ改革に挑むのか」という項目がある。答えは参加者それぞれの個人的価値観次第であるが、いくつかの考え方が述べられている。
 第1に、健康というのは、社会のすべての構成員にとって機会と幸福の両面において真に重要な要素である。したがって、健康状態の改善のために働く者は、ほとんどどのような倫理的観点からも真に重要な仕事をしていることになる。同じことは、大きな不安や喪失をもたらすことの多い病気の経済的リスクから個人を守る取り組みについてもいえる。
 第2に、私たちの倫理観からは、そうした利益を社会的弱者に提供することは、とりわけ喫緊の課題であり称賛に値する仕事である。発展し続ける現代医学へのアクセスを改善させれば、数十億人とまではいかなくても数百万人の人類の命を政うことができるかもしれない。  略
 第3に、医療改革は、困難でフラストレーションがたまるものではあるが、知性、エネルギー、情熱そして批判的思考によって大きな貢献ができる舞台であると私たちは信じている。医療改革は、分析力、対人能力、創造性、目的意識など人間の様々な側面を必要とする領域である。それには、政治、経済から文化的な要素、生物学的過程や哲学的信念まで、人間生活の様々な側面を理解する必要がある。
 医療改革はリーダーシップや職人的技術を発揮する機会、そして真に価値のある仕事をする機会を提供してくれる。 略

「健康状態の改善のために働く者は、ほとんどどのような倫理的観点からも真に重要な仕事をしている」「人々の命を救うことができるかもしれない」「真に価値のある仕事をする機会を提供してくれる」医療と介護の問題に取り組む地域リーダーの会は本書から多くのことを学んでいる。

医療改革とはどのような社会を作りたいのかを体系的にとらえる作業である。






姫路の救急医療を守る市条例試案 その9
医療と介護の問題に取り組む地域リーダーの会

 巷にリーダー論は山積みになっている。私はリーダー論の全てを知っているわけではないが、“医療と介護の問題に取り組む地域リーダーの会”のリーダー論はドラッカーの言うこの二文字に尽きる。【貢献】。
 「成果をあげるには、自らの果たすべき貢献を考えなければならない。手元の仕事から顔を上げ目標に目を向ける。組織の成果に影響を与える貢献は何かを問う。そして責任を中心に据える」(『経営者の条件』)
 「自らの果たすべき貢献は何かという問いからスタートするとき、人は自由となる。責任をもつがゆえに自由となる。」(『明日を支配するもの』)
 「自らの果たすべき貢献を考えることが、知識から行動への起点となる。問題は、何に貢献したいかではない。何に貢献せよと言われたかでもない。何に貢献すべきかである」(『明日を支配するもの』)
 ノウレッジ・ワーカー(知識労働者)の多くは自らの意思で組織や集団に参加している。自ら考え、組織に対して最も付加価値を高め、自分の強みを活かして貢献する。このような知識労働者をドラッカーは単なる従業員ではなくボランティアとして扱わなければならないと言っている。
 知識労働者とは、どのような存在なのだろうか?
