今村翔吾さんの歴史小説『八本目の槍』を読みました。

僕は、今村さんが小説『塞王の楯』で2022年に直木賞を受賞されるまでお名前も存じ上げませんでした。受賞作品が「近江の国・大津城を舞台に、 石垣職人“穴太衆”と鉄砲職人“国友衆”の宿命の対決」を描いていると報じられるのをみて、僕の地元大津を舞台にしていること、また、今村さんが取材を受けておられるネット・雑誌・新聞の記事で大津在住であることを知り、勝手に親近感を抱き、これは読まねばと思ったのです。

ただ、単行本は高いし何れ文庫本になるだろうから、それまで待とうと考えましたが、まだまだなりそうもないショボーン
でも今村作品を一度は読んでみたいと思い、選んだのが本書。2018年10月~2019年4月にかけて「小説新潮」で連載され、7月に刊行、2021年5月に文庫化されています。これも2020年に吉川英治文学新人賞受賞を受賞されている代表作ですし、描かれている石田三成なら昨年の大河ドラマの「どうする家康」でも扱われていたので取っつきやすいはずと考えたのです。

*表紙の写真はネットからお借りしました。

 
出版社の新潮社のHPで本書は以下のように紹介されています。

石田三成は、何を考えていたのか? そこに「戦国」の答えがある!

 

秀吉の配下となった八人の若者。七人は「賤ケ岳の七本槍」とよばれ、別々の道を進む。出世だけを願う者、「愛」だけを欲する者、「裏切り」だけを求められる者――。残る一人は、関ケ原ですべてを失った。この小説を読み終えたとき、その男、石田三成のことを、あなたは好きになるだろう。歴史小説最注目作家、期待の上をいく飛翔作。

 

また、紀伊國屋書店のHPでの紹介は以下の通りです。

石田三成とは、何者だったのか。加藤清正、片桐且元、福島正則ら盟友「七本槍」だけが知る真の姿とは……。「戦を止める方策」や「泰平の世の武士のあるべき姿」を考え、「女も働く世」を予見し、徳川家に途方もない〈経済戦〉を仕掛けようとした男。誰よりも、新しい世を望み、理と友情を信じ、この国の形を思い続けた熱き武将を、感銘深く描き出す正統派歴史小説。吉川英治文学新人賞受賞。(解説・縄田一男)

 

中身を読まないと感動には至らないと思う作品なので、以下ちょっとだけ概要のみネタバレさせます、

豊臣秀吉が賤ケ岳の戦いで柴田勝家を破った際に活躍した武将、加藤清正・福島正則・加藤嘉明・平野長泰・脇坂安治・糟屋武則・片桐且元は「賤ケ岳の七本槍」と呼ばれていますが、この七人は若かりし頃、小姓として石田三成とも共に過ごし、袂も分かち合う中でした。その七人が上述の出世だけを願う者・「愛」だけを欲する者・「裏切り」だけを求められる者等々なのですが、それぞれのその後で石田三成と関わった逸話を書き連ねることで、三成が「誰よりも、新しい世を望み、理と友情を信じ、この国の形を思い続けた熱き武将」だったということが描かれています。ラストは、石田三成は八本目の槍だという結論に至るわけですが、非常に読みやすくて面白く、感動する作品でしたニコニコOK

巻末の解説で縄田一男さんと言う方が、吉川英治新人賞受賞の際の選評の一つとして、京極夏彦さんのものを以下のように紹介されています。

現状考え得る理想的な歴史小説のスタイルを模索しているという点で高く評価したい。スタイルに固執するあまりやや窮屈になってしまっている面もあるのだが、史料や研究成果をきちんと反映し、歴史的事実(と考えられている事象)を改変することなく、その行間を埋めることで新鮮な人物評に導くというテクニックは、結末が決まっている物語を面白く読ませるという意味でも、反面、奇矯な”読まれ方”を排除するという意味においても、極めて真っ当である。敢えて主役を中心に据えないという手法も功を奏しているだろう。稗史や巷説にもきちんと目配せが利いているところは、作者ならではであろう

最近の大河ドラマや映画では上述の「史料や研究成果をきちんと反映した歴史的事実(と考えられている事象)」を諸説あることをいいことにして大幅に改変し受けを狙っているものが多いと僕は感じていたので本書に対するこの選評に強く同意しました!!

 
とういことで、今村作品、もっと読みたくなったので、『塞王の楯』の文庫化が待ち遠しいです!