アトピー性皮膚炎は本当に難しい。


漢方を真剣に学ぶことなく、病名診断の漢方書籍を読むと、黄連解毒湯や温清飲などが代表方剤として載せられているが、それらで効果を発揮する場合はほんの一握り。


『自称・基礎理論は叩き込んでいる』自分なので、アトピー性皮膚炎といえども理屈通りにやればなんとか対応できるはず!と考えて頭をひねって処方をこねくり回すも上手くいかないことが続いた。



アトピー性皮膚炎に限らないが、上手く治せないと精神的に参ってくる。

来局時に相談者から「良くなってない」旨の言葉を聞くと、ズーンと心が重くなり、それが数回続いてしびれを切らした相談者が来店されなくなると「あぁ、結局治せんかったんか…」と申し訳ない気持ちになり心がえぐられる。


このような気分を味わわないためには

漢方薬局を辞めるか

なるべく早く治すかのどちらかしかなく

当然後者を選ぶしかない。



何がアトピー性皮膚炎の漢方治療を難しくしているのか。原因は多様であるが、それらは全て痒みという一つの結果に収束することだ。以前は痒みという現象に対してどう分析すべきかを、さまざまな皮膚病の書籍を読むことで理解しようとしても、国内の漢方書籍は自分にとっての良書がなく(読み進めても腑に落ちない)、中国書籍ではアトピー性皮膚炎の本なんてそもそも見つけられなかった。



結局は傷寒論・金匱要略を理解することで、朧げながらアトピー性皮膚炎に対する理解ができ、さらには恩師の御高著


アトピー性皮膚炎を漢方で改善する ~中西医結合和漢薬学によるアトピー性皮膚炎の理論と実践~


を何度も何度も何度も読み返すことで、やっとこさ(完全ではないにしても)理解が深まった。



今では患部を見て触って

熱感や肌のキメ、血色や湿潤感

また痒みの強弱の条件

日中や夜間の痒みの違いetc.

を分析することで『寒熱・虚実・気分血分』のいずれが異常となっているのかを考えて処方を組み立てている。マスタークラスとは言えないまでも、最近の成果はなかなか悪くない。


そして方剤は経過によって変更することが多い。肌は比較的変化が早いのでそれは仕方ないことだろう。ボケーっと同じ処方を続けていると、改善が途中で止まるところか下手すりゃ悪化してしまうので油断しないことが重要だ。



以下の実例をみてみよう。


40代 男性

昔からのアレルギー性鼻炎とアトピー性皮膚炎もち。


病院では抗ヒスタミン薬と塗布薬の処方で、快適な日常とはいかないまでもなんとか対応できていた。


ひょんなことで当店での鼻炎の方剤を服用して即効だったことから、皮膚症状を改善すべく漢方相談をすることに。


アレルギー性鼻炎については、突発的にサラサラ鼻水がとめどなく流れてくる。その時は鼻閉もあり。


アトピー性皮膚炎については、メインは腕と足で、夜勤時や夕方になると痒みが強くなり、寝ている時には本人は意識がないが、家族の話では強く掻いているとのこと。


当時の画像

1枚目の水疱のようなブツブツ部位が特に痒みが強く、2枚目の毛穴の赤みから血分熱を持っていることがうかがえる




以上の状態に対して、肺経の利水剤である越婢加朮湯と三焦を清熱利水する龍胆瀉肝湯、血熱を冷ます地竜エキスで対応した。

(注意:このセットにたどり着くまでには何度か方剤変更をしています。例えば、越婢加朮湯だけでは腕のブツブツが除去できなかったので龍胆瀉肝湯を追加など)


その結果、以下のように改善した。





腕のブツブツは消失し、足の毛穴の赤みも如実に減少。痒みもかなり落ち着き、掻かない時間帯が大幅に増加。

現在は痒みが発生しないように解毒の方剤を防風通聖散に変更し、さらには黒ずみを消し、肌のキメを整えるべく全て前述とは別方剤で対応中である。


ちなみに鼻炎も以前の組み合わせで概ね抑えられていたが、肺気虚を意識して、少しばかり変更してからより効果的になっているようである。

まだまだ完治には遠いが、峠を越したことには違いない。



ここで防風通聖散について。

【漢方×痩せ薬=防風通聖散】の方程式が出来上がってしまっているほど有名なこの方剤。

もともとは身体の表面と内部の解毒を行う『表裏双解剤』なのだが、この『解毒』が独り歩きして痩せ薬に繋がってしまったのだろう。


なるほど以前にアトピー性皮膚炎で防風通聖散をメインにした処方で痒みがほぼ消失し、ついでに体重も減少した相談者がいたが、それは湿熱の蓄積かつ体表の水邪が揃っていた故での処方だった。


この方剤は内部の清熱と解表作用があるのだが、解表作用に関しては麻杏甘石湯作用や荊芥・連翹と清熱薬ばかりなので、アトピー性皮膚炎に対しては発熱による痒みを惹起しないので意外と有用性は高いのかもしれない。


ただしダイエットに関しては【脂肪=痰湿(痰濁)】だと思うので、防風通聖散のように余分な生薬が多数含まれているものよりも、シンプルに祛痰湿剤の服用でも痩せてくるとは思うのだが、どうだろうか。



こじかんぽう