Side−A


土曜日…


待ち合わせの場所の公園に、俺が遅れたわけでもないのに、翔ちゃんが先に来ていた。


「いつから来てたの?」って、思わず聞いても…


「少し前から」って、それだけしか言わない。


「もしかして、待たせちゃった?」

「いや、オレが少し早く来ただけだから…」と、譲らない。


いつもより固い表情の翔ちゃんが気になった。


「なんか、怒ってる?俺、なんかやらかしたっけ?あ!それとも、学校でなにかあって…」

「どれも違うよ」って言うと、翔ちゃんはやっと笑った。



「じゃあ、行こうか」って、翔ちゃんが俺の肩に手を回した。


翔ちゃんの体温がほんのり伝わって来て、『ドキドキ』してしまった。


今日は翔ちゃんが車を用意してくれていて、助手席のドアを開けてくれた。



運転席の翔ちゃんに「今日は何処に行きたいの?」と聞かれ


「あ…の、ちょっと遠いんだけど…ネモフィラが見たくて…」


行き先を告げると、翔ちゃんがカーナビに入力してくれた。


「じゃあ、出発しまーす」

「はい、よろしくお願いしまーす」


いつものやり取りをして、車は走り出した。



途中、サービスエリアで休憩を取った時も、翔ちゃんは何となく『ソワソワ』していて…。


「どうかした?」って聞いても

「どうもしないよ?」って、言うだけで…。



目的地に着くと…


「うわぁ…」

「綺麗だな…」


一面ネモフィラの花で埋め尽くされた丘が続いていて、それはもう圧巻としか言いようがなかった。



「ネモフィラの絨毯みたい…」

「うん、凄いね…」


「青い世界に迷い込んだみたい…」

「此処だけ別世界みたいだよね…」


足を進める度に、俺がひと言呟くと、翔ちゃんが言葉を紡ぐ。



段々と人気の無い所に進んでいる気がした。


「此処、人が居ないね?」

「端っこだから、かな…」



翔ちゃんがまた『ソワソワ』し始めた。


「翔ちゃん…?」

「あの…さ?相葉先輩…」


「なんか、いつもの翔ちゃんじゃないなって、思って…」

「あの…取り敢えず、ベンチに座ろっか…?」



促されるまま、ベンチに座った。けど、翔ちゃんは突っ立ったままだ。


「どしたの?座んないの?」


「あの…相葉…雅紀さん」

「うん?はい…何でしょう?」


フルネームで呼ばれるなんて初めてだ。



「オレと…」


『オレと』…なに?



「同じ未来を見ませんか?」


…うん?『同じ未来』?


「あの…この先もずっと…オレと一緒に過ごしてもらえませんか?」


『一緒に過ごす』?


「あぁっ!もうっ!」


俺が返事をしないから、翔ちゃんが苛ついた。


「オレと結婚してください!」


「は?結婚…て」



…えっ、と?


「えっ?えっ?け…結婚?翔ちゃん、俺と結婚したいの?」

「だから…そう言ってるじゃん…」


えっ…と。返事をしなきゃ…だよね?




「あの…ごめん。ちょっとびっくりして…」


俺は深呼吸をして…




翔ちゃんの目を見た。



そして…ゆっくりと言った。




「はい、よろしくお願いします。」


そして…


「幸せに…なろうね」と、翔ちゃんに伝えた。




…つづく。