最近は年々登校できない学生が増えているようだ。原因は多様だが、ほとんどが


・朝に起きられない

・朝に頭痛腹痛などと体調不良が生じる


ではないか、と思われる。


以前症例で紹介した女生徒はその後も順調に普通の生活ができており、学生生活を十分に満喫しているようだ。


また別の症例で紹介した男子学生は、一旦は症状がほぼ消失していたものの、再度悪化してきたとの連絡で少し方剤を変えて継続中だ。


やはり体質によるものなので一過性の疾患とは異なり、状態が安定している間は減量は可能としても、しばらく漢方薬を継続したほうがいいのだろう。



ここでまた別の症例を…



女子中学生


中1の後半から7時台に腹痛が起こり下痢でトイレに篭るようになった。ほぼ毎朝に発症し、休日は頻度が落ちる。

鼻血がよく出て頭痛はたまに。ガスが多く吐き気なし。緊張しやすく心下痛あり。寝つきが悪い。

胸脇苦満あり、舌は紅色の胖大で舌辺苔なし、怒張あり。

病院では過敏性腸症候群と診断され、吐き気止め・整腸剤・桂枝加芍薬大黄湯を処方されていた。他に抑肝散・芍薬甘草湯の処方履歴があった。

が、残念ながらいずれも効果なし…


上記より登校へのプレッシャーがあると考えて柴胡疎肝湯をメインに2種類お渡し。


2週間後

ガスは少なくなり鼻血が減った。しかし肝腎の腹痛が治まらずレベル7。軟便で腹痛が昼まで続く。お腹がギュルギュル鳴って痛む。

張舌は改善されている。


ここから柴胡剤を何種類か、瀉心湯類さらには釣藤散や半夏厚朴湯など肝をメインとした方剤を試すもののなかなか著効は見られず、腹痛のレベルは減るもののやはり毎日発生するので登校がすんなりいかない。


大事な試験日には麝香製剤を服用してもらうことでなんとか対応できたものの、根本の解決には至らない。


これはいったいどうしたものか。。。

日々悶々と悩みながら通常業務である専門書を読み進めていった。



奔豚気病とは、下焦の気が突然衝脈を伝って上逆する病で、少腹(下腹部)から胸部・咽喉部にかけて発作的に何か塊状の物が衝き上げ、病人は非常な苦痛と恐怖を覚え、一時は死ぬのではないかと思うほどですが、しばらくすると発作は自然に治まり、症状も寛解します。この衝き上げる塊状の物が、囲いの中の子豚が逃げ回って捕えようとしても、真っ直ぐ走ったり、あるいは柵にぶつかったり、また左右に走り回って捕えようがないのに似ているので、奔豚(逃げ奔る豚)と名付けられたといわれています。奔豚気病は一般には単に「奔豚」と呼ばれています。


それに対しての方剤の一つ、苓桂甘棗湯に対しては


下焦の水飲が上逆して奔豚を発する直前の証を述べています。本条の病人は、本来下焦に水飲が停滞していたのが、傷寒の表証に際して発汗させ過ぎたため、心の陽気が損傷され、下焦の水飲を制御できなくなった結果、下焦の水飲が内動して奔豚を発しようとして、その直前にまず動悸を生じたものです。このまま行くと続いて奔豚に至るので、それを回避するためには茯苓桂枝甘草大棗湯で主治します。

茯苓桂枝甘草大棗湯は、茯苓を君薬、桂枝を臣薬として、二薬で心腎の陽気を正常に交通させて、温陽・利水・降逆をはかります。これに佐使薬として甘草と大棗が加わり、脾気を養い、君臣二薬の働きを強化しています。



この書籍は複数回読み通しているので、奔豚という病も、それに対応する方剤も理解しているつもりではあった。 

が!臨床にて教科書通りのまんまで遭遇することはほぼない。



奔豚病とは現代でいうパニック発作に近い感じと理解すればいいと思う。

今回の症例では、臍のあたりが痛み、酷いと吐き気を伴う。これはまさに奔豚状態が起こっており、まだ軽症で吐き気を伴わない状態は「奔豚とならんと欲す」である。


なかなか理解が難しくイメージし難い方剤であるが、これを服用させたところ、朝から登校できるようになり、授業中に痛むことがあるが以前と比べるとかなりマシであるとのこと。継続服用してもらうことで現在は安定して登校できている。



なかなか解決できずこちらとしては本当に頭の痛い症例だったが、なんとか色々なことに間に合ったので胸を撫で下ろしている。これもこじかを信じて通い続けてくれた相談者親子のおかげ。その思いに報いることができてよかった。



こじかんぽう


出典:『金匱要略も読もう』高山宏世