Side−S


オレの車のブレーキに細工をしたヤツが、逮捕された。ヤツがコンビニで万引きしたのが、事の発端だった。


コンビニの事務所で店長に詰問され逃げようとした挙げ句、駆け付けた警察官相手に、公務執行妨害の現行犯で逮捕された。


ヤツを雇っていた『お嬢様』は、今度ばかりは流石に手を切り、知らん顔で通していた。


「トカゲの尻尾切りってことですよね?所詮、そんなところですよ。利用するだけ利用して、都合が悪くなれば切り捨てる。『お嬢様』のやりそうなことだ。」


ヒロキさんの言うことにも一理ある。この先オレが『櫻井』に関われば、そういう類の人間に絡まれるんだろうな。


ヤツが逮捕されたことで、当分はオレに手出ししてくる人間はいない。そう思った。



やがてヤツの公判が始まり、オレはヒロキさんと一緒に傍聴席でその過程を見ていた。


ヤツはあっさりと、万引きの事実を認めた上、万引きをした動機は、オレの名前こそ出さなかったが、車のブレーキに細工するように『ある人』から頼まれ、金を貰ったものの、直ぐにギャンブルで使い果たしたからだと言った。


自分から余罪があることを言い出すとは思わなかったが、弁護士はそれを止めようとはしなかった。


おまけに、ブレーキに細工をしたのはこれが初めてではないと言い、今は無職だが自分の元々の職業は『自動車整備士』だと述べた。



『ブレーキに細工をしたのが初めてではない』と聞いても、然程驚かなかったが…


『北見モータース』に在籍した頃に手掛けたのが最初だと聞いた時には、思わずヒロキさんと顔を見合わせた。





…つづく。