Side−S


高校生の『相葉雅紀』の姿で、オレの夢の中に現れたマサキ皇子…


それは、夢の中と言うより『虚』の世界、そのもので…


これは…どういうことなんだ?それに、よくよく見ると、ここは『櫻井翔』の寝室だ。



驚いて思わずベッドから飛び起きたオレのことなんか構わずに、雅紀はベッドに腰掛けオレに微笑む。



「翔ちゃんに、会いに来ちゃった…」

「会いに来ちゃったって…」


「だって俺にひと言も言わないで、炎の国に帰っちゃうんだもん。」

「…それは、だな…。マサキの顔を見たら…炎の国に帰れなくなるっていうか…帰りたくなくなるっていうか…」


「それ、どういう意味?」

「そのままの意味だよ。マサキの顔を見たら、ずっと翠の国に居たいって思うし、このままマサキの傍に居たいって思う。でも、オレには炎の国を治めるという責任がある。いつまでも国の民を放っておくわけにもいかない。だから…」


「だから、俺の顔を見ないで国に帰ったって言うの?」

「悪いとは思ったけど…」


「悪いとは思ってるんだ?」

「…うん。それよりも、どうしてオレ達は『虚』の世界にいるんだ?」


「俺が『虚』の世界の『扉』を開けたからだよ?」

「『扉』はオレが閉めたから、『虚』の世界はもう存在しない筈だ。」


「でも、翔ちゃんは『鍵』を掛けなかったでしょ?」

「『鍵』?」


「翔ちゃんは『扉』を閉めただけで、『鍵』を掛けてはいなかった。だから俺はカズナリ皇子に頼んで、『扉』を開けてもらったの。」

「『扉』を開けてもらったって…。それだけでは『虚』の世界に…」


「『虚』の世界には戻れない。そう言いたいの?」

「まぁ…そんなところだ。それより、マサキはどうやってカズナリ皇子が『虚』の世界の創り主だって、知ってたんだ?」

「サク姉さまから聞いたの。」


「サク王女から…?」

「サク姉さまが行方知れずになっていた時期があったでしょ?その時、サク姉さまはカズナリ皇子の所に居たんだよ。」


「…はぁあ?!」

「『虚』の世界のこととか、色々聞いたみたい。カズナリ皇子はサク姉さまに、半分脅されて喋らされた、って言ってたけど…」


『スオウ』として立ち回っていたサク王女の勇姿を思い返せば、「半分脅された」というのも納得出来なくもないが…


「くふふっ…翔ちゃんは、詰めが甘いね。」

「は?」


「『扉』を閉めたくらいじゃ『虚』の世界は失くならないって、カズナリ皇子から聞いてるんじゃなかったの?」

「いいや?聞いてない…。つうか、初耳だぞ?その情報。それに、マサキは記憶が戻ったんなら、『虚』の世界の事も、炎の国での事も全部忘れたんじゃないのか?」


「忘れてたら、カズナリ皇子に『虚』の『扉』を開けてもらえないし、ここにも来られないでしょーよ!」

「わ…分かった。分かったから、怒鳴るのはやめろよ…。じゃあ…カザマが『マサキの記憶が戻った』って、オレに嘘を言ったのか?」


「いや?嘘じゃないよ?」

「じゃあ、なんで…!」


「俺には、翡翠のペンダントがあるのは知ってるよね?記憶が戻っても、ショウ皇子のことも翔ちゃんのことも忘れませんようにって、翡翠のペンダントに願いを込めたんだよ。」

「…そんなことが…出来るのか?」


「サク姉さまの翡翠で波音の幻聴が聞こえたの、もう忘れちゃった?それとも、翔ちゃんのそのクリクリお目々は、信じられないって思ってる?」

「……思ってる。」


「もぉおー!」

「痛い、痛い!叩くのはよせ!」


ポカスカとオレを叩く雅紀の手を止めようとしたら、弾みで雅紀がオレの胸に倒れ込んでしまった。雅紀が『じっ…』と、オレを上目遣いで見てくる。


「…まさ、き。ちょ…ちょっと…近いよ。」


雅紀はその長い両腕をオレの体に絡ませ抱きついてきた。



「ねぇ…翔ちゃん。」

「なん…だよ。」


「大人の勉強をしようって約束、忘れたわけじゃないよね?」

「…えっと…その…それは…だな…って、まさか!」


「そうだよ?そのまさかだよ?俺は翔ちゃんと二人きりで、『大人の勉強』がしたくて…」


そのために、カズナリ皇子にわざわざ『扉』を開けてもらったのか…



「だって…こうでもしないと、翔ちゃんは俺と会ってくれないでしょ?ねぇ…俺に大人の勉強を教えてくれない?」


ずっと、このまま二人でいたいなら、教えてよね…



半ば強制されてる気もするが…


「仕方ないな…教えてやるか…」

雅紀の唇にそっと近づいた。


「あっ…!そうだ!肝心なことを言うの、忘れてた!」



…なんだよ、急に。折角こっちがその気になってたのに…



「あのね?この緑の翡翠のペンダントにおまじないをすると、俺は3分だけオンナになれるの。ねぇ?使ってみる?使ってみたい?どっち?ねぇ、どうしたい?ねぇ、しょおちゃ……うわっ!」


オレは雅紀をベッドに押し倒した。


「黙ってないと、大人の勉強を教えてやんないぞ?」

「……わかった」

『…ちゅ』


不意に雅紀からキスをされ、オレのスイッチが入り…


こういうのも、悪くないな…


このまま…夢から覚めないで、ずっと雅紀と二人だけでいられたら…


このまま、もっと雅紀を知りたい。



このままもっと…




…おしまい



『大人の勉強』をする約束は、ここから

    ↓


このままもっと〜41