向こうの世界のゼロ進法が身体から離れない

向こうの世界のゼロ進法が身体から離れない

ドールを中心にその他あれやこれやについて。


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少し間が空いてしまいましたが、

朗読会の続きです。

もう初夏ではなくて秋の声を聞く時期ですよね。

 

オスカー・ワイルドの『サロメ』の続きです。

 

では、さつきちゃんお願いします。

 

 

 

エロド:
サロメ、サロメ、おれに踊りを見せてくれ。頼む、踊りを見せてくれ。

今宵はのおれは気がめいって仕方がない。そうだ、ひどく気がめいるのだ。

さっき、ここへ出てきたとき、血に足が滑った、それも不吉な前触れだが、

続いてこの耳に、はっきりとこの耳に、なにか空に羽ばたく音が、途方もなく大きな翼の羽ばたく音がきこえてきた。

それが何を意味するか知らぬ……が、今宵のおれは気がめいって仕方がない。

せめておれに踊りを見せてくれ。踊りを見せてくれ、サロメ、頼む。

踊ってくれたら、なんなりとほしいものをつかわそう。(うむ、踊ってくれさえしたら、サロメ、なんなりとほしいものをつかわすぞ、)

たとえこの国の半ばをと言われようとも。
 

 

 

 

サロメ:
(立ち上がり)本当に、ほしいものはなんでもと、王さま?
 

 

 

 

エロディアス:
踊ってはなりませぬ、サロメ。
 

 

 

 

エロド:
誓うぞ、サロメ。
 

 

 

 

サロメ:
踊りをお見せいたしましょう。王さま。
 

 

 

 

エロド:
しかも、おれは今日まで約束を破ったことがない。誓いをたててみずからそれを破る手合いとは違うのだ。

おれは嘘をつくことを知らぬ。おのれの言葉には奴隷のごとくかしづく、おれの言葉は王の言葉だ。

カパドキア王はいつも嘘をいう。あの男は真の王ではない。卑怯者だ。

それに、おれから金を借りておきながら、返そうとしない。あまつさえ、おれの使者を辱めた。聞きずてならぬ言辞を弄したのだ。

が、やつがローマへ行けば、皇帝が磔にしてくれよう。きっと皇帝はやつを磔になさろう。

たとえそうならずとも、所詮は蛆の餌食となろう。あの預言者がはっきりそう預言している。

さあ!サロメ、なにを待っているのだ?
 

 

 

 

サロメ、七つのヴェイルの踊りを踊る。

 

 

 

 

エロド:
ああ! 見事だった、見事だったな! 見ろ、踊ってくれたぞ、お前の娘は。

来い、サロメ! ここへ、褒美をつかわす。

ああ! おれは舞姫にはいくらでも礼を出すのだ、おれという男はな。ことにお前には、じゅうぶん礼がしたい。

なんなりとお前の望むものをつかわそう。なにがほしいな? 言え。
 

 

 

 

サロメ:
(跪いて)私のほしいものとは、なにとぞお命じくださいますよう、今すぐここへ、銀の大皿にのせて……
 

 

 

 

サロメ:
(立ちあがり)ヨカナーンの首を。
 

 

 

 

エロド:
黙れ。何もいうな……いいか、サロメ、人として、ものの道理をわきまえねばならぬ、そうではないか?

(人はものの道理をわきまえねばなるまい?)おれはこれまでお前に辛う当たったことはない。

いつもお前をかわいがってきたな……たぶん、おれはかはいがりすぎたのだ。

だから、それだけは求めるな。怖ろしい、身の毛もよだつ、そんなもんをほしがるなどと。

もっとも、本気で言うているとは思わない。男の斬り首など、醜悪きわまるものではないか? 

そんなものを娘が見たがることはあるまい。そんなものを眺めて一体なにが楽しいのだ? 楽しいわけがない。

いや、いや、そんなものをお前がほしがるはずはない……

まあ、おれの言うことを聞け。おれはエメラルドを持っている、皇帝の寵臣から贈られた丸い大きなエメラルドだ。

このエメラルドと透して見ると、遠く離れた国々の出来事まで手にとるようにうかがえる。

皇帝自身、競技場へはそれと同じものを持って行かれるとか。が、おれのはそれより大きい。

おれはよく知っている、おれのほうが大きいのだ。それこそ世界で一番大きいエメラルドなのだ。

お前はそれがほしうないか? それを望むがいい、きっとやるぞ。
 

 

 

 

サロメの声:
ああ! あたしはとうとうお前の口に口づけしたよ、ヨカナーン、お前の口に口づけしたよ。

お前の唇はにがい味がする。血の味なのかい、これは?……

いいえ、そうではなくて、たぶんそれは恋の味なのだよ。

恋はにがい味がするとか……でも、それがどうしたのだい?どうしたというのだい? 

