Side−A


「櫻井くん…どうして…?」


『どうして此処に居るの』って、聞こうとした。


「相葉が…二宮先生と一緒に、理科準備室に入って行くのが、見えた…から」


…見てたんだ?俺のこと…


「…ごめん」


なんで…謝るの?


「聞くつもりは…なかったんだけど…」

「なに…を?」


「相葉が二宮先生と…話してたこと、ちょっとだけ…」



それは…潤の電話を着拒したこと?メールも読んでないこと?


別れようとしても、別れられないってこと…?


「相葉…あの…」

「……なに?」



「オレはガキで…頼りなくて…。辛い事とか…そんなのまだ、あんまり経験したことがなくて…。恋愛の経験値とかも、低いし…。」


…櫻井くん?


「それでも…オレを頼って欲しい」


そんな真っ直ぐな目をして見ないでよ…。

俺は、そんなことを言ってもらえる人間じゃない…。


俺は駄目だな。教頭から『生徒には毅然とした態度で接するよう』って、言われたばかりなのに…




「相葉は…触れたら壊れそうなガラス細工みたいで…」


俺は櫻井くんに、そんなふうに見えてるの?


「なんの力にもなれないかもしんない…けど。」

「櫻井く…」


「オレじゃ…駄目なの?」


俺はどう答えればいいんだろう。どう答えるのが正解なんだろう。


「頼るとか、頼らないとかじゃないんだ。櫻井くんは『生徒』だから…」

「『生徒』だから、なに?頼っちゃいけないのかよ!」



「……ごめん。これ以上は言えない。」


櫻井くんがいきなり俺の腕を掴んだ。


「櫻井くん?」



櫻井くんに抱き寄せられ、温かいものが唇に触れた。



それは…ほんの数秒ほどの出来事だったのに…



俺は…一瞬、呼吸を忘れていた。





…つづく。