ほろ酔い気分の雅紀とタクシーでの帰り道
「この先を左に曲がった所で…」
突然、下りると言った雅紀に続いて、オレもタクシーを下りた。
「翔ちゃんまで、付き合わなくたって良かったのに…」
「いや、いいよ。雅紀と少し歩いてみたかったし…。」
酔い覚ましにもなるだろうと、蕾もまばらな桜並木を二人で歩いた。
「4年になるのか…」
「…そうだね」
『4年』という月日が「もう」なのか「まだ」なのか…
「たまに一緒に仕事してる夢を見たりするの。それが楽しい夢なんだけど…」
夢から覚めてしまうと、それは叶わないことなんだと、現実が冷たく重く伸し掛かってくる。
「前を向くしかないんだけどね…」
心が折れてしまうこともあるだろうに…
その肩に全てを背負い、歯を食いしばり、今日までくぐり抜けて来たであろう雅紀に…
「たまには頼れよ…」
「うん…」
オレの前でだけは、泣いてもいいんだから…
何を言っても、受け止めてやるから…
そっと雅紀の指先に触れると、オレは指を絡めた。
提灯で飾られた桜の枝を揺すり、風が優しく通り過ぎた。
まだ咲いていない筈の、桜の香りを微かに感じ、重なった2つの影で見送った。