あたしはとうとうお前の口に口づけしたよ、ヨカナーン、お前の口に口づけしたのだよ。
 

 

 

 

「それじゃあまたね」

 


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朗読会。オスカー・ワイルドの『サロメ』の続きです。

 

では、さつきちゃんお願いします。

 

 

エロド:
木の実を持って来い。(果物が運ばれる)サロメ、ここへ来て木の実を食べるがよい。

その小さな歯の跡が見たいものだ。ほんの一口でいい、この木の実をかじれ、残りはおれが食べてやる。

サロメ:
今は、なにも食べとうはございませぬ、王さま。

 

 

 

 

エロド:
(エロディアスに)見ろ、よく躾たな、娘を。

エロディアス:
娘と私は、王族の出でございます。

でも、あなたは、おじいさまが駱駝の番人だったとか!それに、盗人でもあったとやら!
 

 

 

 

エロド:
どういうことなのだ、そのヤイロの奇跡というのは?

第一のナザレ人:
ヤイロの娘は死にました。それをその男は生き還らせたのでございます。

 

 

 

 

エロド:
死人を生き還らせるというのか?

第一のナザレ人:
はい、王さま。死人を生き還らせるのでございます。
 

 

 

 

エロド:
とにかくその男を探し出し、おれの命令だと言え、死人を生き還らせることなど、おれは許さぬとな。

水を酒に変える、らい病やみやめくらを癒す……そんなことは、やりたければやるがいい。

一々咎めだてはすまい。事実、らい病を癒してやるのはいいことだからな。

しかし、死人を生き還らせるとなると、おれとしても許してはおけぬ……

死人がこの世にもどって来たら、それこそ恐ろしいことになろう。

 

 

 

エロディアス:
ああ! ああ! それなら、私も見とうございます。

月が血のごとく染まり、星がイチジクの実の、いまだ熟れざるに落つるがごとく落ちてくる、早くその日になればいい。

でも、あの預言者の口のききようときたら、まるで酔いどれ……

本当に、あの声には我慢ができない。あの声だけはいやでございます。黙るようにお命じくださいまし。

 

 

 


エロド:
どうして楽しんではいけないのだ? 

ローマ皇帝が、あおの世界の君主、万物の君主たる皇帝が、このおれをたいそうお引立てくださる。

今日もまた甚だ高価な贈物を届けてくださったところだ。

それに、おれの敵、カパドキア王をローマへお呼びつけになるとのこと。おそらくはローマでやつを磔にしようとのお心であろう。

したいことはなんでもお出来になる、ローマ皇帝ともなればな。いずれにせよ、この世の主なのだからな。

とすれば、いいか、おれには大いに楽しむ権利があるというわけだ。

(そうだ、本当におれは楽しい。きんなに楽しい宵を、おれはついぞ知らぬ。)

この世の何ものもおれの喜びを妨げることは出来ぬのだ。

 

 

 

 

ヨカナーンの声:

その男は、王座についていよう。緋と紫の衣をまとうていよう。その手には贖罪の罪に満ちた黄金の杯を持っていよう。

そうして主なる神の御使いがその男を打ち砕くのだ。

やがて男は蛆の餌食となろう。

 

 


 


エロディアス:

あれはあなたのこと。蛆の餌食になると申しております。

 

 

「次回に続きます。」


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初夏の川で朗読会。

オスカー・ワイルドの『サロメ』の続きです。

では、さつきちゃんお願いします。

 

 

サロメ:
ヨカナーン! あたしはお前の肌がほしくてたまらない。

その肌の白いこと、一度も刈られたことのない野に咲き誇る百合のよう。

山に降り敷いた雪のよう、ユダヤの山々に降り積り、やがてその谷間におりてくる雪のよう。

アラビアの女王の庭に咲く薔薇でさえ、お前の肌のように白くはない。そう、アラビアの女王の庭に咲く薔薇だって、

(香料をとる草花の咲き匂うアラビアの女王の庭だって、)曙の樹々の葉に落ちる日脚だって、大海原に抱かれた月の胸だって……

お前の肌ほど白いものはどこにもありはしない――さあ、お前の肌に触らせておくれ!

 

 

 

 

ヨカナーン:
退れ! バビロンの娘! 女こそ、この世に悪をもたらすもの。

話しかけてはならぬ。聴きたくもない。おれが耳をかたむけるのは、ただ神の御声のみだ。

 

 

 

 

 

サロメ:
お前の肌はいやらしい。レプラの肌のよう。マムシの這った泥の壁、サソリが巣をつくった泥の壁。

それは白く塗った墓、なかは汚いもので一杯。気味の悪い、気味が悪いよ、お前の肌は!

