Side−A
夏休みが終わり、今日から二学期が始まる。
夏休みに入ってからほぼ毎週末は模擬テストがあったので、生徒に会うのが久しぶりということは無かった。
それでも教室のドアを開けると、雰囲気に違和感を覚えた。そう感じたと同時に、俺は生徒一人一人を見回した。
…えっ?!櫻井くん…?だよね?
髪の毛が金髪になってて、左耳にはピアスがある。しかも、浅黒く日焼けまでして。
一先ず出欠を取った後、俺は櫻井くんの席へと近づいた。
「櫻井くん、ピアスは没収するから、外して。」
「……。」
櫻井くんは無言で外した後、俺に手渡してきた。
「あと、髪は黒に戻して。それも明日までに、必ず。」
「……ハイ。」
俺と目を合わせようともせず、不機嫌そうに返事をした。
「それと、昼休憩に社会科準備室まで来ること。昼食を済ませてからで構わないから。」
俺は感情的に見えないように、それでも割と強めな態度で、櫻井くんを少し睨んだ。
「…ハイ。」
自分がしたことは、その場での注意だけでは済まされないことなんだと分かったのか、それとも俺と目を合わせないことは流石に不味いと思ったのか、上目遣いで返事をくれた櫻井くんに、何故だか『ドキドキ』してしまった。
それはきっと、見慣れていた櫻井くんとはまるで違っている風貌の所為だと思った。
…昼休憩。
『コン…コン…コン』
社会科準備室のドアを、遠慮がちにノックする音がした。
『…櫻井です』
「どうぞ、入って…」
「何を言われるのか、大体分かってると思うけど。」
「大学入試がもう目の前なんだよ?今そんなことしてる余裕がどこにある?」
「他の生徒に動揺を与えてもらっては困るんだよ?」
「…なんで?動揺って、誰がするの?」
矢継ぎ早に捲し立てた俺の言葉に、ようやく返ってきた言葉がそれだった。
「櫻井くんは感じていないかも知れないけど、外見がそんなに変わってたら、誰だって困惑するでしょ?」
現に、俺は困惑している。それが櫻井くんに伝わっているのも承知の上で言った。
「ピアスは、卒業式の日に返す。それまでは預かっておくから。それと、櫻井くんにひとつ聞きたいことがある。」
「…何ですか?」
「潤を訪ねて、旅館に行ったよね?なんでなのか、理由を教えて。」
「それ、今言わなきゃ駄目ですか?」
「今言えないのなら、いつだったら言える?」
「卒業式の日。理由はピアスと引き換えに話します。」
「は?なに言ってるの?ちゃんと答えて!」
思わず、声を荒らげてしまった。
「用が終わったんなら、教室に戻ります。」
「待ちなさい!まだ、話は終わってない!」
「…失礼します。」
反抗的な櫻井くんの態度に、俺は少なからずショックを受けていた。
…つづく。