Side−S


「櫻井くん、ちょっと…」


名前を呼ばれて振り返ると、そこに居たのは相葉だった。相葉の気まずそうな表情を見て、どうやら人目に付かない所を探した方が良さそうだなと判断したオレは、体育館の裏手へと相葉を誘った。



「こんなこと頼めるの、櫻井くんだけなんだけど…」

「は?」


…いきなり、なんだ?


「その前に聞きたいんだけど。あの…ね?さっき俺が潤に抱きついたとこって…櫻井くんは…」

「見てましたけど?」


「はぁ…見てたんだ…」

何かマズいことでも?


「あのね?さっき、二宮先生に言われたんだけど…」


二宮先生?あぁ、相葉が腕を掴まれて何処かに行ってたのって、お説教かなんか言われてたのか…?


「その…潤と俺って、幼馴染みじゃない?」

「はぁ…そう…聞いてますけど?」


「潤と幼馴染みっていうのは…。俺の母親が、潤の両親の経営してる旅館で仲居をやってた頃から、兄弟みたいに一緒に育ってきたからなんだ。」


…へぇ?

「で?それが…なにか?」

「その…色々と誤解されたら困るって言うか。ほら、保護者さんとか、学校のご近所さんとか…ね?」


多分、相葉は二宮先生から言われたことを、そのままオレに言ってるんだろうな。


「『誤解』って、どういう意味ですか?」

「どういう意味…って、その…潤に抱きついたのは…『弟』を取られたような気がして…。つい、あんな態度を取ったっていうか…」

「『弟』?」


「うん、俺のほうがいっこ上だから…」

「いっこ上?誰が…誰の?」


「だから!俺が…潤の、いっこ上なの!」

「えぇっ?!」


…てっきり、相葉のほうが年下かと思ってた。


「そんなに驚くこと?」

「いや…驚いたっていうか…。あ…話の腰を折るつもりじゃなくて…」


「それでね?その…」

「周りのみんなから、松本先生と『恋人同士』だって誤解される前に、『弟』を取られたみたいな、そういう意味で相葉…先生が松本先生に抱きついたんだって。そう言いたいんだ?」


「そう!それ!」


それこそが、二宮先生の入れ知恵なんだろうけど…。オレの頭の中を、二宮先生が『恋人が知らないオンナを連れて来た、みたいな?』というワードが渦巻いていたから…


「本当に…?松本先生と『恋人』じゃなくて?」

「うん!うん!」


相葉は、嘘が下手だな…。


「それをオレが風間に伝えておけば、後はお喋りな菊池が広めてくれると思うから…」

「うん!うん!」


なんで、そんなに必死なんだよ。それじゃ、松本先生と『恋人』だって言ってるようなもんじゃないか…。


「…分かった。けど、ひとつだけ、条件があります。」

「…な、なに?」


「オレにだけは、本当のことを言って欲しい。」


…あれ?オレは何を言ってるんだ?


「…本当のことだよ?俺と…潤は」


じゃあ何で、相葉はオレの目をちゃんと見ないんだ?


「嘘を言って、苦しくならないの?相葉は」

「…櫻井くん?」


「オレにも言えないことなの?オレって、そんなに信用ない?」


相葉に嘘を言われたくないと思っている自分がいて…




「……ありがとう、櫻井くん。」


それなら、これは本当に二人だけの秘密にしてね?って念を押されて…



「任せとけって…」と、返事をしている自分がいた。








…つづく。