 「現代社会の生産手段を保有しているのは、資本家でも経営者でもない。知識・情報・技術・ノウハウ・スキル・・・・が今日の生産手段であるのだから、ノウレッジ・ワーカー(知識労働者)こそが所有者だ、ということを肝に銘じて対応しなければならないとドラッカーは鋭く指摘する。」“ドラッカーのリーダー思考”小林薫著(青春出版)
 同書より・・・・・
 ドラッカーは、こうしたボランティア的社員をマネジメントするには、上に立つマネジャー自身の頭を相当切り替えない限り成果はあがらないとして、単なる昔ながらの権限移譲(デリゲイション)を大きく超えたエンパワーメント(自主判断の尊重)が不可欠であることを強調する。
 エンパワーメントとは、権限移譲と異なり、任せるだけでなくて、どちらに決めるかを迷ったときには担当者が自主的に判断し、それを上司が信頼するものであるとして、「ボランティアマネジメント」のコツと難しさを説くのである。
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 私はこのような「ボランティアマネジメント」のコツと難しさに対応するマネジメントとして、サーバントリーダーシップが適当なのではないかと考えています。
 サーバントリーダーシップを手っ取り早く知るには“NPO法日本サーバントリーダーシップ協会”のホームページを見てほしい。
 ホームページでの説明。
 支配型リーダーシップの反対が、サーバントリーダーシップです。サーバントリーダーシップは、ロバート・グリーンリーフ(1904~1990)が1970年に提唱した「リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」というリーダーシップ哲学です。
サーバントリーダーは、奉仕や支援を通じて、周囲から信頼を得て、主体的に協力してもらえる状況を作り出します。
 とある。そして、
サーバントリーダーシップの10の特性とは
傾聴
 相手が望んでいることを聞き出すために、まずは話をしっかり聞き、どうすれば役に立てるかを考える。また自分の内なる声に対しても耳を傾ける。
共感
 相手の立場に立って相手の気持ちを理解する。人は不完全であることを前提に立ち相手をどんな時も受け入れる。
癒し
 相手の心を無傷の状態にして、本来の力を取り戻させる。組織や集団においては、欠けている力を補い合えるようにする。
気づき
 鋭敏な知覚により、物事のありのままに見る。自分に対しても相手に対しても気づきを得ることが出来る。相手に気づきを与えることができる。
納得
 相手とコンセンサスを得ながら納得を促すことができる。権限に依らず、服従を強要しない。
概念化
 大きな夢やビジョナリーなコンセプトを持ち、それを相手に伝えることができる。
先見力
 現在の出来事を過去の出来事と照らし合わせ、そこから直感的に将来の出来事を予想できる。
執事役
 自分が利益を得ることよりも、相手に利益を与えることに喜びを感じる。一歩引くことを心得ている。
人々の成長への関与
 仲間の成長を促すことに深くコミットしている。一人ひとりが秘めている力や価値に気づいている。
コミュニティづくり
 愛情と癒しで満ちていて、人々が大きく成長できるコミュニティを創り出す。
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となっている。

