Side−A
「智兄ちゃん、あのね…僕、今度…」
「ストップ…!」
…えっ?
「いつまでも兄ちゃんを頼ったり、甘えてくれるのは嬉しい。でもな?何よりも雅紀のことを一番に考えてくれるのは誰だと思う…?」
「……翔ちゃん。」
「だから、兄ちゃんに言うよりも先ず翔くんに言うべきだろ?」
「翔くんと結婚してもう8年になるんだから…。翔くんに遠慮なんていらねぇぞ?」
「…うん。」
「兄ちゃんへの報告は、二番目でも三番目でもいいから…。な?」
…智兄ちゃん?
「さっき聞いた、設計を一人で任されることになった話だって、本当は雅紀に一番に報告したかった筈だぞ?」
…あっ。僕が…智兄ちゃんの所に来たから…
それで…
「…うん、ごめんなさい…。」
「いや、俺も…翔くんに雅紀が俺んとこに来て泣いてるって言ったから。きっと、言いにくくなったんだよ。ごめんな?雅紀。」
…ううん。智兄ちゃんだって…優しいもん。
「翔くんが待ってるぞ?早く帰ってやれ。」
「…うん。」
「ただいま…」
「おぅ…お帰り。疲れただろ?風呂にするか?それとも、少し寝るか?」
「…ううん?あのね、翔ちゃん…」
言い掛けて思い出した…!
僕は翔ちゃんを『ぎゅっ』と、抱きしめた。
「…どうした?」
「翔ちゃん、設計を一人で任されるって…おめでとう。やっとだね?」
「フフ…ありがとう。任される、って言っても…リノベーションなんだ。丸々一軒ってワケじゃないけど…」
「でも、テンション上がるでしょ?」
「フフ…まぁ、な?」
『ちゅっ…』
翔ちゃんからの、不意打ちのキスに驚いていると…
『ちゅっ…ちゅっ…ちゅっ…』
キスの雨が降ってきて…
「もぉ…くふふっ…なに…しょお…ちゃ…」
「やっぱり…雅紀に『おめでとう』って言ってもらうのが…一番嬉しい…」
…翔ちゃん。
「あのね…翔ちゃん。僕…今日ね…」
ちょっと元気のない、低い声になっちゃった。
「…どした?」
翔ちゃんが僕の顔を覗き込む。
優しい表情の翔ちゃんに、これを言うのは…
でも、言わなきゃ…
「コオ先生から言われたの…。アメリカに…留学してみないか、って…」
「…えっ?」
…つづく。
※次回は最終話になります。