Side−S
ドアを開けてしまったことは、迂闊だったとしか、言いようがなかった。
勝手に押し掛けて来た女は、斗真が寄越したヤツで…
「お前、誰だ?」
「斗真のオトモダチ。斗真から頼まれたの。アイツが寂しがってるから、相手をしてやってくれって。」
「別に寂しくなんか…」
「そう?良かったら、あなたもオトモダチにならない?」
『オトモダチ』の意味は、ソイツの胸の大きさを強調した胸元の広く開いてる服を見て、何となく分かった。
「帰れよ…」
「えーっ?今来たばかりなのに?」
『prrr…prrr…』
テーブルに置いていたスマホが着信を知らせている。
運悪く、オレよりもその女のほうがスマホに近かった。
「もしもし?あなた…誰?」
「なんで勝手に、電話出てんだ!もしもしっ!……切られてんじゃねぇかよっ!」
「あら?いけなかったかしら?」
「駄目に決まってんだろうが!」
…くそっ!
「誰からだったの?」
「弟だ…」
「あら?あなたに弟がいるなんて、斗真から聞いてな…」
「出て行ってくれないか!」
「なに、言ってるの?」
「出掛けて来るから…」
「じゃあ、ここで待っててもいい?」
頭に来たオレは女の腕を掴み、部屋から追い出すと、車の鍵を持ち雅紀のアパートへと向かった。
雅紀の部屋のドアチャイムを押すと、ドアがそっと開きオレはその隙間へと体を滑り込ませた。
「…何しに来たの?」
「会いに来た。」
「女の人がいるのに?そりゃあ、僕の方から『会うのよそう』とか、『一人にして』とか言ったけど。もう、僕の他に誰かが居るんだ?」
「違う!」
「ねぇ、翔ちゃん。あの人はどういう人なの?」
「…ごめん」
「ごめんて、なに?どういうこと?」
「オレ…油断してた…」
「油断してたから、謝れば済むと思ってるの?」
「オレには雅紀だけなんだよっ!アイツとは何もない!」
「…嘘だね!」
「嘘なんかじゃないっ!」
『ドンドンドン…』
『ちょっと!何時だと思ってます?静かにしてもらえないですか?』
隣りの部屋の人のようだった。確かに、こんな夜遅く怒鳴り合う声は、迷惑でしかない。
「…すみません」
ヒートアップしていた頭が、少しだけ落ち着いてきて、雅紀は寝室のドアを開けた。
「座って…?」
「…うん」
二人して、ベッドに腰掛けた。
「翔ちゃん…僕ね?やっぱり、翔ちゃんの側にいたい。翔ちゃんに会わないでいたら、寂しくて…凄く会いたくなった。」
ごめんね?我儘言って…
「言えよ…我儘。全部聞いてやるよ…」
「…いいの?」
「オレにとって、雅紀は…雅紀にだけは…」
このうるさいほどの胸の鼓動が、雅紀に聞こえてもいい…
「雅紀にだけは…その我儘を全部叶えてやりたいって思ってるから…」
…つづく。