Side−A


『コッチ』の世界では、俺の心と体を休ませるために作られたものだということを知ってからというもの…


翔ちゃんの側で眠ると、凄く頭もすっきりした目覚めを迎えるのは、そういう理由だったことがストンと腑に落ちた。



出来れば『夢』の…と言うよりは、『本当』の世界に戻りたくないと思う自分がいて。やっぱり、『虚』である『コッチ』の世界のほうが居心地が良いなと思ってしまう。



何より、『本当』の世界では命を狙われるかも知れないという危機感に晒されている。その運命から逃げてしまいたいと思っていたら…





「マサキの剣には迷いがある。心に迷いがある証だ。」

「オカダどの。俺は怖いと思っては駄目なのでしょうか…」


「二人目だな…」

「…えっ?」


「怖いと思ってはいけないのかと、そう聞いてきたのは、お前で二人目だ。」


…俺の他にも、いたんだ。


「愚問だ。そんな及び腰では、国どころか自分の身すら護れない。」

「……。」


「と言うのは建前だ。怖いと思う事は大事だ。」

「怖いと思う事が大事って、どういう…」


「相手を恐れ、怖がること。それがあれば、隙が出来にくい。逆に、舐めて掛かると命を落としかねない、ということだ。」

「……。」


「戦場ではいつでも気持ちを張り詰めていなければならない。だが、ショウさまは常々、戦のない世の中を作りたいと言っておられた。それは今も変わりない。」


初めて夜伽に臨んだ夜、ショウ皇子が俺に言ってた。


『無益な争いで、尊い民の血を流したくはない。私とて、好き好んで戦をしているわけではないのだ。』

『国と国とが手を取り合って、民がみな平穏な暮らしを送る。それが私の夢でもある。』


ショウ皇子の願いが叶うように、俺も何か手伝えることがあればいいのに…



「……うっ!!」

「如何した?マサキ!」


「頭が…痛い…」


猛烈な頭痛で俺はその場に蹲り、やがて意識を失った。




『マサキ…マサキ…』



誰かが俺の名前を呼ぶ。


優しい声だ…



それが『翔ちゃん』なのか『ショウ皇子』なのか…



今の俺には分からないけど、どちらも俺にとって大切な存在であることには、違いなかった。






…つづく。