皮膚疾患をしっかり治せることができれば漢方家としては一人前のレベルだ、と何かの本で読んだことがある。


それほど皮膚疾患(特にアトピー性皮膚炎)は治すのに難儀する。


皮膚炎はどのような原因であれ、最終的には痒みという現象に帰結するので、原因を探るのに非常に苦労する。


標治である痒みを抑えることさえできれば、皮膚の色素沈着なんかは容易に改善させることができ、本治として痒みを抑える漢方薬をずっと服用しなくてもいいように、体質改善の漢方薬に変更の段階に進むことができる。


まぁそれも原因次第なのだが…



今回は成功とは言えないが、ちょっと考察すべき症例かあったのでブログ記事にしてみよう。





30代 女性

主訴は身体の痒み


夏から四肢の痒みが発生し、日中は10段階のうち5、夜間は7。冷やすとマシになる皮膚科にてステロイド内服と強めのステロイド塗布薬を処方されるも改善せず。


食生活は揚げ物を好む。患部は毛穴から漏れてきている感じのプツプツ。舌は淡紅色で深い裂紋があるが、これは生まれつきかと思える感じ。

湿熱が皮膚から溢れて痒みを生じていると考え、荊芥連翹湯を処方。


しかし全く改善せず、石膏配合の方がいいのかと越婢加朮湯に変更しても不変。手持ちの知柏地黄丸にて日中の痒みは8→5に改善。夜間には熱感がある。


痒みが強く、実証であることは間違いないと思えるのだが、気分血分双方に熱があると考え、消風散を処方。


これが奏功したようで

日中の痒みはゼロとなり

夜間は少し痒みがあるが範囲が減った。


しかしシャワーや布団に入ると背中や陰部が痒くなる。熱感あり、痒みは強い。

(ちなみにこの当時は12月)


陰部の痒みを主軸として竜胆瀉肝湯をメインに、地竜や腸癰湯をサブにお渡ししても痒みは治らずにひどくなるばかり。


寝る時に痒みが増すので血熱かと思っていたのだが、どうも改善せず。とうとう皮膚科の内服ステロイドで対応し、痒みは消失したようだ。


もう申し訳なさMAXの気持ちなのだが、そのことは棚に上げて、内服ステロイドの常服はオススメしない。(理由は低容量ピルについて以前書いたと思うので割愛)



季節は春に移ろい、相談者久しぶりの来局。


やはり背中とスネが痒くなる。

陰部も痒い。

痒みで目を覚ますことはないが、掻いているようだ。


寝汗や口渇なし。日中は脂ものを食べると痒くなり、夜間の痒みは脂物関係なし。やはり舌は淡紅色、薄白苔。


虚熱ではない。鬱熱でもない。相談者の感覚として、身体の奥底からこみ上げてくる熱感ではないとのことから、血熱でもない。となれば残るは気分湿熱。


そしてこれまでに心や肺に関係する荊芥連翹湯や、肝経に作用する竜胆瀉肝湯でも効果がなかったこと。さらには痒みのメインは陰部、背中、スネ、と太陽膀胱経に沿っていることから、膀胱経の湿熱を除去する五淋散をチョイス。



この結果、五淋散は寝る前のみの服用にも関わらず、痒みのレベル頻度とも著しく低下。


寝ている時に腿からスネに熱感が出ているとのことで、三物黄ごん湯を追加することにより、そちらに対しても改善できた。



手こずりにてこずって、かなり時間をかけてしまった症例である。今回の何が難しかったかというと、舌診からは全くヒントが得られなかったこと。こうも肌と舌がリンクしないとは…(汗

こじかの漢方の腕も昔に比べると上がってるので、ここまで苦労することはそこまでなくなってきているが、このように改善しないと完全自費であることからも、見限られることがままある


相談者が諦めずに続けてもらえるならば、なんとか治すことはできるのだが、なかなかツラいところ。


経絡学は鍼灸の方々からしてみれば基本中の基本なのだろうが、漢方家からすればあまり馴染みのないものなのかもしれない。実際こじかもメチャメチャ詳しい、というわけではない。ただ生薬の帰経などは覚える必要があり、痛みに関してはこの経絡学が重要になってくるので、東洋医学を学ぶ者は敬遠せずに学習しておかないといけない(自戒をこめて)。


あと、陰部は腎経だろう、と言われるかもしれないが、腎虚と膀胱は表裏関係なので、どちらでもいいやとあまり深く考えませんでした。



こじかんぽう