Side−S
着任式の後のSHR。教室で新任の相葉先生と対面した。
「改めて、君たちの担任になった、相葉雅紀です。みんなのことはまだ顔と名前が一致しなくてよく分からないけど、少しずつでも覚えていくので、よろしくお願いします。」
…よくある、決まり文句だな。
「それでは、出欠を取ります。…會澤くん」「ハイ!」
「宇草くん」「ハーイ!」
相葉先生は一人ずつ、名前を呼んでは、顔を見て「よろしくね」とか「部活は、なにをやってるの?」とか、声掛けをしてる。
そして、オレの番になり…
「…櫻井くん」
「……ハイ」
「櫻井くんは、クラス委員だったね?色々と頼むこともあると思うけど、よろしくね?」
「……ハイ」
オレのこと、クラス委員だってなんで知ってるんだ?松本先生から聞いてるんだとしたら、なんか不公平な気がする。
『櫻井、なんで不機嫌なんだよ?』
オレの後ろの席の、妻夫木が声を掛けてきた。
『どうせ、1年足らずの付き合いなんだし。そんなに、ニコニコしてられっかよ…』
『確かにそうだけど…』
「櫻井くん、妻夫木くん。私語は慎んでね?」
…ちっ!早速、目を付けられたか。面白くねぇ…。
ひと通り、出欠の確認が終わり…
「今日の3時間目の世界史の授業は、B棟の社会科教室で行います。それと放課後、面談をしたいので…」
は?面談?
「毎日5人ずつ、面談します。今日は出席番号の1番から5番まで。内容は、進路について。一人、10分ないし15分の予定で行いますから、放課後、空けておいてくださいね。」
今日が火曜日だから…。オレは、金曜日か。『進路について』って、何を聞かれるんだろう。
『キンコンカンコーン♪』
1時間目の予鈴が鳴り、相葉先生が教室を出て行った。
「結構、美人さんだったな?」
「年、いくつだろ?」
「俺、聞けばよかったなー!」
相葉先生が居なくなった途端、教室の中が俄に騒がしくなった。
「俺、明日聞いてみよー!」
「おぅ!いいねー!」
「それなら、カノジョ居ますか?とかさー!」
「出たよ!ど定番な質問!」
いつもならきっと、オレもその輪の中に混ざっていたけど…
やっぱり、松本先生の顔がチラついて、どうしてもそんな気分にはなれないでいたんだ。
…つづく。