第 11 章 應暉(3)
默笙は学業が忙しい上にアルバイトも必要で、今のままでは彼女自身も小嘉に会いに行けるのは一日置きか若しくは二日置き。
数か月後のある日のこと、遠くカルフォルニアに居る應暉が默笙からの電話を受け取ると彼女は微かな泣き声で言う
「應さん、小嘉を引き取りたい・・・」
小嘉が福祉施設の中で異なる人種の子供にいじめられた。
実にいじめは一度に留まらなかったが今回は特に深刻で、小嘉はトイレの便器の中に押し倒され、もしすぐに発見されなかったら恐らくは窒息死していただろう。
應暉はN市に行く時”協議書”を持って行った。
「この協議書の内容は、この結婚がもたらした全ての権利と利益をあなたは放棄し、それに相応する全ての義務をあなたも履行する必要はない。
すなわち、私たちはただ名義上の夫婦なだけです」
應暉は説明する。
権力と責任が明確で、默笙の気持ちを楽にさせる。
これは應暉の目的で、默笙に手に入れさせない都合の良い協議書は反って彼女をリラックスさせることを彼ははっきりとわかっている。
「應さん、ありがとう・・・」
彼女は何て言えばいいかわからない
「いや、実はこの結婚は私にとっても利点が多い。
私の会社は間もなく上場するのだけど、既婚男性という立場は投資家の信頼を手に入れることができる上に、既婚の身分は私の多くの面倒を減らすことができるんです」
應暉の話は自身の全て馬鹿馬鹿しい理由だと感じ、最後にとても誠実な一言を言う
「その上、趙さんは私にとってささやかな恩だけではない」
だから彼女を自分の羽の下で守りたいと考えただけ・・・
しかし、ただ単にこれが理由なのか?
應暉には自分に問う勇気がない
彼は默笙のサインする手が微かに躊躇っているのを見る
目の中はまるで何かが消えていくようで・・・
それからペンをしっかりと掴んで素早く自分の名前を署名し、畳んで彼に手渡すと再び見ることはしなかった。
應暉は默笙が小嘉の監護権を順調に勝ち取ったその夜にカルフォルニアに戻って行き、默笙は学業が終了していないためにそのままN市に残ることとなった。
福祉施設の定期検査に対処する必要があるために應暉は毎月、月末になると必ずN市に一度は行かなければならない。面倒であるために默笙は彼に対してしきりに気が咎めてしまうが、むしろ應暉は回を重ねる毎に月末が来るのを待ち望むようになっていた。
應暉の白人女性秘書のリンダはとても可愛いことを言う
「ボス、私がどのくらい毎月末が嬉しいか知らないでしょ。その時のあなたは何時も優しくて親しみやすいんですよ」
應暉は話を聞いて微笑み心地よくなる
小嘉は相変わらず愚鈍で、默笙がやっとのことで中国語で”應おじさん”と彼を呼ぶように教えた。
應暉がその”應おじさん”に感動することはなかったが、默笙は夢中になって喜び感動して小嘉の頭をなでている。
彼女が笑みを浮かべた僅かの間油断し、應暉にははっきりとわかる
心が動いた・・・
久しぶりの感覚
彼と趙默笙は今に至るまでの接触もただの数か月の時間に過ぎなく
このような気持ちが以ての外なのは明らかで、更には探すことができる痕がない
理系学生の天性を用いて應暉は頑なに自身の心が動く論理を探し求めたいと考えるが、初めて自分がその間の因果関係の証明はどうすることもできないと発見する。
そして都合よく些細な問題の中から抜け出し、現実的な個性で成り行きに任せることに決めた。
應暉の空を飛ぶ生活はほぼ二年の月日が流れ
二年後のある日、默笙は電話で彼に二つのニュースを知らせる
一つ目は彼女の卒業
二つ目は娟お姉さんの釈放が繰り上がりとなり、彼女が小嘉を連れて帰国することを決めたこと
電話を切ってから應暉が初めに浮かんだのは
――時間はほとんど無くなった――
應暉はN市の国際空港で初めて顔全面に疲れを表している娟さんに会った。
默笙が以前偶にこの娟さんの経験を言い出すことがあった
彼女は当初、留学生の妻としてやって来てその後その男はグリーンカード欲しさにアメリカ人女性を妻にした。娟お姉さんが国を出るときはとても美しい風景だったのにとんだ結末に終わり、帰国して人の物笑いにされるのが嫌でさっさとアメリカ人男性に嫁ぎ、より一層不幸になるとは予想もしていなかった。二年の刑務所での生活は終には彼女にこの場所に対して絶望させ、悟った後帰国を決めた。
默笙は小嘉を抱きしめて名残を惜しみ
娟は應暉に感謝する
「この二年間本当にありがとうございました。默笙にもたくさん感謝してます」更に默笙を見つめて
「彼女は私よりもずっと幸運ね」
應暉は彼女の目の中にある嫉妬にはっきり気付いて微笑み
「人にはそれぞれの縁(えにし)の結び方があるから無理に探し求める必要はありません」
飛行機が飛び立ち、默笙は遠ざかる飛行機を仰ぎ見る
「帰国したい?」
突然、應暉に言われて默笙はあっけにとられて頭を横に振って言う
「考えてないです・・・私はとても弱い人間で・・・
應お兄さん、外国の地で独りぼっちなのは当たり前のことのような気がします。それぞれ外国人は全てこうで、もし戻ってもやっぱり独りぼっちで・・・
それはとても悲しいでしょ」
彼女は元気がなくなり、再び言葉を続けることはなかった。