大学生主体の教育の成立 2018年9月26日(水)

 

 昨日の晴歩雨読173号の続きを書きます。昨日から、後期の大阪こぎつね女子大学の講義が始まりました。生活科ですが、京都のこぎつね教育大学の理科学習と同じように、学生が主体に調べて、学び合って、学習を作り上げていく授業を進めます。小学校の自律的な学級が成立していく過程をたどりながら、学び合う大学生たちを育てていきたいと考えています。

 

1~3は、晴歩雨読173号に書きました。

4.こぎつね小学校の教育

 こぎつね小学校では、大正時代より子ども主体の教育を続けてきています。当時の主事(校長)である木下竹次が著した『学習原論』があります。そこには、いかなる学習も、子どもが独自学習を進めてから、相互学習へと進めなければならないと書かれてあり、現在の私たちの教育も、独自学習を大切にしています。また、戦後、重松鷹泰が校長として赴任し、ここでは、「しごと、けいこ、なかよし」の教育の枠組みを当時の先生方と創り上げ、総合的な学習の先進的な取り組みが始まりました。子どもによる探究の学習が深められてきています。

 現在、こぎつね小学校では、次の取り組みを進めることで、子ども主体の学習をめざしています。

①日記

②朝の会(一人一言を毎日話す)

③自由研究の発表による学び合い

④独自学習・相互学習・さらなる独自学習の学習形態・・学習は自分が進める、自分達で学び合う

⑤多様な辞書・参考書・資料の持ち込みと活用

⑥子どもの進行による学級・学年・学校活動の組織(なかよし委員会)

⑦子どもの進行による学習活動(司会・板書を子どもに)

⑧すべての活動に「めあて・おたずね・ふりかえり」の充実

⑨ノート・レポート記録の徹底

⑩社会の教育力の活用(フィールドワークの充実)

それぞれの活動についてここでは詳しく書くことはできませんが、これらの活動を通して、子ども主体の教育、自律した学習力を育ててきました。この実践を基に、大学の講義の中でも大学生主体の学習活動を進めています。

 

5.大学生の主体的学習の成果

 15回の理科学習を終えて、学生は次のような「ふりかえり」を書きました。

▼私が小学生の頃、理科の授業といえば映像を見たり、教科書を音読していったりという授業を受けました。私はそんな理科の授業は眠たくなるだけで苦手に感じていた。今思うと、一方的に先生や教材から情報を与えられるだけで、暗記に頼った部分が多く、つまらない授業だったと思う。この講座では子ども主体で学習を進めている様子を見て、このような授業なら私も理科好きになっていただろうと思った。学習のテーマに対する疑問点を、みんなで考える時に、根拠をもって自分の考えを発表している様子から、子どもの主体性や思考力を高める非常に効果的な方法だと感じた。教師が一方的に答えや知識を言うと、子どもの学びはそこで止まってしまうが、主体的な授業展開は教師が与える以上の学びが子ども達自身によって期待される。同じ内容の理科の授業でも、教師主体と子ども主体では、学びの深さやひろがりというのが大きく異なるということがわかり、理科はもちろん、他教科でも実践したい。

▼教育大学に通っていれば、『主体的対話的で深い学びの実現』というような力が求められるということは知っている。しかし、どうすれば子どもたちは主体的な学びを実現するのか、何を行えば授業内のビデオでみるような、子ども達があらゆる意見を出し合う活発な授業が行われるのかを、具体的に教えてくれる、また気づかせてくれる先生は今までにいなかったように思われる。そんな中で、独自学習の具体的な方法を教えてくれたのがこぎつね理科だった。その方法を学び、最終的に分かった一番大切なことは、独自学習の実現には膨大な時間と様々な取り組みが必要だということである。たった一つの事を、数回やるだけではとうてい実現不可能。計画性と継続が教師にも児童にもかかせないことであるのだ。具体的な方法についても多く学んだ。その中でも私が教師になったときに実践したいと思っていることは、『朝の元気調べ』と『おたずね』である。

▼私はこの半期で、『めあて、おたずね、ふりかえり』の大切さ、それを子どもが自分の力で行うことの重要性を学んだ。めあてについては、小学生の頃のイメージでは、教師が「めあては○○です」などと言ったり、黒板に書いたりしてノートに写すものだった。しかし、めあてを自分で考えて決めると、その時間、自分のめあてを達成するために努力するだろうし、より深く学べると感じた。おたずねについては、人の発表をよく聞くことが前提になっていて、この力は今後とても役に立つと思った。また、そのためにはメモを取ることも大切だと感じた。最初はメモをするのに必死で聞き逃したりメモが追い付かなかったりすることもあると思う。しかし、それも練習して、覚えられるところ、書かなくてもよいところ、文じゃなくて短く切って重要なポイントだけを書くなどが分かるようになり、メモをしながら聞き、おたずねにつなげられると思った。ふりかえりについては、その時間のことを整理しておくことで、次の時間に何をやったかすぐに思い出せるだろうし、忘れにくいと思う。また、自分の言葉でまとめるからこそ、意味があると思う。自分が毎回ふりかえりでまとめていることで、深く学べていると実感した。

▼今回、自由研究や地学領域の独自学習をやってみて、今の私は、紙1枚に、線や形式などにとらわれず、伸び伸びと調べたことや自分の考えを書くことが出来て、とても楽しみながら取り組むことができたと思う。でも、小学生の頃の私は、与えられたものを、指示通りにこなす方が得意だったので、同じような課題を出されるたら戸惑っていたかもしれない。しかし、それは日々の学習で与えられることが多かったからだと思う。唯一自由に取り組めたのが総合的な学習の時間で、今回この授業を受けて、その当時の事を思い出した。指導要領に従わないといけないから、どうしても机に向かう学習になりがちだが、この授業や小学生の頃の総合的な学習でしていたように、実感を伴った経験を重ねていく方法が、結局は頭に残りやすくて、印象に残っているので、効果的なんじゃないかということを、今回身を持って体験した。

