Side−A
明日は大晦日だという朝。
思い掛けず、貴子姉ちゃんから電話をもらった。
何か良くない事でもあったのかと、心配したのだけれど…
「生徒たちの…こと?」
『そうよ?雅紀くんがなんにも教えてくれないって、潤が拗ねてる。』
「あ…ごめん」
『いいのよ?雅紀くんは今それどころじゃないだろうし、いい加減にしなさいって、言ったんだけどね?どうしても、生徒たちの大学の合否が気になって、仕事が手につかないんだって』
「…そう、なんだ」
『もう教師じゃないんだから、潤が気にしても、どうにか出来るものでもないのにね?』
「…ううん。潤が皆んなのことを気に掛ける気持ち、凄く良く分かる。」
『そうやって、甘やかすから駄目なのよ』
「……そうだね。」
『あ…!ごめんね。私ったら、また雅紀くんにきつい事言って…』
「ううん?俺のほうこそ、ごめんね?いつまでも煮え切らない態度で…」
『仕方ないわよ。潤が頭を冷やさないと、雅紀くんだって先には進めないでしょう?』
「…うん」
『雅紀くんが出そうとしている結論が何なのかは、私にだって分からないことなのに。潤は…』
「なに?」
『…その…言いにくいんだけどね?私が雅紀くんに、潤と別れるように仕向けているんだと思ってるみたいで…。以前潤に、雅紀くんと別れなさいって言ったことを根に持ってるみたいなの。』
「…そのうち、はっきりさせようとは思ってる。」
『…ごめんね?年の瀬にこんな話しか出来なくて…』
「ううん?……分かった。潤に話してみる。」
『……ごめんね?雅紀くん』
「…なに?」
『私が余計な事を言ったばっかりに…』
「貴子姉ちゃんの所為じゃないよ。俺が貴子姉ちゃんの立場だったら、同じ事を言ってると思うし…」
もう、俺の心は決まっていた。その筈なのに、揺らいでしまうのは…
俺にだけ見せる、潤の顔がある。
その顔が、俺の心を捉えて離さない。
貴子姉ちゃんとの話が終わった後、俺は震える指で潤の番号をタップしていた。
…つづく。