ドキュメンタリー3信じられないロシア艦隊 | 社長のたわごと:日本廣業社田中眞一のブログ

ドキュメンタリー3信じられないロシア艦隊

日本は国力を越えた軍事費をかけ、総力戦今や大海戦の幕が切り落とされようとしているこの時。

バルチック艦隊(ロシア太平洋第2艦隊)の艦上では、およそ信じられないことが続行され、まさに行われようとしていた。

 

5月27日(日本時間)はロシア皇帝の即位記念日の大祭日にあたる。

ロジェストウエンスキー提督は午前4時ごろ、日本仮装巡洋艦信濃丸に発見されたが、通信妨害の要請をも無視。続いて現れた巡洋艦信濃が艦隊と同航し陣容を東郷艦隊に打電し続けていた時も、通信妨害はするなの命令を発していたのだ。

 

今日の出典はロシア水兵ノビコフ・プリボイ著『ツシマ』による。

  わが「オリヨール」(戦艦13516トン850人乗り組み)では当直士官の声が聞こえた。

  『祈祷!』

  『総員、祈禱へ!』

  礼拝堂の前にはちゃんと法衣をまとった艦付牧師のバイシイ神父が立っていた。

  おろおろした表情で気もそぞろに、慌しく祈禱の文句を唱えた。兵員達は厭な義務

  を果たすという風に突立ち、身動きもしないものもあれば、うるさい蝿を追っ払うよ 

  うな手つきで十字を切る者もあった。おしまいに、皇帝の長寿をバラバラに唱える 

  と、悪口を言いながら四方へ散った。

 

5月27日午前9時ごろ。此の時までわが艦隊は敵に監視されながらも、航行陣形でいるのだ。しかも我々は、主力を含む敵艦隊がどこにいるか、誰も知らなかったのだ。

敵の4隻の巡洋艦は左舷の方から、いよいよ近づいてきた。

 ロ提督からの『撃て』の命令がどうして出ないのか、全員が旗艦の信号を凝視しているが、命令はおりない?  

 旗艦スワロフから上がった信号は「兵員交替して食事してよろし」

 我々は半杯のラム酒を飲んで食事に配置についたままとりかかった。それがすむ

 と、休息が許された。

 

目の前に迫っている戦闘なんかには、まるで俺は関係ない。無関心を装う水兵たちがあった。

 

艦橋から日本艦隊を見ると、「和泉」は右舷に、「千歳」「笠置」「新高」「音羽」4隻の巡洋艦は左舷に姿を消しつつあった。我が艦隊の針路は左舷に対馬右に日本本土この二つに挟まれた海峡に近ずきつつあった。

 哨戒艦の無線で呼び寄せられた東郷提督は間もなく水平線上に姿を現すことだろう。今や全海軍力を対馬海峡に集結していることは間違いない。

 

 八点鐘が鳴った。正午だ。艦は司令官の信号によって艦隊は針路をウラジオストークを一直線に目指して北23度に変じた。

どういう訳か陣形を単縦列の戦闘隊形から、二列縦列へ艦隊を組み換え始めた。

 

日本側はこの戦闘寸前の組み替えはロ提督の大過失と読んだ。

此のロ提督の信号は艦隊に動揺をもたらした。信号の見間違いではないか?

陣列に大きな乱れと、戸惑いが出始めた。

 

27日午後1時20分、戦艦オリヨ―ル艦上に号令が響き渡った。

『起床!茶を飲め!』 5分たつと敵艦隊の主力がぼんやり水平線上に浮きだしその数はだんだん増えてきた。そして我が艦隊の針路を横切るように、単縦陣をもって進んでいた。いよいよ最後だ。速力の点で劣る我が艦隊は逃げ隠れできない。

 

雲が切れて、太陽の光が5~6分ほど海面を照らした。我が艦の士官は敵の艦形を見極めようと骨折った。吃驚したように叫んだ。

「見たまえ、戦艦三笠だ!」

「そんなはずはない。三笠はとうの昔沈没したはずだ。」

なるほど先頭艦は東郷提督旗を掲げた三笠にちがいなかった。戦艦「敷島」「富士」「朝日」および巡洋艦「春日」「日進」などがそれに続いた。そのあとから6隻の巡洋戦艦がやってきた。上村提督旗を掲げた「出雲」「八雲」「浅間」「吾妻」「常盤」「」それに「巌手」など。

 

一方、東郷艦隊は

同じく27日午後1時30分ごろにいたるや、朝がた来敵艦と触接を保ち続けた第三戦隊を南西方に、第五戦隊,第六戦隊を西方に発見。ここにして全艦隊の連絡を遂げた。

午後1時40分ごろ、我が艦隊左舷南方に蒙気を破り堂々進み来る敵の全艦隊を目視した。大小合計30余隻、大戦闘旗を旗艦に翻し、真一文字に航進している。壮大雄偉の観、実に眼も覚めるばかりなり。

 

参謀長以下幕僚を率い、「三笠」前艦橋に立てる東郷大将各艦に戦闘用意の令を発するとともに敵勢力の弱点は左翼とみなし、殲滅せんと決心、戦闘速力をもって斜めに敵針路前方を横断した。

 

この時点で旗艦「三笠」にさっと翻りし一連の信号。

  「皇国の興廃この一戦にあり 各員一層奮励努力せよ」

 

27日午後2時2分 我が艦隊は、敵を左舷南方約1万メートル、針路を南西に変じ、敵と反航の姿勢を執った。速力15海里、敵速力10海里、両艦隊今や毎分800メートル、で近づきつつある。このままで行くと敵と反航戦を交えるか、さらに反航転して敵の戦頭を抑えるか?

 

両艦隊全員の頭の中は・・・・・東郷大将はどうするか?

此の陣形の行きつく先、東郷大将の頭の中を計りかねていた。

 

戦機は熟し、距離測定士の声響く。「距離9千メートル!、8千5百メートル」

既に12インチ砲の有効距離以内。砲手の指は引き金に懸っている。

両軍士気は熱く火の如し、戦闘の号令響かば、百貫の鉄丸空を切って飛ばんとす。

殺気天に満ちて鬼気人を衝く。

 

「三笠」艦橋上東郷大将は長剣を杖について屹立し、敵の運動を注視しつつ黙して一語も発しない。

 

既にして二時を過ぎること五分。敵の距離約八千メートルに近づくや、機を見て動くこと、迅電のごとき我が大将は、決然として左舷回頭の令を下した。

大胆!また冒険!

 

「取舵―ー度」号令とともに「三笠」の艦首は俄然左舷に回転して、敵と同航の針路をとるにいたった。この意外なる我が艦隊の動きに驚き、ある将校は狂喜して手を打って叫んだ。

「しめた、我が軍勝てり」

またある将校は叫んだ。

「東郷大将気が狂った?」

旗艦スヲ―ロフ艦橋上に立ち、東郷艦隊の行動を注視せしロ提督は破顔一笑。

「三笠」が回頭を終わり停まったが如き瞬間をとらえ、全艦隊戦闘開始を発令。

同時に前部12インチ砲は「三笠」に向かって第一弾を放った。時に午後2時8分。

僚艦の距離まさに7千メートル。

ロシア艦隊の全艦の砲は「三笠」に向かって弾丸を雨注した。大小の弾丸は「三笠」の周囲に落下、海水奔騰、爆煙渦巻き、{三笠}の艦影を没し、東郷艦隊の将士の手に汗を握らしめた。

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