Side−S


「…だりぃな」


オレは櫻井翔。とある男子校高等部の三年生。


オレは学校までの道程が、今日はやけに遠くに感じていた。5月連休明けの今日からは、新しい担任が来ることになっている。


一年と二年の時に担任だった松本潤先生が、三年になってもそのまま受け持ってくれてたのに…




4月もあと5日で終わるという時だった。


朝のHRで「松本潤先生は、家庭の事情で急遽お辞めになることになりました。」


教頭の言葉が、まるで時期外れのエイプリルフールみたいに聞こえた。松本先生は三年の新学期初日に「この一年間、みんなで一緒に突っ走ろうな!」なんて笑顔で言ってたのに…


「みんな、ごめんな?卒業まで一緒にいられなくて。」


松本先生の実家が旅館業をやっていることを、オレ達は初めて聞かされた。後を継いでいた松本先生のお姉さんが倒れて入院しまい、退院しても女将を続けることが困難になり…


「オレが実家に戻って、後を継ぐことになったんだ。だから、みんなとはもう一緒に居られなくなってしまった。大学とか専門学校の進路相談にも、乗れなくなってごめんな?」


松本先生とは一回りしか年が違わなかったから、オレは兄貴のように慕っていた。多分、みんなもそうだった筈だ。


松本先生は挨拶の後、クラスの一人一人と握手をして別れを告げた。


その日の午後は緊急の全校集会になり、松本先生の離任式が行われ、否応なしの別れを惜しんだ。



『あんな先生、二人といない』


クラスの誰もがそう思っていても、翌日にはもう松本先生は来ない。


教室に入ると松本先生が居ないことで、どことなく覇気がなかった。松本先生がするはずだった授業は、教頭が代わりにその穴を埋めたけど、行き場のない気持ちまでは、流石に埋められなかった。



そして、5月連休明けの火曜日。


「どんなヤツが来るんだろうな?」

「オンナかな?オトコかな?」

「すっげぇ、ババァだったりして?」


教室の中は、松本先生に代わり新しい担任の先生が決まり、今日から赴任してくるという話で持ち切りだった。


「オレは、どっちでもいいわ。」



朝から全校集会になり、新しい先生が紹介されることになった。


どうせ、一年足らずの担任だ。どんなヤツが来ようとも、オレは絶対心を開いたりしないからな!


『それでは、今日から三年一組の担任になられる先生を紹介します。』


…なんだ?随分と若い男だな。



「皆さん、お早うございます。今日から三年一組の担任になる、相葉雅紀です。科目は社会科で、三年生の世界史の授業を受け持ちますので、よろしくお願いします。」



それが、オレが相葉先生と出会った瞬間だった。





…つづく。