第 10 章 不避(2)
人の流れに乗って校門に辿り着いて、以琛は向恆からの電話を受ける。
「おまえは家かそれとも事務所なのか?一度顔を出せ。今日は多くの学友が来ている。おまえが来ないなら、おまえの家まで行って突撃すると蘇敏が言ってるぞ」
蘇敏は以琛の前任の法学院学生会の会長で、卒業後は学校に留まり教職に就いている。以前、大学で以琛と彼女は業務上どちらかと言えば比較的頻繁に接触していた。
「俺は北門に居る。おまえらは何処に居る?」
「ああ、来てたのか?それは素晴らしい。俺たちは新館に居るから急いでやって来い」
以琛は携帯電話を片付けて黙笙に言う
「君はまず俺と俺の学部に行って一回りぶらついて、それから君らの学部やその辺りまで行ってみよう」
「ええ?あなた達の学部・・・私は行かない」
默笙は躊躇ってから言った。
「どうして?」
以琛はすぐに警戒心が起きる。
忘れるとこだった・・・
目の前の人がどれ程外に出ていたかを。このように過去の長い年月で、以琛は自分自身がまだ条件反射を残していることに気が付く。
「あなた達の学部はとても人が多くて・・・」
默笙は思い悩んで言った。
以琛は昔、法学部の風雲児で彼を知っている人は多い。当時、自分らのついて離れては推測でも広く知られている。默笙は本当にそのことを探る眼差しに向かいたくない。
「あなたは一人で行くといい。私は少し写真も撮りたいの。一人だと比較的インスピレーションが働くし・・・」
その人がまた現れてどうする?
以琛はいくらか仕方なしに、すぐに逃げようとするのを引き留めて
「君はお金を持っていないし携帯電話もない。後になってどうやって俺を探す?夜はどうやって家に戻るんだ?」
顔一面恥ずかしそうにしてる默笙を見て、すぐに彼女が何も考えていなかった事がわかる。
以琛は時に自分は子供の世話をしているようだと感じてため息を吐いて言う
「俺たちの子供はやはり俺に似た方がいい」
以琛を引っ張って行き、黙笙は手を伸ばしてささやく
「お金を頂戴」
以琛は自分の携帯電話を渡すだけで
「暫くしたら電話して君を呼ぶから遠くに行きすぎるなよ。俺を探したかったら向恆に電話しろ」少し黙ってからまた
「君が何を恐れているか全くわからないな」
以琛は無造作に彼女の風に吹かれてぞわぞわした髪の毛をきちんと整える。
默笙が何を思っているのか彼の心中ではどうしてもわからないが、ただこれは大したことじゃなくて彼女の考え通りにしても大事ないはず・・・
「何大弁護士、今やあなたの名声は響いて威張りかえる態度も大きいわね!」
以琛は法学院の新館に着いてすぐ蘇敏の冷やかしを受ける。以琛はこの先輩の性格を昔から知っていて、彼女に反論すればするほど力が入るので思い切って弁解はしない。
彼は数言でも腹を立てて間違いなくとまる、と蘇敏は言っていた。
向恆は彼の服じっと見つめていう
「おまえは何時こんな品格と趣味を身に着けた?」
以琛は頭を下げて自分自身を見る。Tシャツの胸元には”××大学”と赤色で目立つ大きな四文字が印刷されてる。間違いなく馬鹿だ。ちょっと笑って脱ぎ終えてから手に持つ。
向恆はすでにわかっている
「おまえの家のあれは何故見えない?」
「何処に走って行ったかは知る由もないな」
以琛も頭を痛める。
話をしてる間、顔なじみが次から次へとやって来ては挨拶をする。
彼らが話をしているうちに蘇敏は袁氏を傍らに引っ張る
「何以琛に恋人はいるの?」
袁氏は下あごを触ってとてもはっきりと答える
「いないよ」
女房を恋人とはみなさないからな。この点を彼ははっきりと区別している。
「相変わらずなの?彼はまだ一途にあの人を待っているの?」
蘇敏は以琛の過去について全てを承知している。にわかには納得できないが
「でも、いなくてもいい。年若い女性教師が法学部に新しく採用されてね、美人で立派な家柄、高い学歴でね、暫くしたら夜の食事に彼女を呼び出して彼らを引き合わせるから、あなたは何も言わないでよ!」
袁氏は当然言わない
とてもうれしそうだ
以琛は本来挨拶をしたらすぐに離れたかったが、来てすぐに抜け出すのは難しい。
まずは彼らと一緒に行って数人の教授を訪問して、それから学友との座談会があって、建物を出ると時間は既にほぼ五時になって、袁氏は数人の顔なじみに呼び掛けていう
「濱江のテーブルを予約した。さあ食事だ食事」
濱江大酒店は学校近くの唯一の五つ星ホテルで、見たところ袁氏は今回大出血をしようとしている。
以琛は彼の携帯電話を借りて默笙に電話をかけた。