……その髪の毛なのだよ、あたしがほしくてたまらないのは、ヨカナーン。

お前の髪は葡萄の房、エドムの国のエドムの園に実った黒葡萄の房。

それはレバノンの杉、獅子を隠し、昼をはばかる盗人たちをかくまうあのレバノンの大きな杉林。

長い黒い夜だって、月が面を隠し、星も恐れる夜だって、そんなに黒くはない。

森によどむ沈黙の影も、そんなに黒くはない。どこにもありはしない、お前の髪ほど黒いものなんて……

さあ、お前の髪にさわらせておくれ。

 

 

 

 

ヨカナーン:
退れ、ソドムの娘! おれに手を触れてはならぬ。この神の宮居をけがすな。

 

 

 

 

サロメ:
お前の髪の毛は気味がわるい。泥や埃にまみれている。

どう見ても、その額においた茨の冠。どう見ても、その首に巻きついた黒い蛇。

あたしはお前の髪の毛が嫌い……その唇なのだよ、あたしがほしくてたまらないのは、ヨカナーン。

お前の唇は象牙の塔の施した緋色の縞。象牙の刃を入れたザクロの実。

ツロの庭に咲く、薔薇より赤いザクロの花も、お前の唇ほど赤くはない。

王のお着きを知らせたり、敵の汗を冷やしたりする、あの血なまぐさいラッパの一吹きも、そんなに赤くはありはしない。

 

 

 

 

 

サロメ:

お前の唇はもっと赤い、踏みつぶす葡萄の汁に濡れ輝く酒造り娘の足よりも。もっと赤いよ、

祭司の撒いた餌を拾いながら神殿に遊ぶ鳩の足よりも。もっと赤いのだよ、

獅子を殺し、金色に輝く虎の群に会って、その森から出てきた男の足よりも。

お前の唇は、海のたそがれ漁師が見つけて、王様のためにと取り除けておく、あの珊瑚の枝のよう……! 

モアブ人たちがマアブの鉱山で掘り出し、王様が買いあげになる朱のようだよ。

朱を塗り珊瑚の弓筈をつけたペルシア王の弓のよう。どこにもありはしない、お前の唇ほど赤いものなんて……

さあ、お前の口に口づけさせておくれ。

 

 

 

 

ヨカナーン:
不義の子よ、世にお前を救いうるものはただ一人しかおらぬ。

おれの言ったあの男だ。その男を捜し求めるがいい。

いま、その男はガラシヤの海に船をうかべ、弟子たちと話を交わしている。

岸辺に跪き、その名を呼ぶがいい。その男がお前のところへ来たとき、その男は必ず来よう、自分を求める者のもとへは、

そのとき、お前はその足もとにひれ伏し、罪の許しを乞うがいい。

 

 

 

 

エロド:
不思議な月だな、今宵の月は。そうであろう、不思議な月ではないか? 

どう見ても、狂女だな、行くさきざき男を探し求めて歩く狂った女のような。それも、素肌のまま。一糸もまとうておらぬ。

さきほどから雲が衣をかけようとしているのだが、月はそれを避けている。

(われから中空に素肌をさらして。)酔うた女のように雲間を縫うて、よろめいて行く……

きっと男を探し求めているのであろう……酔うた女の足どりのようではないか? まるで狂女のようではないか?

 

 

 

 

エロド:
この男の父親は王だった。おれはそれを追い払った。

そしてその妃をだったこの男の母親を、お前は奴隷にしたのだぞ、エロディアス。

それゆえ、この男は、いはばおれの客人のようなもの。そう思えばこそ、隊長にしてやったのだ。

それを死なせたとは惜しい……それにしても、なぜ死骸をこのままにしておくのだ?どこかへかたづけねばならぬ。

おれは見とうない。……かたづけろ……(死骸が運び去られる)ここは冷たい。風が吹く。風が吹いているのではないか?

 

 

 

 

エロディアス:
いいえ。風など吹いておりませぬ。






エロド:
いや、たしかに吹いている……

それに、なにか空に羽ばたくような音がきこえる、途方もなく大きな翼の羽ばたくような音が。

お前にはあれがきこえぬのか?

