Side−A


4月の始業を前に、俺は新学期の準備と、新入生を迎える準備のため、学校内で忙しくしていた。



昼休憩を一緒に取ろうと、二宮先生に声を掛けた。櫻井くんとのことを話したかった事もあったからだ。


いつものように、理科準備室で三角フラスコでお湯を沸かしながら、話し始めた。



「ようやく、晴れて櫻井くんとお付き合い出来たみたいですね?」

「まぁ…そうなんだけど…ね」


「…その割には、浮かない顔してますけど?」

「やっぱり、ニノには分かるんだ?」


「そりゃあ…ね?まぁ、相葉さんが分かり易いってのもあるけどね?」


分かり易い…か。いつもの俺だったら腹を立てるだろうけど、今日は本音を聞いて欲しいから、思い切って吐き出すことにした。



「ちょっと…怖くなって…。このまま、櫻井くんの時間を奪ってしまって、いいのかな…って」

「時間を奪う?その発想って、何処から来てんの?」


「…初めてだったんだよ、櫻井くん。」

「初めて…って?」


「キスもだけど…誰かと付き合う、とかも…」

「は?キスも?」


「…うん。俺とのが、ファーストキスだったって、言ってた。」

「だから、奪う…か」


「この前、一緒にいて思ったんだ。櫻井くんにはこの先、色んな選択肢が出てくる。女性を選ぶ道もあるんだって…。それなのに、初めてが俺で…。何だか罪悪感みたいなものを感じたっていうか…。俺が櫻井くんの傍に居ても良いんだろうか…って。そう思ったんだ…」

「罪悪感…ねぇ…」


ニノは少しの間、黙っていたけど…


「俺が今まで見てきた櫻井…って、さ。中等部に入りたて頃は、みんなのレベルに追いつこうって、必死になって勉強してたな…。もちろん、女の子と付き合うとか、そんな余裕は全然なくて…。頑張り屋さんで、吸収力が凄くて…。そんな櫻井を慕ってくる仲間が徐々に増えてったんだ」

「……。」


「高等部になって、松本さんが担任だって聞いた時は、物凄く燥いでたなぁ。松本さんは、みんなの憧れの兄貴みたいな存在でね?そんな松本さんに『クラス委員』を任されて、責任感や自信も生まれてきて…。そんな櫻井を、松本さんも頼りにしてた」


ニノは、俺の知らない、中等部から俺がこの学校に来るまでの櫻井くんの話をしてくれた。


「何が言いたいかって言うとね?櫻井には自分の意思がちゃんとあるってこと。だから、相葉さんが櫻井の時間を奪ってるんじゃなくて、櫻井が自分で相葉さんとの時間を選んでるんじゃないの?」


櫻井くんが…自分で選んでる…?


「女の子と付き合うのが良いんなら、とっくにしてると思うけどね?俺は…」

「……そう…かな?」


「いい加減な気持ちでいたら、捨てられるのは相葉さんのほうだよ?」


いい加減じゃな気持ちなんかじゃ、ない。


俺の我儘じゃないのか…。振り回したりしてはいないか…。


いつだって気にしてたんだ。


「言えばいいんだよ、そのまんまの気持ちを。櫻井なら、きっと受け止めてくれると思うよ?」


俺の知らない櫻井くんを知ってるニノの言葉に、俺の迷いは少しずつ消えていったんだ。






…つづく。