Side−A


どうにも納得出来ない俺は、放課後、帰り支度をしている風間くんを呼び止めた。



「櫻井が金髪にピアスにした理由、ですか?」

「うん、何か聞いてない?」


「いや、聞いてません…。けど」

「けど、なに?」


「櫻井って、石橋を叩いてもなかなか渡らない、みたいなところがあるから、何とも言えないんですけど…」 

「…なに?何でも言ってみて?」


「誰かに見せて、その人の反応が知りたかった…とか。でも、男子校なんで、男相手に流石にそれはないかも…。もしかしたら、櫻井の好きな女のコがそういうのが好きで、気を引いてみたくて…とか?」

「櫻井くんて、『好きな女のコ』って…いるの?」


「さぁ…?もしそうなら、共学の学校のコなんじゃないですかねぇ…。あ、でも例え話なんで、的外れなことを言ってるかもしれませんけど。」

「いや…ありがとう。」


「そうだ…。もし『好きな女のコ』がいるとしたら、妻夫木とか隆太に聞くほうがいいですよ?櫻井とは、よくつるんでるし」

「ありがとう、聞いてみるよ」



俺は早速、下校する生徒達の中に、妻夫木くんと佐藤くんを探し出し、呼び止めた。


「櫻井くんが、金髪に染めてピアスをして来た日のことなんだけど、何でそんなことして来たのか、理由を聞いてないかな?」

「理由…か」

「特に…何も聞いてない、よなぁ…?」


「何でもいいんだ。何か話したでしょ?あ…ほら、二人とも櫻井くんとは仲がいいって聞いてるし」

「なんか理由はあるんだろうけど」

「話したくなってからでいいって、オレ櫻井に言っちゃったもんなぁ…」


「…じゃあ、聞いてないんだ?」

「ハイ…」

「…スンマセン、なんの役にも立てなくて」


「いや、いいよ?」



はぁ…振り出しに戻ったか…



やっぱり、二宮先生が言ったように、櫻井くんが潤に会いに行ったことと、関係あるのかなぁ…


俺が社会科準備室に向かっている途中だった。


「相葉先生…」

「うわっ?!な…なにっ?」


後ろから不意に誰かに声を掛けられたから、俺は滑稽なくらい凄く驚いてしまった。それは櫻井くんで、いつものように『相葉』と呼び捨てではなく、確かに『相葉先生』と呼ばれたことにも、俺はかなり動揺していた。


「指定校推薦の試験が、小論文か小作文になるだろうから、用例文をコピーしたのを取りに来いって言ったの、相葉先生じゃないですか」

「あ…あぁ、そうだったね?ちょっと待ってて。いま渡すから、社会科準備室まで一緒に来てくれる?」


社会科準備室でコピーを入れた封筒を櫻井くんに手渡した。

「ありがとうございます。それじゃ、失礼します」

「あ…気をつけて帰ってね」



『もう…忘れてんのかよ…』


…えっ?今のは…櫻井くん?




『忘れてる』って、何のこと…?






…つづく。