『ラオスにいったい何があるというんですか?』を読む 2018年9月20日(木)
村上春樹さんの、旅行記を集めた本でした。アメリカ、アイスランド、ギリシャ、フィンランド、ラオス、イタリア、熊本を旅行されたときの記録です。
「頼まれて旅行記を書く仕事を思いついたようにやっているうちに、次第に原稿もたまってきて、今回ようやく一冊の本にすることができました。まとめられたものをこうしてあらためて読み直してみると、『ああ、ほかの旅行についても、もっとちゃんと文章に書いておくんだったな』という後悔の念が、微かに胸の内に湧き上がってきます。」
さらに、あとがきにこのように書かれています。
「秋のプラハの街をあてもなく歩き回ったこととか、ウィーンで小澤征爾さんと過ごしたオペラ三昧の日々とか、エルサレムでもカラフルで不思議な体験とか、夏のオスロで過ごした一か月とか、ニューヨークで会ったいろんな作家たちの話とか、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラでのディープな日々とか、サビの浮いたトヨタ・カムリ(走行10万キロ)で走り回ったニュージーランド旅行とか、もっといろんなことをしっかり書き留めておけばよかったなと、今になって思います。でも、その時は自分が楽しむことで精いっぱいだった。人生はなかなかむずかしいものです。」
村上春樹さんでもそうなんだなと、少し安心したような、気持ちになりました。人間味のある所をサラッと書かれています。旅行に行ったことを、少しでも記録をしていきたいと思っていてもなかなかやりきれないのは自分だけではないことを知り、少し気が楽になりました。
村上春樹さんは、アメリカでかなり長く生活をされていて、英語は自由に書いたり、話したりできるようです。というよりも、英語は、学生時代、学校にあまり行かないで、英語の本ばかりを読んで身に付けられたということを読んだことがあります。さらに、イタリア、ギリシャ、スペイン、北欧などにも長く旅行や長期滞在されていて、現地での生活の様子から、英語だけでなくそれぞれの国の言葉も少しずつ話されるようなので、現地の人たちとの交流で深い体験があるように読み取れます。文章を書く人が、言葉を自由に使えるというのは、とても素晴らしいことだと思います。
村上春樹さんの文章の中では、マラソン、ジャズ、ワイン、野球などには関して、特に詳しく書かれています。旅行に行くときは、いつもランニングシューズを持ち歩いていて、その町で走っています。走りに出て、ホテルの名前を思い出せなくて、帰る場所が分からなくなって苦労されたことも書かれています。自分も、出張で泊まった時は、早起きをして朝食までに散歩に出るのですが、帰るホテルが分からなくなったことがあります。一度その経験をすると、出る前にしっかりホテルの名前と、グーグルマップで地図の確認をしてから歩くようになりました。
◆ ◇ ◆
「ラオスにいったい何があるというんですか?」と訊かれて、僕も一瞬返事に窮しました。言われてみれば、ラオスにいったい何があるというのだろう? でも実際に行ってみると、ラオスにはラオスにしかないものがあります。当たり前のことですね。旅行とはそういうものです。そこに何があるか前もって分かっていたら、だれもわざわざ手間暇かけて旅行になんて出ません。何度か行ったことのある場所だって、いくたびに「へえ。こんなものがあったんだ!」という驚きが必ずあります。それが旅行というものです。旅行っていいものです。疲れることも、がっかりすることもあるけれど、そこには必ず何かがあります。さあ、あなたも腰を上げてどこかに出かけてください。 ◆
趣味で街を歩いているというと、「何のために」、「そんなのして何が面白いの」と聞かれたとき、村上春樹さんのように答えればよいということが分かりました。そこにしかないものがあるということを見つけるために、「へえ。こんなものがあったんだ!」という驚きのために歩いていると言えるようにしたいなと思いました。