〜雅紀の章
翔にぃの家の庭にある、桜の木。
そこに、『もう一人の翔にぃ』を感じた。
はっきりと見えるわけでもなく、でも確かにそこにいるんだって思った。
翔にぃと繋がる行為を重ねれば重ねるほど、その人を身近に感じる。
そして、それは夢の中でも…
『雅紀、強くなれ!強くなって、この先どんなことがあっても、乗り越えろ!』
あれは…何を意味していたんだろう…?
お風呂みたいな所だったけど…
もうすぐ…ボクの誕生日だなぁ…
でも…今年は受験生だから…
誕生日のクリスマスイブもクリスマスもお預けだよなぁ…
誕生日の当日…
翔にぃが、画像付きのLINEでお祝いしてくれた。
ボクがベッドに寝転んでるの…いつの間に写メしてたんだろ…
おまけに…
『オレの可愛い天使へ』
『誕生日おめでとう』
…だなんて
恥ずかしかったけど…嬉しかった。
電話で直接『ありがとう』を伝えたら、『今日は、家族でお祝いする日だからオレはそっちに行けないけど、明日なら…』
そう言って、電話は切れた。
その夜は母さんと父さんが、ケーキとローストチキンを買って来てくれて、ほんの少しだけお祝いをした。
翌日のクリスマス…。
夕方、翔にぃがやって来て…
「受験生だって、たまには息抜きも必要だろ?」って、誘いに来てくれた。
父さんも母さんも、「行ってくれば?」って言ってくれて…
ボクは翔にぃと出掛けることにした。
でも、やっぱり風邪を引いたら大変だからって…
コートを着て、帽子に手袋、マフラーにマスクと予防対策をした。
イルミネーションの光で彩られた大通りまでやって来た。
通り過ぎる人波は、カップルだったり、親子連れだったり…
ボクたちは、どんなふうに見えてるのかな…?
「雅紀…。他の人から見たら、オレたちどんなふうに見えてると思う?」
翔にぃの言葉に凄く『ドキドキ』した。
「オレは…雅紀のこと『恋人』だと思ってる。」
翔にぃ…。嬉しい…。
「…ありがと。」
「ふふ…。泣かなくても…いいから。」
帽子を軽く『ポン…』と叩かれて…
マスク越しにキスされた。
マスク越しでも…翔にぃの温もりを感じて、ボクは翔にぃの腕にボクの両手を絡ませて、幸せを噛みしめていた。
でも…その時
『雅紀…。もうすぐ……』
耳元で、『もう一人の翔にぃ』の声がして、一瞬カラダが凍りついた。
でも翔にぃには絶対、悟られてはいけない…
ボクはそれを隠し通すと、決めた。
…つづく。