Side−S


『本宅』の『夫人』の事は、記事にはならなかった。それは、あのフリーライターが、最初から記事にするつもりはなかったと言ったからだ。


『私も…もう年なのかな。他人の不幸を喜べなくなってね。散々、他人を困らせた罰が当たったのかな。気がついたら、周りに誰も居なくなってて…』


智にぃがヒロキさん伝に渡したあの金で、細々と老後を過ごすつもりだと呟いて、オレ達の前から姿を消した。



『夫人』はと言うと、相変わらず斗真さんにベッタリで。だが、『櫻井の父』にしてみれば堪忍袋の緒が切れたのか、表向きは『体調不良』という理由で『夫人』をグループ会社の役員から全て外していた。


それで、ヒロキさんも少しは溜飲が下がったようだ。


「あの人…『櫻井』の…。この先、後悔することって、あるのかな」


『夫人』は雅紀を容赦なく傷付けた張本人なのに、なんでそんなことを言うんだろうか…


「知ったこっちゃ、ねぇわ…」


オレは心底あの女が嫌いだから、どうでも良かった。


「…そう、だよね」


でも、雅紀は違う。自分を傷付けたヤツだろうと、気にしてしまう。その目は、いつも何処か遠くを見ている。


特別養護老人ホームで永遠の別れを目にするからなのか、時折寂しそうな顔をして小さなため息をつく。



「忘れたら、いいよ。」


オレは気休めにもならない言葉を掛けて、後ろ姿の雅紀を腕の中に閉じ込めた。






…つづく。




※次回は最終話になります