過日、BS朝日や京都新聞に中国の人間国宝が作った武夷岩茶があるという情報が流れました。ちょっとビックリ。
中国には日本の人間国宝に当たる言葉や制度はありません。日本の人間国宝とは、日本の文化財保護法に基づいて文部科学大臣が指定した重要無形文化財の保持者として認定された人物の通称です。つまり国家が認定した人物でなければなりません。
何でこんな情報になったのでしょう。中国では様々な分野で優秀な個人を表彰したりすることは、その地方ごとに行われるのが普通です。もし武夷山の茶農で人間国宝などといえば、全国の茶産地の優秀な茶農も人間国宝ということになり、その数はとんでもない数字になります。
武夷山の優秀な茶農については、2006年武夷山市の優秀武夷茶人として、以下のように武夷山において決められた茶農がいます。
※2006年製作工芸国家標準(規定)
武夷山市人民政府命名。武夷岩茶(大紅袍)製作工芸伝承人12名
①陳德華(北斗岩茶研究所)
②葉啓桐(山水岩茶研究所)
③王順明(武夷岩茶廠)
④劉宝順(幔亭岩茶研究所)
⑤劉峰(仙風岩茶廠)
⑥王国興(活源岩茶廠)
⑦呉宗燕(北岩岩茶精製廠)
⑧游玉瓊(永生茶業有限公司)
⑨劉国英(岩上茶葉科学研究所)
⑩黄聖亮(瑞泉岩茶廠)
⑪陳孝文(慧苑茶廠)
⑫蘇炳渓(大坑口茶廠)
以上です。
この様な例は、各地の名茶生産地で行われるコンクールでも見られ、優秀な茶農が地域ごとに発表されています。その他にも景徳鎮や宜興などの茶器の生産地でも優秀な技術者を顕彰することはあるのです。しかし、この様な中国の顕彰制度を日本の人間国宝と同一に見ることは出来ません。おそらくは両国の内容を把握していない状態で中国の製作工芸伝承人は日本の人間国宝みたいなものですというような翻訳がなされたのではないでしょうか?
外国から言葉が伝わるということは簡単ではないのです。特に日本と中国は漢字を使うことから安易に訳されることがあります。私たちの理解であまりにも誇大に解釈されることは、中国茶を確実に把握する上で注意するべきだと私は思っています。
前述した氏名の()内に書いてある会社名も、研究所と書いてあるものは武夷山だけの特別な方言で、普通は会社として認識する必要があるのです。このことは、他の地方の中国人でもあまり知られていないことですから注意する必要があります。この様な会社を公的な研究所と同一に考えてはならないのです。とにかく広大な中国には私たちの知らない問題がたくさんあります。
このように問題はたくさんあるのですが、お茶は嗜好品です。試飲をしてみて自分が美味いと思うお茶が一番いいものなのです。肩書きなどに頼ってお茶を選ぶことは決して良いことではありません。