Side−A


「…どうした?雅紀」

「……うん」


翔ちゃんと久し振りに会えて何度も抱き合った後、優しい腕の中に包まれているのに、僕は何だか浮かない気持ちになっていた。


「何となくね?後ろめたい気持ちっていうか…」


『会わないでくれ』と言われて、櫻井の本宅から『手切れ金』まがいのものを、それも多額で渡されているのに…



「智にぃならきっと『そんなの、無視していいんだから』って言うと思うけど?」

「うん、出掛けにそう言われた。」


「フフ、やっぱりな?」

「それよりも…僕、今日は翔ちゃんに伝えたいことがあって」


「なに?」


翔ちゃんを不安な顔にさせたくなかったから、なるべく笑顔で伝えなきゃと思った。


「僕ね?理学療法士の資格を取ろうと思ってる。」

「理学療法士って、あのリハビリの?」


「うん。でね?その専門学校に通う学費とかは、おばあちゃんが遺してくれたお金を使おうと思ってて、智にぃも『それでいいんじゃないか』って、言ってくれてるんだ。」

「そっか、目標が出来たんだ?」


「…うん」


翔ちゃんがその胸に押し付けるように、僕を強く抱きしめてくれた。


「ふふっ…あったかい」


ずっと…こうしていたいな。


「雅紀にそんな目標が出来たのなら、いつか雅紀を支えられるように、オレも頑張らなきゃな。」



言葉は前向きなのに、翔ちゃんは不安そうな顔をしてるから…



『ちゅ…』



翔ちゃんの唇に、そっとキスをした。



「…おまじないだよ。翔ちゃんなら、きっと出来るって。」


今の僕に出来るのは、こんなことくらいしかないけど、この先ずっと翔ちゃんと二人でいられるようにと、願いを込めたんだ。








…つづく。