「貢献を活かすサーバントリーダーシップに欠かせないものが、謙虚に問いかける技術」ということになります。
 
医療政策集中講義〔編 東京大学公共政策大学院 医学政策教育・研究ユニット 医学書院〕の最後の論文で、サーバントリーダーシップを紹介されている髙本眞一先生が二つの表を示されているので紹介したい。
 表4-3 戦略的思考(リーダーの責任)
 表4-4 情動知能(感性を含んだ知性)の要素

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姫路の救急医療を守る市条例を策定するための条例試案9

【9】高齢者施設による利用者の救急医療情報キット作成を義務化する。

救急搬送率は65歳から急上昇している。団塊の世代が75歳以上になる2025年には、高齢者への救命救急医療の対策が適切に行われていなければ、救命救急センター本来の責務が果たせなくなる危険性が高い。高齢者救急患者への対応が急がれる。
 様々な取り組みが必要とされるが、救急医療情報キットの活用を提言したい。将来的には病院などをLANやインターネット回線などのICTを用いた救急医療情報の機能強化(ハード)・共有(ソフト)を充実させる仕組みが必要だが、整備されるに至っても救急医療情報キットの活用を最大限に推し進めて、少しでも救急医療体制の安定化を図るべきだと考える。
 高齢者施設などに入所中の超高齢者の病状の悪化(意識障害、呼吸不全、胸痛など)といった、救命救急センターヘの収容要請をしてくる事例が増えている。これらの患者の対応については、その施設の提携病院あるいは協力病院が診療する本来のシステムが構築されていなければならない。
 がん末期の患者でかかりつけの医療機関がある場合や、寝たきりの高齢者(老人病院や施設に入院・入所している患者)などの場合、状態が悪化することは予測可能なことであり、本来それは通常の医療の中で対応すべきものです。今後、地域包括ケアシステムの整備が進み、在宅医療を推進した場合、在宅医療を24時間365目に支援できる在宅医療後方支援病院の充実がなければ、救急搬送が増えるのは当然となる。姫路においては在宅後方支援病院の充実を図るとともに、高齢者救急医療の見直しとルール作成が医師会を中心とした医療施設群にも求められる。
 それらの問題と併せて、大きな問題になっていることは、営利法人が経営するサ高住を中心に増加する老人施設はおのずと同施設の入居者に対する急病等急変時の対応はできないため、救急搬送依頼を増加させていることである。救命救急を高齢者の看取りの場とする状況は、医療現場を一層疲弊させることになっていくこともあって、高齢者施設への救急要請のあり方の指導が行なわれなければならない。その指導は、高齢者福祉施設入居者は入居時点で個別に搬送先を決めておく、(A号室の方は・・病院、B号室の方は××病院といった)ものをも求められます。そのような対応が困難な施設においては、行政が努力を求めて、援助していく必要があるが、現時点では最低限の責務として、高齢者施設には救急医療情報キットの利用者への作成を義務づけることが求められる。
 (看護、医学的管理下における介護及び機能訓練などが行われている施設においても同様)
 救急医療情報キットについて
 【高齢者や障害者などの安全・安心を確保するため、かかりつけ医や持病などの医療情報や、薬剤情報提供書(写し)、診察券(写し)、健康保険証(写し)、本人の写真などの情報を専用の容器に入れ、居住地に保管しておくことで、万一の救急時に備えます。
 持病や服薬等の医療情報を確認することで、適切で迅速な処置が行えること、また緊急連絡先の把握により救急情報シートにない情報の収集や親族などのいち早い協力が得られます。】
 医師会・かかりつけ医の積極的な働きかけによる救急医療情報キットの普及率の向上や適切な情報の更新も必要。行政機関においては医療機関による更新の努力を支援するための措置が求められる。自治会等での啓発活動も含め、地域全体での取り組みが地域の救急医療の命運を分けることになる。







姫路の救急医療を守る市条例試案 その8
医療と介護の問題に取り組む地域リーダーの会

 先月の末に転倒して怪我をしてからは体調も悪く、気持ちも優れません。“すぐ勝てる!右四間飛車”という本を読んでパソコンと将棋をしたりしていましたが、3勝30敗で、これも気分転換にはならなかった。怪我は癒えてきましたが、頭がフラフラするので、気分は晴れない。以前から読んでおきたいと思っていた“生死学”の本を手に取ったが、字が小さくて目が痛くなってくる。4年程前に買ってはいたものの、まだ読んでいなかった、少し字が大きめのエドガー・H・シャインの“問いかける技術”(英治出版)を読んでみた。これが面白くて、ほんの少し気分が前向きになってきました。

 124pにこんな記述がありました。
・・・
 世界は今、技術がますます複雑化し、人々が互いに依存するようになり、社会が文化的に多様化している。このことは、人間関係の構築が仕事を進めるうえでますます重要になってきたことを意味すると同時に、人間関係を築くこと自体が以前よりも難しくなっていることも意味する。円滑なコミュニケーションをおこなうためには、人間関係が重要な役割をはたす。課題を遂行するためには、コミュニケーションが円滑におこなわれていることが肝要だ。良好な人間関係を維持するためには、「今ここで必要な謙虚さ」を軸として相手に「謙虚に問いかける」ことが、かぎとなる。
・・・
 140pにはこのような説明もある。
・・・
社会学の分野では、人々が体験するあらゆる人間関係について、それらを分類するさまざまな方法論が提案されてきた。「謙虚に問いかける」を理解するためには、特に用具的関係と表出的関係を区別して考えるとわかりやすい。用具的関係とは、一方が他方から得たいものが明確にある場合を指す。表出的関係とは、関係者の一方または両方が互いに好感を持ち始め、相手との付き合いを深めたいという個人的なニーズに突き動かされる場合だ。
 これらをもっと簡潔に表現するために、私は「課題指向の関係」と「人間指向の関係」という言い方をする。
・・・
 
