聖徳太子は何回か大きなブームがあります。
一つは奈良時代、一つは中世、そして江戸時代です。
奈良時代は聖武天皇の頃。鎮護国家の思想が広がり、その元祖ともいうべき聖徳太子が顕彰されました。
鎌倉時代のブームは、実は二度あり、一つは執権北条泰時が、「わしが尊敬する政治家は聖徳太子である」として、十七条憲法にならい、御成敗式目を制定(三十一条の31は17の倍数にしてつくられました)します。
さらには鎌倉時代末期、建武の新政を予言する、という形で聖徳太子の著書といわれる『未来記』の話が『太平記』の中で出てきて、楠木正成が四天王寺を訪れています。
室町時代は、足利尊氏の弟、直義が北条泰時を尊敬していて、その尊敬していた聖徳太子がまたしてもクローズアップされて十七条憲法にならって「建武式目」が制定されます(17ヶ条から構成)。
江戸時代もまた、同様に聖徳太子が顕彰され、「公家諸法度」なども17ヶ条で定められたり、聖徳太子伝説がまとめられたりと、ある意味諸伝説が集大成されました。
聖徳太子は時代の要請にあわせて担ぎ出されて顕彰されていきます。
さて、政治家が聖徳太子の遺徳を利用するだけではありません。
一般庶民も「利用」します。
各地にある聖徳太子由来の寺院、遺物、さらには温泉までがクローズアップされていきます。
室町から江戸時代にかけて、人々は「遊山」というものをおこない(とくに江戸時代は国内旅行が流行します)、歴史上のいろいろなモノ、コトが「観光資源」となったのも江戸時代なんですよ。
『平家物語』も、その話に出てくるエピソードや地名が「観光資源」として利用されるようになりました。
室町時代、江戸時代に『平家物語』のいろいろな復刻版や再出版が進むのも、こういう商業主義と一部関係があるんです。
現在でも、ドラマや小説の“舞台”となったところは、お土産屋さんができたり、名物が生まれたりしてますよね?
それと同じようなことが、『源氏物語』『平家物語』『太平記』でつくられていきます。
ヨハンナ・スピリが著した『アルプスの少女ハイジ』で出てくるデルフォイ村なんて実在しないのに、日本人の観光客に合わせてスイスでは再現されているのを知っていましたか? ペーターのおばあさんの家まで再現されています。
人ってこういうこと、するんですよね。
観光資源化するのはもちろん、地元の文化を“持ち上げる”のに用いたり、さまざなま物産の由来を有名な歴史上の出来事に重ね合わせたりしていきます。
“ウソ”とは申しませんが、誇張なども加えられ、さらにそれが伝言ゲームのように伝えられ、だんだんと実体とは異なる“史実”が創り出されていく…(詳しくは拙著『日本人の8割が知らなかったほんとうの日本史』をお読みください。)
『平家物語』は、さらにいろいろな文化を派生して生み出していくことになります。
「源平」の名前はいろいろ利用されていきますよね。「源平」の名前を付けると「売れる」商品、けっこう出てきました。
有名な歴史的な拠点の周辺には、『平家物語』由来の地もあるのですが、室町時代や江戸時代の観光ブーム(諸寺院、神社への参拝)に乗っかって、いろいろ“由来”の地が大きくクローズアップされる。
壇ノ浦の戦いで入水した清盛の妻、時子(二位の尼)は、その遺体が流れ着いた場所、けっこうたくさんあるんですよ。
厳島に流れ着いた、という話があって「尼の洲」という名前になって灯篭まである…
山口県長門市にも、二位ノ浜というところがある…
平家の「落ち武者」伝説なんか、奄美・琉球、四国・中国の山中、各地にのこっていて、平家ゆかりのいろいろなモノ、コトがあります。
エリゲロン・カルビンスキアヌス、という植物があります。なんじゃそりゃ?となりますが、
「源平小菊」
という愛らしい花です。最初は赤色(薄いピンク色)なのですが、生長するにつれ、やがて白にかわる…
平家が赤で源氏が白。赤から変わって白になる(平氏が栄えていたがやがて衰え源氏の世になる)から、「源平の菊」という名前になるのですが、このネーミングを考えた人のセンス、素晴らしいですよね。
日本原産のものではなく(北米原産種)、完全に後付けの話ですが、商品コピーとしては実にすぐれていて、この名であるがゆえに、「お、この花、買ってみようかな」と思う人、ぜったいに出てきますよね。
カニの名前だって、平家カニだけでなく弁慶カニまである(貝にも弁慶貝があるそうです)。
源氏パイだけでなく平家パイもありますよね。
もちろんどちらもおいしいですけれど、食べてもらえないとそのうまさは伝えられない。
広告、宣伝とはまさにそのために必要なもの。
(「あまちゃん」とか「官兵衛」、という名前のグッズや食べ物、この数年で激増しているはずですよね。ベストセラーの『源氏物語』『平家物語』『太平記』由来のものなんかどれだけ生産されてきたことか)
ちょっと脱線しますが、平家パイって、「平らな」楯をイメージしてつくられて、レーズンは多数の矢を受けた跡をあらわしているんですって…
ここにこめられた「歴史の哀愁」… おもわず平家パイをにぎりしめてしばし感無量…(三立製菓さん、すごいっ) 「二つに割れて食べやすい」とも書いている… 都に残った平氏と壇ノ浦に散った平氏… あかん、過剰な想像をそそってしまう…
クマガイウオとアツモリウオっていう名前の魚もいるんですよね。
一方はまるで鎧兜を着ているようなイカツイ魚、一方は鮮やかな真っ赤な魚…
平家カニや弁慶カニといっしょに展示して
「水族平家物語」
と題して企画展したら人集まるで、と、思ったら、なんとけっこう各地の水族館ですでにやっておりました。
もちろん、一ノ谷の近く、須磨水族園でもすでに「平家物語」由来の展示もやったことがあるそうです。
もちろん、商業主義が歴史の実像を歪めることもありますが、現代のわれわれに歴史を伝えるのもこういった、いろいろな時代の人々の“商魂”であることはまちがいありません。
「伝える力」という点では、歴史と商業主義は切っても切れない部分があります。