 

 

「次回に続きます」


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初夏の川で朗読会。

 

今回はオスカー・ワイルドの『サロメ』です。

 

では、さつきちゃんお願いします。

 

 

 

 

エロディアスの待童:
見ろ、あの月を。不思議な月だな。どう見ても、墓から脱け出して来た女のよう。

まるで死んだ女そっくり。どう見ても、屍をあさり歩く女のよう。

若きシリア人:
まったく不思議だな。小さな王女さながら、黄色いヴェイルに、銀の足。

まさに王女さながらの、その足が小さな白い鳩のよう……

どう見ても、踊っているとしか思われぬ。

エロディアスの待童:
まるで死んだ女のよう。それがまたたいそうにゆっくり動いている。

 

 

 

 

ヨカナーンの声:
おれのあとには、おれより力ある者がやって来よう。おれはその靴の紐を解くにも値せぬ。

その男の来るとき、荒れはてた砂漠も喜びにあふれ、百合のごとく咲き乱れよう。

盲人の目は日の光を仰ぎ、聾者の耳は開かれる……その生まれて程なき嬰児は、龍の洞に手をかけよう、

獅子を、そのたてがみをつかみて、意のままに引廻すであろう。

 

 

 

 

サロメ:
ここの空気のすがすがしいこと! ここなら息がつける! 

あの連中ときては、どうにもやりきれぬ、

愚にもつかぬ儀式をどうのこうのと、たがいにいがみあってばかりいるエルサレム生まれのユダヤ人たち、

浴びるほど酒を飲んでは、それをこぼして床の敷石を汚す野蛮人ども、目を隈どり頬を塗りたくり、

むやみに髪をちぢらせたスミルナ生まれのギリシア人、口数少なく狡猾で、硬玉のような爪を長くのばし、

小豆色のマントを羽織ったエジブト人、それに、残酷で、がさつで、げびた言葉を平気で使うローマ人。

ああ! あたしは嫌い、ローマ人が! ひどく退屈で、そのくせ貴族ぶっているのだもの。

 

 

 

 

第一の兵士:
王女さま、おためとあらば命は惜しみませぬが、その御命令だけはお肯いできませぬ……

いずれにせよ、私どもにそのお言いつけは、御無理にございます。

 

 

 


サロメ:
お前なら、きっとしておくれだろうね、ナラボス? お前なら、きっとしておくれだろうね? 

あたしはいつだってお前に優しくしてあげたもの。そうだろう、お前ならきっとしておくれだろうね? 

一目でいい。あたしは会ってみたい、あの不思議な預言者に。

みんなあの男の話ばかりしている。あたしは何度も耳にしているのだよ、王さままであの男の話をするのを。

どうやら、あの男を恐れておいでらしい、王さまは。(そうとも、たしかに恐れておいでなのだよ)……

お前もそうなのかい、ナラボス、お前までも、あの男を恐れているのかい?
 

 

 

 

若きシリア人:
私は恐れませぬ、王女さま。私は誰も恐れませぬ。

でも、王さまがこの蓋を開けることをかたく禁じておいでなのでございます。

 

 

 

 

サロメ:
お前なら、きっとしておくれだろうよ、ナラボス。

それがお前にはよくわかっているはず、お前ならきっとしておくれだろうよ。

そうしたら明日、神像買いの群る橋の上を吊台に乗って通るとき、きっとお前のほうを見てあげるよ、

モスリンのヴェイルの奥から、お前を見てあげるのだよ、ナラボス。

ごらん、あたしを。ああ!お前にはよくわかっているはず、お前はあたしの願いをかなえてくれるつもりなのだよ。

お前にはよくわかっているのではないかい?……あたしには、それがよくわかっているのだよ。

 

 

 

 

若きシリア人:
預言者を引き出せ……王女サロメさまがお会いになりたいと言われる。
 

 

 

 

ヨカナーン:
その女はどこにいる、腰に飾り帯をつけ、頭に色とりどりの冠をかぶれるシリアの隊長どもに身を委ねし女は? 

どこにいる、きめ美しき麻布とヒヤシンス石を身につけ、金の楯をもち、銀の兜をかぶれる逞しきエジプトの若者たちに身を委ねし女は? 

行きて、その女を穢れし不倫の臥所より起こし、主の道を掃き清める者の言葉を聴けと言え、その罪を悔い改めよと。

悔ゆる心なく、なお醜き所業に耽らうとも、構いはせぬ、ここに来いと言え、裁きの杖はいま主の御手にあるのだ。

 

 

 

 

若きシリア人:
どうぞおひきを、王女さま、たってのお願いでございます。

 

 

 

 

サロメ:
あの眼が、わけても恐ろしい。それは、どう見ても、ツロの壁掛を松明で焼き貫いた黒い穴。

それはまた龍の棲む暗い洞窟、龍がそこに巣をつくるというエジプトの暗い洞窟のよう。

どう見ても、気まぐれな月に掻き乱され暗い湖としか……あの男、まだ話すとお思いかい?
 

 




サロメ:
あたしはあの男をもっと近くで見なければならない。

 

 

「次回に続きます」

 

 

 

 

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