Side−A


「珍しいじゃない?相葉さんのほうから此処に来るなんて」


櫻井くんの処分が決まった翌日、俺は二宮先生の居る理科準備室に来ていた。


「なに?なんか相談事でもあるの?」

「実は…」


俺は、二宮先生に櫻井くんが髪を金髪に染め、左耳にピアスをしていたことを話した。


「それなら大野さんから聞いて、俺もびっくりしたんだよ。まさか、あの思慮深い櫻井がそんなことをするとはねぇ…」


一瞬、二宮先生が俺を『じっ』と見たような気がした。


「金髪に染めて、ピアスを開けた理由って、櫻井から聞いてる?」

「生活指導室では『好奇心に駆られて』とは、言ってたけど…」


「それ、髪の毛染めたり、ピアスしたヤツの常套句だってば。そんなの、まともに信じたワケ?」


教頭が訝しげな顔をしていたのは、それが理由だったのか…


「教頭が只の頑固者だと思ったら、大間違いだからね?まぁ、多少はそういうところもあるけどさ…」

「はぁ…。」


「話を戻すね。大野さんも言ってたけど、あの櫻井が単に『好奇心に駆られた』だけで、金髪に染めるとか、ピアスを開けるとか、どうにも結び付かないんだよなぁ…」

「あの、櫻井くんて今迄に、校則違反をした事は…」


「ないよ!さっきも言ったでしょ?思慮深いって。中等部の時なんか、作文が優秀だって表彰されたくらいなんだから。」


…そうなんだ。


「何が櫻井をそうさせたのか…」

「何が櫻井くんを、そうさせた…か」


二宮先生の言葉をなぞるように繰り返しても、一向に埒が明かなくて、場の空気が重くなる。



「と、言うよりも…誰が、櫻井くんをそうさせたか…って考えたほうが、しっくりくるんだよな…」


突然、二宮先生が思いついたように言った。


「『誰が』…ねぇ…」

他に何も思い浮かばない俺は、その言葉にぶら下がるより他にない。


「古株の我々に、今更そんなの見せようとは思わないだろうから…。新参者の相葉さんの反応を見たい、そう思った…とか?」

「えっ…お…俺に?」


「そう考えるのが、自然でしょ?金髪にピアスで登校して来たその日に、社会科準備室に櫻井を呼び出したんじゃなかった?その時なにか話してないの?」

「……あっ!」


「なに?思い出したの?」

「夏休みにちょっとしたことがあって…。詳しくは言えないんだけど…。ピアスを卒業式の日まで預かるって言ったら、そん時にその理由を話すって…」


「それだ…!」

「『それだ』って?…何?」


「その『夏休み』の出来事が関係しているんだよ!」

「そうかなぁ…」


「それじゃあ、他に心当たりある?」

「……ない」


何となく釈然としなかったけど、俺は納得せざるを得なかった。





…つづく。