Side−A


宿酔いなんて、いつぶりだろう…


『これ、しじみ汁。インスタントだけど、効くと思うから…』


二宮先生の『恋人』だという大野さんは、頭痛薬まで用意してくれて、俺は遠慮なくどちらも飲ませてもらった。





「その顔色だと、二宮先生に話を聞いてもらえたんだ?」


社会科準備室で資料の確認をしていた俺の後ろから、櫻井くんが声を掛けてくれた。


「うん、まぁ…ね」

「今日は何を手伝えばいい?」



櫻井くんは相変わらずタメ口で…

でも、それが何となく心地良かった。


「今のところは…無い、かな?」

「そっか…。あれ?昨日と服、おんなじじゃない?」


「実を言うと、昨日は二宮先生と飲みに行ったんだけど、かなり酔ってしまって二宮先生の所に泊めてもらったんだ…。」

「あぁ、それで…」


「そしたら、大野さんて人がいて…」


…しまった!多分これ、言っちゃダメなやつじゃ…


「あぁ、大野先生でしょ?美術の…」

「へっ?」


「ウチの学校の…中等部と高等部の美術を受け持ってる…って。もしかして、気付かなかった?」

「い、いや…あの…」


「まぁ、美術の先生なんて、校内でも滅多に見掛けないもんね?分からなくても無理ないよ。」


背中を冷たい汗が流れた。


「あそこは確か、先生方の寮みたいなアパートだって、まつ…聞いたことがある。かなり古いから、住んでるのは大家さんと、二宮先生と大野先生だけらしいよ?」



『まつ…』って言いかけたのは、『松本先生から聞いた』って言おうとしてたんだろうけど、それを止めたのは俺に気を遣ったんだよね。



…じゃあ、二宮先生の『恋人』って言うのは…



もしかして…嘘?




「あ…!待って?櫻井くん」


俺に背を向け、準備室を出ようとしていた櫻井くんに声を掛けた。


「…なに?」

「その…心配してくれて、ありがとう」


「……い、いや…別に?」


櫻井くんが呟くように言ったのを、俺は聞き逃さなかった。





相葉は、笑ってるのが…似合うから…




…って





…つづく。