姫路の救急医療を守る市条例試案 その8
医療と介護の問題に取り組む地域リーダーの会

 先月の末に転倒して怪我をしてからは体調も悪く、気持ちも優れません。“すぐ勝てる!右四間飛車”という本を読んでパソコンと将棋をしたりしていましたが、3勝30敗で、これも気分転換にはならなかった。怪我は癒えてきましたが、頭がフラフラするので、気分は晴れない。以前から読んでおきたいと思っていた“生死学”の本を手に取ったが、字が小さくて目が痛くなってくる。4年程前に買ってはいたものの、まだ読んでいなかった、少し字が大きめのエドガー・H・シャインの“問いかける技術”(英治出版)を読んでみた。これが面白くて、ほんの少し気分が前向きになってきました。

 124pにこんな記述がありました。
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 世界は今、技術がますます複雑化し、人々が互いに依存するようになり、社会が文化的に多様化している。このことは、人間関係の構築が仕事を進めるうえでますます重要になってきたことを意味すると同時に、人間関係を築くこと自体が以前よりも難しくなっていることも意味する。円滑なコミュニケーションをおこなうためには、人間関係が重要な役割をはたす。課題を遂行するためには、コミュニケーションが円滑におこなわれていることが肝要だ。良好な人間関係を維持するためには、「今ここで必要な謙虚さ」を軸として相手に「謙虚に問いかける」ことが、かぎとなる。
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 140pにはこのような説明もある。
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社会学の分野では、人々が体験するあらゆる人間関係について、それらを分類するさまざまな方法論が提案されてきた。「謙虚に問いかける」を理解するためには、特に用具的関係と表出的関係を区別して考えるとわかりやすい。用具的関係とは、一方が他方から得たいものが明確にある場合を指す。表出的関係とは、関係者の一方または両方が互いに好感を持ち始め、相手との付き合いを深めたいという個人的なニーズに突き動かされる場合だ。
 これらをもっと簡潔に表現するために、私は「課題指向の関係」と「人間指向の関係」という言い方をする。
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 私は医療と介護の問題に取り組んでいるので、日頃から医療者や議員や行政関係者と話すことが多い。そこで、いつも感じることがあります。医師は医師的な発想があり、行政には行政的な発想があり、議員には議員的な発想がある。特に、その世界で優秀な人ほどその傾向が強い。その傾向は年々はっきりとしてきているように感じられる。本書の一文を読んで思わず、ポンと膝を叩いた。「技術がますます複雑化し、人々が互いに依存するようになり、社会が文化的に多様化している。」
なるほど、そうなんだよな。
 医療の世界は急速に高度化し、医師も勉強に没頭しなければ新しい技術から取り残される。行政は住民の多様化する価値観に、戸惑いを見せながらも対応の努力に暇がない。議員は複雑化する社会への理解は欠かせない。仕事を真面目に考える人ほど、社会を総合的にとらえることの困難さに気が付いている。したがって、人々は互いに依存する関係を大切にしなければならないことを知り、関係性のあり方に敏感になっている。この時代が抱える問題は、もはや個人の能力では解決することが出来なくなっているのです。問題解決にはチームで取り組む。そして、そのチーム力を如何に高めるかが、求められる時代になっている。
 「人間指向の関係」に鈍感で、時代を読めない上司がいると、スタッフの苦労は人一倍となる。解けないパズルに悩まされることになってしまう。自分が無能なリーダーにならないために、この一冊は読んでおきたいものです。謙虚に問いかけることが出来るリーダーには、そのチームに大きな成果が約束される。
 医療政策集中講義〔編 東京大学公共政策大学院 医療政策・研究ユニット〕医学書院、には添付したような「戦略プラン策定シート」「医療を動かすイメージ」「医療改革実現プランおロジックモデル」という図があります。とても、面白く参考になりますが、このような取り組みの前提には、「謙虚に問いかける」ことが求められる。
 “問いかける技術”178p
・・・人間が論理的に結論を導き出す能力には限界があり、その精度は根拠として採用したデータの質によって決まるという点を、早い段階から認識しておくべきだということである。「謙虚に問いかける」は、データを集める一つの信頼に足る方法である。・・・

 
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姫路の救急医療を守る市条例を策定するための条例試案8

【8】救命救急センターの空床確保を容易にするために、後方病院の確保を行政の立場からも整備する。

 東京都医師会救急委員会委員長、医療法人社団誠和会白扇橋病院院長・石原哲医師の平成20年に“救急医療改革”(東京法令出版)で掲載された論文の一部に以下のように述べられている箇所があった。
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 大都市東京都は昼間人目と夜間人口に極端な差があり、救急患者発生数を算定したところ、必要医療機関数は232施設となった。また、過去の救急搬送受け入れ病院の実態を調査した。413の救急告示医療機関のうち、年間500台以上の救急車を受け入れている医療機関は239施設で、全救急患者の93.5%となっていた。入院患者数の発生理論値からは250病院で必要病床は各2.7床となった。その結果、新たな二次救急医療体制の要件を、固定制・通年制とし、24時間体制で必ず診察し、必要な検査等ができる体制が必要で、救急ベッドとして毎日最低3床確保しておくこと等が要件となった。この基準に従って二次保健医療圈単位に過去の救急車搬入実績等を基準に病院選定を行い、278医療機関が選定された。3科対応病院・2科対応病院・単科対応病院と各地域の実状を踏まえた体制となり、各医療圈単位においても適正な配置となり、地区医師会に周知連携をとり、全国に先駆け固定通年制とした二次救急医療新体制のもと、病院選定の迅速化を図り、都民や救急隊にも分かりやすい「休日・全夜間救急診療事業」を平成11年4月から運用開始した。救急車の受け入れ状況も良好となり、病院選定がスムーズに行われ、全国平均が延長されている中、病院到着時聞か27.3分から26.7分と、約1分短縮された。
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 このような取り組みがあって、約1分短縮された、とある。この1分をどう見るのか。1分ぐらいならしなくてもよい取り組みなのか、1分また1分と短縮への取り組みを積み重ねていくことが重要だと考えるのか、地域の医療対策の根本的な姿勢が問われる。ドイツでは州法で、州民には15分以内に治療が行われなければならないとする15分ルールがある。姫路では救急隊による受け入れ交渉を5回以上要した事案は平成27年1年間で960件あったという。たとえ1分でも、たとえ1件でも減らしていくことが必要ではないのだろうか。

 上記“救急医療改革”論文集には『広島市における病院群輪番制の経緯一特に臓器別診療科の導入を中心に-』という論文もあり、おわりに、ではこう書かれている。
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 最後に極めて重い問題を提起しておきたい。すなわち、死亡者数は、2025年に現在の約1.5倍156万人に増加すると推計され、それは高齢者の増加による。救急の現場でも高齢者の増加は既に現実であり、更に加速される。医療者は最善の医療を提供することが使命であり、この理想の追求には、今以上の大幅なマンパワー、コストの投入が不可欠である。尊厳ある死の問題も避けられない。医療が経済的制約を有している以上、国民はどこまで社会保障としての基盤整備を望むのか極めて重大な決断を迫られている。
 我々医療者は、国民的合意形成のために、正しく情報を発信する責任がある。
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正しく発信された情報は、正しく受けとられなければならない。