『生き物の変異 温暖化の足音』を読む 2018年11月23日(金)

 

「日本の生態系が危ない」という言葉が帯に書かれた本を、読み終えました。重くても、何処へ行くにも単行本を常に持ち歩く生活をすると、数日で読み終えることができました。電車の待ち時間の数分、そして電車に乗って直ぐ本を開くと、移動の時間だけでかなり読むことができます。1800円もする本ですが、古本で買っているので、珈琲代金ぐらいです。2010年12月31日、初版発行の本です。

 

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□北進する蚊の北限、増えるオニヒトデやナルトビエイ、早まるサクラの開花、遅れる紅葉、そして日本から消えてゆく生物たち。

□2010年の夏(6月~8月)は猛烈に暑かった。今夏の日本の平均気温は、統計が存在するこの113年間で最も高った。1898年(明治31)年以降、これほど過酷な夏はなかったわけである。

□対象とした生物は、ほ乳類・鳥類・爬虫類・両生類・昆虫・魚類などの動物から、広葉樹・針葉樹・コケ類・海藻といった植物にまでわたる。気温と水温の上昇による草虫木魚への影響は、急速にさまざまな形で及んでいることが確かめられた。日本列島は南北に細長い。その結果、拡大鏡で強調するかのように変化を把握することが可能となった。また、日本列島には高山も並ぶ。一部の生物は高くなる温度に追われ、山頂へと向かって追いつめられている。

□温暖化という言葉からは、多くの人が夏の最高気温の上昇を思い浮かべる。確かに夏の気温も深刻なのだが、野生の動植物にとって、より重い意味をもつのは、冬の最低気温の上昇なのである。

□日本の平均気温は100年間に約1.1度の上昇だ。国内の都市ではさらに顕著で、東京の昇温は約3度。札幌、名古屋、大阪、福岡の各都市でも100年間に約2度上昇、気温が高くなっている。

□日本列島の生き物の世界には、予想以上の変化が、しかも急速に起きていた。なかでも驚かされたのが、海の温暖化の進行ぶりだった。日本海中部では100年間に1.7度も水温が高くなっている。

□暖流系のブリに変化が見られる。北海道の日本海側で好漁になり、逆に冬の名物であった富山の寒ブリ漁の様子がおかしくなっている。

□瀬戸内海には2000年ごろからナルトビエイが侵入し、アサリを猛烈に食害している。このエイはインド洋などが本来の生息域だ。

□高知県の土佐湾では1998年の高水温で海藻のカジメの海中林が消滅し、それを食べるアワビも消えた。

□昆虫では、チョウやセミの東進・北上が進む。ナガサキアゲハは60年がかりで九州から東京まで分布を広げた。大型のクマゼミも西日本から東日本へと広がっている。南西諸島から近畿地方にかけて生息していたツマグロヒョウモンは、一気に東北地方南部にまで北上した。

□鳥の世界では、秋に日本にやってくるマガンの越冬地の北限が、これまでの宮城県から、北海道南部に北上するという変化が起きている。北海道でも十分に暖かく、苦労して南下する意味がなくなったらしい。

□南アルプスに暮らすライチョウには、存続を脅かす気温の「水位上昇」が迫る。飛行力に乏しい彼らには、今いる山岳の頂上方向に逃れるしか道はない。

□哺乳類では、暖冬による積雪の減少で、シカの死亡率が減った。結果としてシカが高山帯にまで登り、ライチョウの餌を食い荒らす。同じく少雪化の影響では、短足のために豪雪を苦手としていた猪が富山や新潟県への進出を開始するという現象が起きている。

□農作物も影響を受けている。その代表が稲作だ。気温が上がりすぎ、九州では米の品質低下や不作が続くのに対し、北海道で豊作となっている。害虫のミナミアオカメムシが追い打ちをかける。熱帯産のこのカメムシは、特異な繁殖戦略で在来の近縁種を駆逐しながら分布を広げる。

□温暖な瀬戸内の気候を利用して温州ミカンを栽培してきた愛媛県では、暑さへの対応策として地中海産ミカンへの切り替えが進む。将来は、日本海側や東北地方南部が栽培適地となるとの予測。

 

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 2010年でこのような状況でした。現在は、それからまた10年が過ぎようとしています。今年の夏も、本当に異常に暑かったので、おそらく2010年の夏よりも暑かったのではないかなと思います。1875年から気象庁の年平均気温の記録がありますが、東京では、1800年代後半は13度台だったのが、1900年代に入ると、上下しながらも14度台が増えてきて、さらに1950年ごろには15度台へとなり、2000年前後には16度台が当たり前になり、17度台の年も出てきています。二酸化炭素の量も増え続けていて、我々が子どもの頃(1950年ごろ)は0.03%でした。理科を教えている頃は、0.035%でした。最近は0.04%と教えないといけなくなりました。怖いように変化しています。

 第四期には、氷河期が何度もあり、最後の氷河期は2万年前で、現在よりも平均気温として6度ほど低いということです。第四期には、地球規模の気温の変化は常にあって、太陽の活動、地球の地軸の傾きの変化など、その原因はいろいろ考えられています。最後のウルム氷河期では、カナダや北部ヨーロッパ、ロシア北部には、今の南極のように、厚さ1000mにも近い氷河が形成されます。海水面は100mも下がったと考えられています。それが、今、どんどん気温が上がっているので、氷河が溶けていて、海水面も上昇しているということです。かつてカナディアンロッキーでアサバスカ氷河を見た時、年々氷河の最先端が後退しているのが分かりました。今も、さらに溶けているのだろうなあと思います。日本では、「1961年から2003年にかけては1年あたり1.8±0.5mmの割合で海水面が上昇している」と観測されているので、1年で2㎜とすると50年間で100㎜(10㎝)の上昇です。海岸線の位置も変わってしまいますし、山の高さも変わります。