 私は医療と介護の問題に取り組んでいるので、日頃から医療者や議員や行政関係者と話すことが多い。そこで、いつも感じることがあります。医師は医師的な発想があり、行政には行政的な発想があり、議員には議員的な発想がある。特に、その世界で優秀な人ほどその傾向が強い。その傾向は年々はっきりとしてきているように感じられる。本書の一文を読んで思わず、ポンと膝を叩いた。「技術がますます複雑化し、人々が互いに依存するようになり、社会が文化的に多様化している。」
なるほど、そうなんだよな。
 医療の世界は急速に高度化し、医師も勉強に没頭しなければ新しい技術から取り残される。行政は住民の多様化する価値観に、戸惑いを見せながらも対応の努力に暇がない。議員は複雑化する社会への理解は欠かせない。仕事を真面目に考える人ほど、社会を総合的にとらえることの困難さに気が付いている。したがって、人々は互いに依存する関係を大切にしなければならないことを知り、関係性のあり方に敏感になっている。この時代が抱える問題は、もはや個人の能力では解決することが出来なくなっているのです。問題解決にはチームで取り組む。そして、そのチーム力を如何に高めるかが、求められる時代になっている。
 「人間指向の関係」に鈍感で、時代を読めない上司がいると、スタッフの苦労は人一倍となる。解けないパズルに悩まされることになってしまう。自分が無能なリーダーにならないために、この一冊は読んでおきたいものです。謙虚に問いかけることが出来るリーダーには、そのチームに大きな成果が約束される。
 医療政策集中講義〔編 東京大学公共政策大学院 医療政策・研究ユニット〕医学書院、には添付したような「戦略プラン策定シート」「医療を動かすイメージ」「医療改革実現プランおロジックモデル」という図があります。とても、面白く参考になりますが、このような取り組みの前提には、「謙虚に問いかける」ことが求められる。
 “問いかける技術”178p
・・・人間が論理的に結論を導き出す能力には限界があり、その精度は根拠として採用したデータの質によって決まるという点を、早い段階から認識しておくべきだということである。「謙虚に問いかける」は、データを集める一つの信頼に足る方法である。・・・

 
・・・・・

姫路の救急医療を守る市条例を策定するための条例試案8

【8】救命救急センターの空床確保を容易にするために、後方病院の確保を行政の立場からも整備する。

 東京都医師会救急委員会委員長、医療法人社団誠和会白扇橋病院院長・石原哲医師の平成20年に“救急医療改革”(東京法令出版)で掲載された論文の一部に以下のように述べられている箇所があった。
・・・
 大都市東京都は昼間人目と夜間人口に極端な差があり、救急患者発生数を算定したところ、必要医療機関数は232施設となった。また、過去の救急搬送受け入れ病院の実態を調査した。413の救急告示医療機関のうち、年間500台以上の救急車を受け入れている医療機関は239施設で、全救急患者の93.5%となっていた。入院患者数の発生理論値からは250病院で必要病床は各2.7床となった。その結果、新たな二次救急医療体制の要件を、固定制・通年制とし、24時間体制で必ず診察し、必要な検査等ができる体制が必要で、救急ベッドとして毎日最低3床確保しておくこと等が要件となった。この基準に従って二次保健医療圈単位に過去の救急車搬入実績等を基準に病院選定を行い、278医療機関が選定された。3科対応病院・2科対応病院・単科対応病院と各地域の実状を踏まえた体制となり、各医療圈単位においても適正な配置となり、地区医師会に周知連携をとり、全国に先駆け固定通年制とした二次救急医療新体制のもと、病院選定の迅速化を図り、都民や救急隊にも分かりやすい「休日・全夜間救急診療事業」を平成11年4月から運用開始した。救急車の受け入れ状況も良好となり、病院選定がスムーズに行われ、全国平均が延長されている中、病院到着時聞か27.3分から26.7分と、約1分短縮された。
・・・

 このような取り組みがあって、約1分短縮された、とある。この1分をどう見るのか。1分ぐらいならしなくてもよい取り組みなのか、1分また1分と短縮への取り組みを積み重ねていくことが重要だと考えるのか、地域の医療対策の根本的な姿勢が問われる。ドイツでは州法で、州民には15分以内に治療が行われなければならないとする15分ルールがある。姫路では救急隊による受け入れ交渉を5回以上要した事案は平成27年1年間で960件あったという。たとえ1分でも、たとえ1件でも減らしていくことが必要ではないのだろうか。

