「次の政権」を樹立する方策こそが
大政奉還
だったんです。
中学受験を経験した子たちや小学校で習った大政奉還、というと、ついつい、幕府が政治にゆきづまり、もう無理だからやめちゃえ、という政権放棄と理解してしまい、よって幕府が滅亡した、というように考えがちです。
大政奉還とはそんなものではありません。
A・B・Cの三つの勢力があったとします。
そしてAとBがケンカしている…
とすると、「漁夫の利」という言葉があるように、AとBが争っていることを利用してCが両方を倒してしまう…
「そんなことをしていると、Cが利するだけだ! いろいろ思うところがあるだろうが、二人が手を組めばCを倒せるではないか!」
と、「誰か」が持ちかけたとしましょう。
AとBは手を組んでCを倒すことが可能になります。
「共通の敵ができると団結できる」の法則です。
A・Bが薩摩と長州、そしてCが幕府。そしてこの「誰か」が坂本龍馬…
薩長同盟
の成立です。
ところが、さらにさらに、大きな枠組みを考えることも可能です。
A・BとCが争っているとこに、さらにDという存在が出てくる…
「そんなことをしていると、Dが利するだけだ! いろいろ思うところがあるだろうが、三人が手を組めばDを退けることができるではないか!」
と、「誰か」が持ちかけます。
A・Bが薩長、Cが幕府、そしてDが日本への進出を企図している諸外国…
そしてこの「誰か」がやはり坂本龍馬…
当時、イギリスやフランスが貿易の利益をもとめて日本に接近していました。
イギリスは薩摩や長州、フランスは幕府をそれぞれ後援します…
英仏は何も、ボランティアや親切でそれぞれ後援しているわけではありません。
外交とは、簡単に言えば自国の利益のためにウソをつくことです。
彼らの頭の中には、日本国内の混乱やそこから生まれる政治・経済状況をいかに自国の利益に結びつけるかしか考えていません。
「きみたちのためだ」「われわれは損得抜きで応援しているよ」
な~んてのはみんなウソです。
国内を早くにまとめて一つにならないと諸列強の餌食になってしまう… インドや中国、東南アジアのように…
これは尊王攘夷派のうち、開明的グループに共通する考え方でした。
ここで幕末の思潮の潮流が大きく二つに分かれました。
X:Dの後援のもと、A・Bが協力してCを倒し、近代的国家を築く。
Y:A・B・Cが連合して近代国家を築き、Dを退ける。
大政奉還
とは(薩長同盟をステップ1だとすると)Yを実現するためのステップ2だったんです。
大きな枠がこうだとすると、もちろん小さな動きや考え方は様々です。
薩摩・長州が主導して幕府を倒してしまうと、幕末以来、国家の近代化を実現しようとしていたその他の藩(土佐・越前・尾張など)にしてみれば、おもしろいわけがない。
「政争」とは、どう改革するかの争いではなく、実は、誰がその改革をするかの争いなんです。
めざすことは同じであっても、誰がその担い手になるか、の争いです。
薩摩・長州による倒幕というXの思潮に対抗できる質と量をもった思想がほしかった…
そこにそれを提示してくれたのが坂本龍馬だったんです。Yの思潮に土佐藩は飛びつきました。
薩摩・長州から政局の主導権を奪うよい方法はないかと模索していたのが土佐藩の
後藤象二郎
です。
坂本龍馬が彼に示した「船中八策」そしてそれを実現するステップとしての「大政奉還」の案に後藤象二郎は感銘を受け、土佐藩の実質的オーナーの山内容堂にこれを提言しました。
容堂も「これだ!」と飛びつきます。
一方、江戸・大坂にすでに幕府機能を移転し、自ら摂政・関白も兼任して軍事改革を進め、近代的な工場などを次々建設していた徳川慶喜もまた、「これこそ新しい設計図だ」と飛びつきました。
いったん政権を天皇に返してしまう。
すると「幕府」を倒そうとしている薩摩・長州の「口実」は無くなってしまう。
政権を返しても徳川幕府は400万石の経済力を持つ大大名。
朝廷もいきなり政権を返されても担当能力は乏しい。
よって徳川を中心とする諸侯会議を開いて、新しい近代国家を建設できる。
坂本龍馬の「企画・提案」したと言われる「船中八策」は、簡単にまとめると
・大政奉還
・議会政治の実現
・人材登用
・不平等条約の改正
・憲法の制定
・海軍増強
・政府独自の軍隊の保有
・金銀交換レートの新設定
の8つです。
これ、よく考えると、X・Yどちらの方法でも実現できることですよね。
「この改革の実現をめざす」が、「これを実現するのはおれたちだ!」の争いが幕末の政争です。
徳川慶喜は、政権を朝廷に返上し、諸侯から構成される「議会」において議長あるいは後の総理大臣のような地位につき、近代化を進めてやる、と考えました。
幕府の積極的解体
によって近代国家を建設する。
これが大政奉還の実相でした。
もちろん、薩摩と長州は、そうはさせるかっ と考えます。
(次回に続く)