Side−S


「翔ちゃんを怪我させたのは、この人じゃなかったの?」


最初は、あの事故の『事実』を知った雅紀のことを心配していたオレだったけど、今はそれが逆転していた。


「誰なんだよっ!翔ちゃんを怪我させたのはっ!」

雅紀が叫ぶと、泣きながら潤にぃがその体を抱きしめた。


「まぁが怒るのも無理ないけど…」


潤にぃは涙を拭い、重い口を開いた。


「誰が怪我させたのかなんて、調べたところで何も変わらない気がするんだよ。」

「なに、呑気なことを言って…」


怒りの収まらない様子の雅紀を制するように、潤にぃは言葉を続けた。


「まぁの『お父さん』が起こした事故だって、裏で手を回した『権力者』がいたってことは、翔くんを突き飛ばして怪我させた『誰か』も、きっと同じような人なんじゃないかなって…。そんな気がするんだよ。」

「だからって…」


「翔くんが怪我をしたことに変わりない。まぁはそう言いたいんだよね?」

「……分かってんなら」


「オレだって悔しいし、翔くんを突き飛ばしたヤツを見つけて、ぶん殴りたいよ!理不尽だけど…でも、それが現実なんだ。」


雅紀の頬をぽたぽたと涙が傳う。


「雅紀…」


潤にぃが、雅紀のことを『まぁ』ではなく、『雅紀』と呼んだ。


「翔くんの置かれている境遇は、そういうものなんだよ…。それでも…雅紀は翔くんを守りたいって思う?」



雅紀もオレも、潤にぃの言葉を重く受け止めていた。






…つづく。