Side−S


…金曜日の放課後。


いよいよ、相葉先生との面談の日だ。


「翔くん、もしかして緊張してる?」


風間がオレの目の前に来て、顔を覗き込んだ。

「…緊張なんか、してねぇし…」

「あれ?そう?その割には、何だかソワソワしてるけど…」


「ソワソワもしてねぇ!」


相葉先生の授業があった初日、コイツは相葉先生の手伝いを買って出た。


「風間こそ、相葉に気に入られてんじゃん…」

「それは、翔くんが相葉先生に冷たい態度を取るから」


「別に…冷たい態度なんて、取ってねぇし…」

「ふぅん?そう…?あ…!それより、知ってる?相葉先生て、松本先生と幼馴染みなんだって!」


「……それが、なに?」


なんで、コイツがそんなこと知ってるんだ?…って、思ったけど、オレは努めて平静を装った。


「相葉先生から直接聞いたんだよ。他のみんなも多分知ってると思うよ?」

「はぁあ?!」


「だって、會澤とか宇草が、面談の時に相葉先生から聞いたって、菊池に話してたもん。」


菊池か…。あいつは直ぐ、あっちこっちに話して回るからな。


それにみんなと言っても、ブッキーと隆太は、噂話には食い付かない。二人ともオレと同じで、本人に直接聞いて確かめる性格だから、仮に菊池から聞いたとしても、菊池の早とちりで、たまに間違った情報が流れることもあるから、あの二人は信じてないかも…。


…それにしても、菊池がオレには言って来なかったのは、どういうことだ?


「翔くんが怖い顔してるからじゃない?菊池くん、言ってたよ。最近の翔くんは、体育の新井先生よりも怖くて、ピリピリしてるって。」

「……!」


「ほら、その顔!眉間にシワ寄せちゃって、若いのに取れなくなったらどうすんの?」

「ほ…放っといてくれ!」


…ったく、相葉がきてからというもの、クラスのみんなは松本先生のことなんか忘れたみたいに、すっかり懐きやがって…


相葉も相葉だ!誰彼見境なしに、『ニコニコ』しやがって、面白くねぇ。



「櫻井、順番来たよ」


出席番号がオレの前の『サク』こと坂倉が、面談の順番がオレに回ってきたと声を掛けてきた。


「聞こえなかった?次、櫻井の番だって」

「…分かった、行くわ」


「櫻井…」

「聞こえてるって!行くから!」


「顔つきが怖くなってる。」

「……。」


『ふにゃ…』


「…ぶっ!!」


坂倉が変顔をして、オレを笑わせた。


「フフ、やっと笑った。」

「う…うっせぇ!」


でも…


「サク…ありがと、行って来るわ。」

「おう!頑張れ!」






…つづく。