 上記“救急医療改革”論文集には『広島市における病院群輪番制の経緯一特に臓器別診療科の導入を中心に-』という論文もあり、おわりに、ではこう書かれている。
・・・
 最後に極めて重い問題を提起しておきたい。すなわち、死亡者数は、2025年に現在の約1.5倍156万人に増加すると推計され、それは高齢者の増加による。救急の現場でも高齢者の増加は既に現実であり、更に加速される。医療者は最善の医療を提供することが使命であり、この理想の追求には、今以上の大幅なマンパワー、コストの投入が不可欠である。尊厳ある死の問題も避けられない。医療が経済的制約を有している以上、国民はどこまで社会保障としての基盤整備を望むのか極めて重大な決断を迫られている。
 我々医療者は、国民的合意形成のために、正しく情報を発信する責任がある。
・・・

正しく発信された情報は、正しく受けとられなければならない。







姫路の救急医療を守る市条例試案 その7
医療と介護の問題に取り組む地域リーダーの会

医療政策集中講義からの二つ目の表です。
 表2-2 患者・住民アドボカシーの6つの特性
1.課題発見力
 医療提供者や政策立案者などが、気づかなかったり、看過したりしていることを社会課題として掘り起こすチカラです。
2.ドリーミング力
 理想の姿を描くチカラです。漸進的な変化ではなく、抜本的で大きな変化を求めます。目標もストレッチ(小さな向上でなく大きな向上を求めること)します。それが、チャレンジカを生みます。
3.チャレンジ力
 タブー視されていること、政策立案者や医療提供者が無理とあきらめがちな大きな改革に取り組める。それは、後の連結力や社会共感創造力があるからです。
4.成果執着力
 対策や施策という問題解決の手段を打っただけで気を緩めません。その結束とし、患者にとっての生命や健康状態、生活の質(QOL)、生活の安心や満足などの「アウトカム(成果)」が向上することを求めます。
5.連結力
 政治家、行政、医療提供者、企業、メディアなどの異なる立場との対話や協働の場を設定したり、つなぎ役になることができます。
6.社会共感創造力
 病気と向き合う患者さんや害を受けた患者さんが表に出て経験を話すこと、自己の利益でなく他の患者さんや社会のことを思った、アドボケートの利他的で自己犠牲的な行動は、社会の共感を生み、メディアの報道を誘発し、他のステークホルダーを動かす原動力となりえます、

出典:日本医療政策機構市民医療協議会。患者アドボカシーカレッジ「O-2アドボカシーの果たす役割」

 6つの特性、課題発見力、ドリーミング力、チャレンジ力、成果執着力、連結力、社会共感創造力を身に着けることは大変なことだと思う。
 この6つの特性はどんな組織においても、イノベーションを実現するためには、必要なものだろうと思えます。

○課題発見力
外部環境の変化から、自らの組織の置かれている現在の正確な位置を分析する。何を、如何に、どのように改革するのか、課題を鮮明にしておかなければならない。変革すべき課題がなければ変革の必要もない。
○ドリーミング力
 組織を動かすエンジンは二つ。金と、社会への貢献という意識。特に貢献という使命感と、実現に向けた夢の共有が鍵となる。
○チャレンジ力
人が物事を達成しようとするには、その人を突き動かす動機が必用。冒険家にパッションがあるのと同じで、パッションがなければ冒険家にはならない。
未来組織のリーダーはここを大切にする。PDCAサイクルの全てのプロセスに組織が共有できる動機を大切にする。動機がはっきりしていれば、チャレンジ精神を生む、それを育てることが出来るのかが、リーダーの条件となる。
○成果執着力
 イノベーションとは社会に新たな価値を生み出す作業です。社会にイノベーションをもたらす人は、自らのイノベーションにも成功する。イノベーションは内と外に相互に働き、人を更に自発的な能力の高いイノベーターへと成長させていく。
○連結力
 企画力、調整力、連結力。とかく、変革、改革はいつも困難を伴うものです。安易な妥協は結果的には連結力を弱める。妥協がなさすぎると、調整することが難しい。企画の段階から、対話を重視しておきたい。
○社会共感創造力
 人は社会的な生き物です。人は自らの中に社会があり、社会の中に自らがいる。
 Imagine no possessions
I wonder if you can
No need for greed or hunger
A brotherhood of man
Imagine all the people
Sharing all the world
ジョン・レノンのイマジンの一節です。

