初夏の朗読会 第四章 | 向こうの世界のゼロ進法が身体から離れない

向こうの世界のゼロ進法が身体から離れない

ドールを中心にその他あれやこれやについて。

 

 

少し間が空いてしまいましたが、

朗読会の続きです。

もう初夏ではなくて秋の声を聞く時期ですよね。

 

オスカー・ワイルドの『サロメ』の続きです。

 

では、さつきちゃんお願いします。

 

 

 

エロド:
サロメ、サロメ、おれに踊りを見せてくれ。頼む、踊りを見せてくれ。

今宵はのおれは気がめいって仕方がない。そうだ、ひどく気がめいるのだ。

さっき、ここへ出てきたとき、血に足が滑った、それも不吉な前触れだが、

続いてこの耳に、はっきりとこの耳に、なにか空に羽ばたく音が、途方もなく大きな翼の羽ばたく音がきこえてきた。

それが何を意味するか知らぬ……が、今宵のおれは気がめいって仕方がない。

せめておれに踊りを見せてくれ。踊りを見せてくれ、サロメ、頼む。

踊ってくれたら、なんなりとほしいものをつかわそう。(うむ、踊ってくれさえしたら、サロメ、なんなりとほしいものをつかわすぞ、)

たとえこの国の半ばをと言われようとも。
 

 

 

 

サロメ:
(立ち上がり)本当に、ほしいものはなんでもと、王さま?
 

 

 

 

エロディアス:
踊ってはなりませぬ、サロメ。
 

 

 

 

エロド:
誓うぞ、サロメ。
 

 

 

 

サロメ:
踊りをお見せいたしましょう。王さま。
 

 

 

 

エロド:
しかも、おれは今日まで約束を破ったことがない。誓いをたててみずからそれを破る手合いとは違うのだ。

おれは嘘をつくことを知らぬ。おのれの言葉には奴隷のごとくかしづく、おれの言葉は王の言葉だ。

カパドキア王はいつも嘘をいう。あの男は真の王ではない。卑怯者だ。

それに、おれから金を借りておきながら、返そうとしない。あまつさえ、おれの使者を辱めた。聞きずてならぬ言辞を弄したのだ。

が、やつがローマへ行けば、皇帝が磔にしてくれよう。きっと皇帝はやつを磔になさろう。

たとえそうならずとも、所詮は蛆の餌食となろう。あの預言者がはっきりそう預言している。

さあ!サロメ、なにを待っているのだ?
 

 

 

 

サロメ、七つのヴェイルの踊りを踊る。

 

 

 

 

エロド:
ああ! 見事だった、見事だったな! 見ろ、踊ってくれたぞ、お前の娘は。

来い、サロメ! ここへ、褒美をつかわす。

ああ! おれは舞姫にはいくらでも礼を出すのだ、おれという男はな。ことにお前には、じゅうぶん礼がしたい。

なんなりとお前の望むものをつかわそう。なにがほしいな? 言え。
 

 

 

 

サロメ:
(跪いて)私のほしいものとは、なにとぞお命じくださいますよう、今すぐここへ、銀の大皿にのせて……
 

 

 

 

サロメ:
(立ちあがり)ヨカナーンの首を。
 

 

 

 

エロド:
黙れ。何もいうな……いいか、サロメ、人として、ものの道理をわきまえねばならぬ、そうではないか?

(人はものの道理をわきまえねばなるまい?)おれはこれまでお前に辛う当たったことはない。

いつもお前をかわいがってきたな……たぶん、おれはかはいがりすぎたのだ。

だから、それだけは求めるな。怖ろしい、身の毛もよだつ、そんなもんをほしがるなどと。

もっとも、本気で言うているとは思わない。男の斬り首など、醜悪きわまるものではないか? 

そんなものを娘が見たがることはあるまい。そんなものを眺めて一体なにが楽しいのだ? 楽しいわけがない。

いや、いや、そんなものをお前がほしがるはずはない……

まあ、おれの言うことを聞け。おれはエメラルドを持っている、皇帝の寵臣から贈られた丸い大きなエメラルドだ。

このエメラルドと透して見ると、遠く離れた国々の出来事まで手にとるようにうかがえる。

皇帝自身、競技場へはそれと同じものを持って行かれるとか。が、おれのはそれより大きい。

おれはよく知っている、おれのほうが大きいのだ。それこそ世界で一番大きいエメラルドなのだ。

お前はそれがほしうないか? それを望むがいい、きっとやるぞ。
 

 

 

 

サロメの声:
ああ! あたしはとうとうお前の口に口づけしたよ、ヨカナーン、お前の口に口づけしたよ。

お前の唇はにがい味がする。血の味なのかい、これは?……

いいえ、そうではなくて、たぶんそれは恋の味なのだよ。

恋はにがい味がするとか……でも、それがどうしたのだい?どうしたというのだい? 

あたしはとうとうお前の口に口づけしたよ、ヨカナーン、お前の口に口づけしたのだよ。
 

 

 

 

「それじゃあまたね」