▼今日まで、こぎつね理科についていろいろ教えてもらったけど、良い授業をするには、まず子どもが自ら学習を進めていくことが重要だと思いました。きつね先生は私たちにも常に学習のめあてをつくらせて、おたずねの機会を設け、他の人との交流を通して、また自分でその課題について見つめなおし、さらに疑問点を解決しようとしていく形で、深い学びへの学習のサイクルがまとまっていて、すごく良いなと思いました。自由研究なんかは、自分でテーマを決めて作るのがすごく楽しかったです。私もぜひ、こぎつね理科を実践したいと思いました。

▼この授業では、自分が実際に小学生になった体で実験やレポートをたくさんした。自分が小学生のとき、あるいは今の小学生に、これだけのことができたのかは難しいところではあるが、課せられた課題を一生懸命にこなそうとし、また、友達の発表やレポートを見て、いいところを盗もうとして、良いものを作る機会が小さいころからあると、大人になっても役に立つのかもしれないなと思った。この授業では、子ども主体の先生の考え方がすごく伝わって、きつね先生のような考えの人がもっと増えて、小学校の先生がみんな、そんな考えになればよいのにと思った。ありがとうございました。

▼この授業を受け始めて数回経った時、これは本当に授業なのかと、不思議、疑問に思う私がいました。今まで受けてきたものとは大きく異なっていたいからです。まず私が驚いたことは、学習のめあてを自分で設定して書くところです。『まだ、何も授業していないから分かんないじゃん!』と思ったのですが、これが学習の入り口なのだと回数を重ねていくうちに分かってきました。教員が一方的に進める授業はやはり子ども達にとって面白くないし、印象にも残りません。私は、学習には愛着が重要だと考えています。

▼私が小学生の頃、自由研究は提出したらそれで終わりだったので、結局自分が調べて学んだことが合っていたのか自信が持てず自由研究が嫌いになってしまいました。しかし、この授業では、どんな発表をしても先生に肯定してもらえたのが嬉しかったし、グループ発表でグループの皆が真剣に聞いてくれることで、自分の研究を肯定的に考えることができました。私も、教師になったら、子ども達の学び、行動を見落とさないようによく観察し、肯定するコメントをしようと思いました。

▼私が個人的に印象にのこっているのは、磁石の授業の進め方を発表した授業である。時間が足りず、事前準備が十分にできなかったが、全員の前で発表する機会をいただくことができた。班内で話し合ったことを正確に伝えることはできなかったかもしれないが、その場で考えたことも交えながら、自分達の考えを他者に伝えるために努力した。自分の中では、何が言いたいか分かっていても、いざ人の前に立つとなかなか適切な言葉が出てこない。これでは児童に『自分の考えを自分の言葉で発表しなさい』という資格はないと思った。相互学習の難しさを学ぶよい機会だったと思っている。

▼相互学習が、私がこの講座の中で最も大切だと感じたことだ。そして、今まで私が受けてきた教育の中で、これが一番足りていなかった。『朝の元気調べ』『自由研究』『独自学習』を価値あるものにするには、この相互学習が必要不可欠である。相手に自分の言葉で伝え、相手の言葉を受け取り理解するプロセスが重要だ。そして、理解することで、おたずねが生まれる。実は、このおたずねは、とても難しい。相手の話をよく聞き、理解しようとしていなければ出てこない。実際に私も苦労した。しかし、これがアクティブラーニング、子ども主体の学習の本質ではないだろうかと感じた。私の勝手なイメージで、アクティブラーニングを議論し、とにかく座学ではないものと思っていた。しかし、自分の言葉で伝え、受け取り理解するプロセスを行いながら学ぶことがアクティブラーニングであると、今回感じることが出来たので、これからの自分の学びに取り入れていきたい。

▼独自学習と聞くと、絶対に一人でできない、無理、となってしまう子どももいると思いますが、選択の幅、個性を重視していることがポイントです。独自学習は負担も大きいですが、学習を楽しいものにして自分ごととしてリアルをもってとらえていくことは、とても重要な役割をなすと思います。また、独自学習を相互学習へとつなげていくとき、はじめて独自学習がより意味のあるものになります。相互学習では、自分の興味関心がさらに広がっていくことを実感します。また、発表する際に、どんな風にしたら相手によく伝わるか、発表の工夫を考えたり、どんな風に聞いていたりしたらよいのかなど、学習の姿勢にも成長が見られると思います。子ども達は、教員や大人たちが言わなくても子ども達の中で学び合っていく、とても可能性を秘めた存在なのだと改めて感じました。とても刺激的な授業でした。ありがとうございました。

 

6.おわりに

 大学生の「学習のふりかえり」は、どれも個性的で、違った内容を書いていますが、共通していることは自分達が経験を通して学んだ主体的な学習を、自分が教師になったとき実践してみたいということです。学生主体の学習を進めて良かったなと思いました。大学生を教え始めた頃、大学生は、小学生と違って賢いので、何か理論的なところから授業をしなければいけないと思っていたのですが、特に教師になっていく学生には、今一度、学びの主体を自分に置く学習で、大学の学びを進めていくことが大切だと思うようになりました。

大学生でも、自分のレポートをグループで懸命に説明し、聞いてもらっている時の顔は、小学生の自由研究発表をしている時の顔と、同じ輝きを持っていました。自分が興味を持って調べたことを人に伝えるという学習を出発点にし、互いにおたずねをしていきながら、自分達で学びを構成していく体験が、教職系の大学生には大切だと思いました。