・・・・・・・
【7】一次・二次・三次という重症度による医療供給体制のみならず、脳卒中、虚血性心疾患や、精神科救急を含めて、病態別のネットワークを広域で構築する。

 製鉄記念広畑病院の姫路救命救急センターは兵庫県・姫路市の要請と姫路市医師会の推薦を受け、2013年3月に「製鉄記念広畑病院姫路救命救急センター」を開設した。兵庫県においては初めての民間病院併設型の救命救急センターとなる。救急医療の分野においては姫路市の準市民病院として、中・西播磨の救命救急センターの役割を担っている。
 病院ホームページではER型の救命救急センターとして紹介されている。
 受け入れ対象患者は以下のようになっている。
・ 厚生労働省の定める基準に従い、重篤あるいは緊急度の高い患者を優先して受け入れる。(呼吸・循環・意識に異常があり、迅速な治療を要する場合や多発外傷・薬物中毒などの外因性患者など)
  →厚生労働省が作成した重篤救急患者の基準 (PDFファイル72KB)
・ センターの救急外来や入院病棟の状況により受け入れ可能な場合は中等症以下の患者も受け入れる。
・ 地域内で発生した収容困難患者は可能な範囲で受け入れる。
・ 中長期的にマンパワーが確保され、診療体制が整備されれば、軽症救急患者・多数の独歩来院も多数受け入れられる事を目指す。

以上

 マンパワーが確保されれば、本来のER型救命救急センターが約束されている。
 救急医療センターとしてER型救急が全国各地で運用されてきているが、各地共通する最大の問題は医師の確保である。従来の集中治療に特化した救命救急科の医師養成とは異なり、総合診療科的な医療知識・技術を備えた医師が必要となる。しかし、ER型救急に必要な医師の養成が進んでいない。建設が予定されている新県立病院においても、ER型救急の医師の確保については不安が付きまとう。
 救命救急センターの医師が24時間365日での勤務をすることを想定して、必要な医師の救はどのようになるだろうか。常時1名の医師を配置すると、その適正な勤務時間を勘案すると、5名の医師が必要となる。すなわち、常時3名の医師を配置するならば、15名の医師が必要となる。
 広畑病院の姫路救命救急センターの医師はH28年1月末時点で7名(循環器科を兼ねている医師がいるため、実質6名)。必要なマンパワーに9名足りないことになる。救命救急センター長の中村雅彦医師は、本年1月14日に市議会会議室で行われた市議会議員対象の救急医療勉強会で「救命救急センターに15名の医師が揃うと、姫路の救急医療問題の大半の課題が解決される」と言われた。姫路が抱える問題も、全国各地の最大の問題も同じところにあった。医師を確保することが緊急を要する最大の課題であったのだ。医師を確保する地域ぐるみの取り組みを最優先することを前提に、ER型救急施設への過度の患者の集中と救急車搬入を緩和するには、二次輪番制病院群とのダブルラインが妥当な供給体制と言える。
 しかし二次輪番制にも危機が訪れている。軽症患者の不適切な利用をけじめ、医師・看護師・コメディカルの不足と輪番制を担う経済的裏付けが希薄なこと、医師にとっては専門外診療に対するリスクマネジメントから、総合診療科的な夜間診療に対する拒否傾向が強いことなどがある。輪番制維持に様々な取り組みが考えられるが、病態別のネットワークを広域で編成されることでも事態の緩和が多少は図られる。
 いずれにせよ、救急医療体制は、きわめて重要なセーフティーネットとしての社会基盤であって、自治体の総合力が問われているという象徴的な存在となっている。

