第 7 章 若即(4)
七、八回角を曲がって小さな路地に着くと、ごくありふれた小さなレストランの中に入った。
黙笙が好奇心で小さな店の中をぐるっと観察しても、何か特別なところがあるのか見てもわからない。でもまあ、往々にして地味なところであればあるほど容易に美味しいものが現れる。
以琛が遠くまで自分を連れて来たんだから良い事ははっきりしている。
店主は心を込めて出迎え、挨拶を始める
「何先生、お久しぶりですね」
なんとY市の方言で、黙笙はとてもびっくりする。
「最近は比較的忙しくて」以琛も方言で返す。
店主は好奇心で黙笙を見て
「何先生、こちらの女性は先生の恋人ですか?初めてあなたが恋人を連れて来られた。とても美しいですね」
以琛は笑って
「どういたしまして、この人は私の妻なんです」
「奥さん?何先生は結婚したんですか?」
店主は叫び出し二度、驚嘆してから向きを変え黙笙に向かって言う
「何夫人、あなたは本当にとても幸運です。何先生に嫁いだのはこのような方なんですね。何夫人の出身は何処ですか?」
「私もY市出身です」
黙笙は聞いて理解することはできても方言をしゃべることはできない。母親が地元以外の人だったために、家の中でしゃべるのはずっと標準語だった。
店主はひとまず雑談をしながらメニューを掴んで取り出す。
以琛は黙笙に注文を指でさし、受け取ってちょっと捲るとこの店の看板料理が全て竹の子と関係があることに気が付く。筍片滑雞、鮮筍肉絲、鮮筍炒酸菜・・・これもまあ不思議ではない。
Y市はもともと他でもなく竹の子が豊富に採れ、今は旬を迎えている。
自分は竹の子を好んで食べるけど、でも、やはり注文してはいけない。
すぐに竹の子意外の料理を注文してメニューを店主に渡すと、店主はちらっと見てからなんと咎める
「何夫人、あなたもY市出身ならどうして竹の子を食べないんですか?」
竹の子を食べないのはおかしいことなの?
以琛は何があっても食べないのに。
昔一緒に食事をした時、竹の子は不思議な味がすると何時も言って、私がどんなに誤魔化しても一口食べるのも躊躇っていた。
「・・・何先生は毎回来るといつも注文しますよ」
料理は一斉にテーブルの上に出され、以琛の箸は最後まで竹の子を触らなかった。
黙笙は渋々言う
「どうして食べないの?店主が言って・・・」
急に言葉がつかえる。
彼は来るたびに注文する、どうして?
以琛は沈黙してから長いことかけて口を開くと僅か四文字を言う
「盛情難卻(厚情拒み難し)」
ちょうどその時、口の中には竹の子の欠片があったのにこれ以上、新鮮な甘さを味わうことが出来なくなる。飲み込むと、どうも以琛の言ったみたいに不思議な味がした。
今、到着したお客が目の端に入るとその店主は躊躇なくY市の標準語で話しかけ、心を込めて精一杯にもてなし、店の看板料理は食べすぎてしまうほど美味しい物がたくさんあります、と大きな声で大きなことを言っている。
本当に
盛情難卻
「あなたは帰らないの?」
レストランを出てから以琛が持っていた鍵を渡され、黙笙は躊躇いながら尋ね
「俺は事務所に戻る。まだ少し仕事を処理したい」
以琛は冷ややかに答えた。
「あっ」鍵を手の中できつく握りしめ
「じゃあ、あなたは何時戻ってくるの?」
以琛が彼女を見ると目の中には妖しい光が現れ
「君は俺を待つつもりなのか」
「・・・うん」黙笙は頷き、口ごもりながら理由を説明する
「あなたの鍵はここにあるでしょ」
「事務所に予備がある。待たなくていい」
彼は彼女自身が瞳の輝きを取り戻して、気落ちしたのかそれとも何かはっきり言えずに口調は更に素っ気なく、その上僅かの自嘲を浮かべて言う
「俺も人を待たせるのに慣れていない」