小学校の先生になって良かったこと 2018年11月10日(土)
教職系大学生の1回生の「おたずね」に、答えていこうと思っています。晴歩雨読216号に「学生からのおたずね」を書き出してみると、23項目ありました。一つのおたずねでA4用紙1枚を書くのもいいかなと思ったのですが、一か月近くかかるので、4項目ずつ返事を書いてみることにします。
Q1.小学校教諭になって、一番しんどかったこと、一番つらかったことはありますか。
先生として、一番精神的にくることは何ですか。
小学校の先生になって、一番良かったと思うことは何ですか。
きつねT:先生として大変なことは、子ども達は、家庭のイライラ、体調の不調などを持ったまま登校してきますので、それを温かく受け止めてあげる必要があるということです。朝の会は、穏やかで安心できる、ホッとする場所であり、楽しい場所であることが大切です。学校へ来てよかったなと思える環境を創ることです。生活や学びのリズムや意欲を育てることを、家庭に任せるのではなく、教室で作ってあげることが大切です。いろいろな家庭状況の子どもがいます。朝の食事をしていない子どもや、親に虐待を受けている子どもや、過度の勉強をしている子どももいます。先生は、子どもの心と体の安全を見守りながら、子どもに学習の楽しさを体得してもらう仕事であるということが、次第に分かってきます。子ども達は、イライラをぶつけてくるのですが、それを柔らかく受け止めてあげることが大切です。先生になって良かったことは、38年間、子ども達と一緒に学び続けることができたことです。いろいろなことを、エネルギーのある子ども達と学び続けたので、先生も少しは賢くなりました。
Q2.子どもたちが、勉強したいという気持ちにさせる方法は、自分で学習をすること以外に何かありますか。
きつねT:子ども主体の学習、子どもが進める学習を教室の中で実現させることを中心に考えてきました。子ども達は、いろいろな資料や参考書や辞書などを持ち込んで、まるでバトルのように学びを進めるようになります。保護者の参観はいつでも可能にして、常に公開された教室にしていきます。誰が見ていても、子どもを大切にしている学習を進められるようにします。遠足や社会見学や修学旅行なども、子どもが計画を立てたり、事前事後の学習会を子ども達自身が進めたりします。遠足の当日は、朝の集合、電車の乗り降り、現地の移動や見学、現地でのおたずねの会の進行、講師の方へのお礼など、全て子ども達が分担して進めます。また、年に一回、学年合同で学習発表会を開いて、合唱、合奏、劇、群読、器械体操、個人特技などを、保護者やその知り合いの方に公開します。学年で学習発表会をしているのに、500人ぐらいの親や祖父母や、地域の方が講堂に見に来られるような大規模な発表会にします。また、卒業式では、証書授与のバックミュージックを、ピアノなどが得意な10人ぐらいの子ども達が順番に演奏をして、自分達の力で卒業式を作りました。子どもの力は無限です。子どもの可能性を見守り育てる、学年経営をしてきました。
Q3.私は、この授業にマイクは必要ないと思うのです。教室の中は静かですし、教える側になったとき、マイクは使えません。あと単純にどれくらいの声を出せばよいか分かりません。
きつねT:マイクは必要ないと思うのですが、150人ほど入ることができる教室に響く声を出せる人が、女子大では意外と少ないと思ったからです。誰もが、小さな声でも意見が言える所から学習を進めることを大切に考えました。みんなが意見を言えるようになってきているので、マイクはやめようと思います。小学校の体育館で、1年生が劇をしている時も、マイクは使いませんでした。「後ろに来てくださっている保護者に自分の声が届くように話しましょう」と常に言い続けました。また、教室では、「聞こえません」と、大きな声で注意を言う子どももいましたが、それは言わせないようにして、「その人の口の動きを読み取ってあげましょう」と学級指導をしていると、次第にみんなが大きな声で意見が言えるようになってきました。「もう少し大きな声で話して」というと、ストレスになる学生もいるので、意見を言うことが当たり前になったころから、マイクはやめていくようにしますね。
Q4.幼児期の教育から、小学校教育を円滑に接続するということができる学びとは何かということについて、先生の意見を知りたいです。
きつねT:今、幼稚園に勤めるようになって3年目、園児たちの様子を長く見ていると、年長5歳の子ども達の能力が本当に高いことがよくわかってきました。小学校の先生は、幼稚園から小学校に入学してきた新入生を、何もできない、何も知らない子ども達のように扱い、過保護すぎる扱いをしてしまいがちです。しかし一方、幼稚園、子ども園、保育園、自由保育など、あらゆる保育形式の子どもがいるので、あえて、かなり過保護にしているということもあります。そこで、小学校1年生のスタートは、幼稚園の遊びの延長で、まずは書き言葉ではなくて、話し言葉の教育を4月いっぱい続けることが大切かなと思っています。校庭さんぽ、校内探検、校区さんぽに毎日出かけて、あちこちで探検活動をしたり、見つけたことを発表したり、感想を述べあったりするような学習をします。先生からは、「あなたはここで何をしたい」「次はどうしましょう」というような問いかけをします。一人ひとりが、自分の学びについて話せる子どもに育てます。また、長くゆったりとった朝の会の時間を大切にし、家庭から生き物や不思議なものを持ってきて、話をしたり、おたずねをしたりする活動をします。学び合いを通して、学校内、家庭、校区、生活の全てが学習の対象であることに、意識を広げてあげることが大切かなと考えます。4月は、おさんぽをしながら、広い運動場を走り回ったり、体育館でボールや輪を使った遊びをしたり、音楽室で歌を歌ったり、図書室で本を見たり、理科室探検をしたり、花壇や池で自然観察をしたりしているうちに、国語や算数や生活科の学習が、教室以外のいろいろな場所で始まっているような指導ができると最高です。