姫路の救急医療を守る市条例試案 その6
医療と介護の問題に取り組む地域リーダーの会

医療政策集中講義〔編 東京大学公共政策大学院 医学政策教育・研究ユニット 医学書院〕のChapter2 改革の最前線、“Section2 患者・住民主体の医療”地域の医療を最適化するために(論者 埴岡健一)を読んでいて、興味深い二つの表が現れた。2回にわたって紹介したい。

表2-1 患者・住民参画が必要な7つの理由

1.基本的な権利
 日本国憲法にある国民の生存権(第25条)、幸福追求権(第13条)から、一定以上の適切な医療を受ける権利かあると考えられます。
2.医療消費者としてのチェック機能
 保険加入者として保険料を支払って、医療を購入している立場にあります。医療のコンシューマー(消費者)であり、カスタマー(顧客)として、医療の質などをモニターする立場にあります。
3.納税者としてのチェック機能
 医療保険、医療機関の建築整備、医療従事者の育成等、医療には多額の税金が投入されています。納税者として税金が適切に投入され、十分な効果を発揮しでいるかチェックする立場にあります。
4.住民・患者の医療政策策定への参画の責務
 政府の医療計画やその策定ガイドラインに、患者や医療消費者が政策決定プロセスに参加する役割があることが記載されています。
5.社会からの期待
 国民の医療への不満の対象は、医療政策決定プロセスの市民参加の不十分さであり、国民は、医療政策の決定は市民代表・患者代表が主導すべきと考えています.
6.当事者からの参画の希求
 患者団体、患者関係者が政策決定プロセスの全体に参加したいとの強い希望が高まっています.
7.社会にもたらす効用
 患者アドボケートはすでに法律制定、条例制定、施策策定、予算確保、資金集めなどに活躍し、社会に成果と効用をもたらしています。

出典:日本医療政策機構市民医療協議会。患者アドボカシーカレッジ「O-1アドボカシー(政策変革活動)とは」より一部改変
 アドボカシーとは(政策提言/権利擁護)をすること、する人のことです。
 
私は上記のように考えて活動をしたことがないので、よい勉強になりました。私は姫路の街も人も大嫌いなので、少しでも好きになれるような街にしたい、と思って活動をしているだけです。このように四角四面に考えるケンちゃん(埴岡健一)の、隣に住んでいる彼のお母さんからは、私は未だにタカヨシちゃんと呼ばれています。


姫路の救急医療を守る市条例 を策定するための 条例試案 6

【6】 姫路市救急医療情報センターを設置し、そのデータバンクとしての機能を強化することに努め、かつ登録義務のある実効性のあるものにする。情報センターでのデータは施設名を匿名で開示を行い、データをもとに各病院の救急医療診療部門の連携の在り方について話し合う。

阪神・淡路大震災においては、情報の重要性が認識された。同年3月の「主な教訓」から5月の緊急提言。翌年5月から各災害医療対策事業が進められている。
 情報の重要性から、広域災害救急医療情報システムの整備が進められた。
 災害時、被災地内外の医療機関の情報を共有し、医療関係団体、消防本部、保健所、市町村行政機関が、有効な災害医療対応を実施することを目的として、都道府県が導入している。
 表8-3厚生省による「あり方検討会」では「地域単位での強化」を強調している。ここでいう地域単位とは二次救急医療圈もしくは保健所の所轄管区としており、この単位における情報ネットワークの確立を重視している。
国や県による取り組みはあるが、それを強化する地域単位の取り組みは、残念ながら姫路にはない。情報システムの耐震化が疎かになっていると言わざるを得ない。
 表8-4「局長通知」にも示されているように、救急医療とは一種の危機管理システムであり、災害時の救急医療情報は日常に整備されている救急医療情報システムの充実度に依拠する。したがって、救急医療の現場が求める医療情報の種類や、システムの機能や性能等を調査・検討するとともに、救急医療の実態に即した高度医療情報伝送システムの導入は緊急を要する。
 すでに整備されて使用中の情報インフラである”阪神医療福祉情報ネットワークシステムむこねっと http ://www.mukonet.org/ 等も大いに参考にしなければならない。