キノコ展を見に行く 2018年7月31日(火)

 

 朝から孫が来ました。今日も暑いので、午後から博物館に行くことにしました。大阪自然史博物館では、今、キノコ展をしているので、それを見ることにしました。いろいろなキノコ、粘菌類が展示されていました。また、きのこの研究者の研究の進め方、研究の歴史、研究者のつながりなどが分かる展示が、興味深かったです。

 展示解説のパネルから、キノコ研究に関わってこられた人たちの取り組みについて書き出してみることにしました。全く知らない研究の世界を、少しのぞき見することができました。特に、アマチュアと言われる方々が、自分の住んでいる地域研究をしていることが高く評価されていて、博物館人、職業研究者と連携しながら、活躍されていることを知りました。

 

 「今関六也は、東京教育博物館(現在の国立科学博物館)の初代菌類担当者でした。博物館人としてきのこの普及・教育・啓発に努めてきました。日本隠花植物図鑑をはじめ、いくつもの図鑑に関わります。川村同様、自ら絵筆をとり、きのこを描写することで、細部を確認しています。本郷次雄をはじめ多くの菌類研究者を育て、後には林業試験場に移り、森林の保全と菌類の関係にまで及ぶ広い視野を持った研究者でもありました。」

 「川村清一の描いた日本菌類図説と原色日本菌類図鑑の原画は、国立科学博物館に保管されています。水彩専用の紙に絵が割れた精緻な図は、実物大ではなく拡大して詳細に描かれています。絵のスタイルは、フランス菌学会誌に菌類図譜を載せていたブレサンドラの影響を受けているといいます。戦前の師範学校向け教科書で指導書を書いていた川村は、戦後の研究者にも多くの影響を与えています。」

 「本郷次雄は、自ら野外に出かけて、気になるきのこをじっくり観察し、数時間かけて絵に描き、顕微鏡で調べ、標本を作りました。一つのきのこに結び付く、標本・絵・記録ノートが存在します。観察を積み重ねて、文献などと比較検討して論文が書かれます。その積み重ねが図鑑となります。図鑑の記述は全て標本をたどることが可能です。本郷の死後、標本は博物館に移され、後の研究者たちが再活用することができます。アマチュアや研究者の資料も同様です。未解決の課題を含め、これまでの研究者の知識を未来につなぐものが標本であり、博物館なのです。」

 

「美しい絵を描いたり、新種を記載したりするだけが、きのこ研究ではありません。アマチュアが作る菌類誌は、その地域にどんなきのこが生息しているのか、丹念に調べ、記録することも大事な研究です。普通のものをしっかり見つめ記録する中で、わずかな違いに気が付き、新種が見つかることもあります。また、地域のきのこの特徴が何なのか、まとめてみることで分かることもたくさんあります。違いは、地質、植生、地域の山の使い方など、どんなことと結びついているのでしょう。このような研究には、職業研究者よりも、地域に密着したアマチュア研究者がより多く貢献しています。」

 

 「豊島弘は、香川県で高校の教員をしながら、本郷次雄に師事し、きのこの観察と記録につとめました。日本菌学会会報をはじめ、いくつかの資料に香川県の菌類の多様性を記録しています。教員を務めながらも昆虫・きのこ・海藻と、幅広く香川の自然を研究しました。そのうち豊島の昆虫標本は、現在、県の五色台少年自然センターの展示室に収蔵・展示されています。菌類の資料は今回はじめてまとまった形で公開されます。」

 「吉見昭一は、小学校教員となってからきのこに取り組んだ、アマチュア研究者です。教員として数々の科学教育絵本を執筆する一方で、あまり調べる人のいなかった腹菌類を専門に研究をしました。近年、腹菌類に関する研究は大きく進み、次々と新しいことがわかっています。中には吉見の研究を覆す発見も多いのですが、その検討の材料となった功績は大きいものがあります。吉見の資料も、国立科学博物館と当館に保存されています。」

 「青木実は、専門教育を受けずに、アマチュアとしてきのこ研究に取り組みました。初期には本郷次雄と連絡をとりながら、共著での発表もしています。青木の研究は、きのこを観察し、顕微鏡を覗いて図を描き、徹底して記載を取るスタイルでした。観察記録は吉見昭一らとつくった「日本きのこ同好会」を通じて、全国のアマチュアに配布され、それらは今日「日本きのこ図版」として研究資料に活用されています。当館では未公表の資料も含めて分析し、研究への活用を試みています。」

 「南方熊楠の記録や標本は、今なお研究に活用されています。菌学者・今井三子は、生前の1931年ごろ、南方を訪問し教えを請いました。今井はテングノメシガイ科の研究論文に南方の主張を入れ、いくつかの新種を南方の研究によるものとして、南方を共同命名者として報告しています。現在、国立科学博物館に収蔵されている南方標本は、現在の研究者も活用しています。」

 

 パネルの写真をパソコン画面に映し出して、それを見ながら文章を打ち込んでみました。ただ読んでいるだけでなく、打ち込むことによって、より詳しく理解することができました。教師をしながら、また、他の職業を持ちながらキノコ研究に取り組み、専門研究職の方と連携を取り、本格的な研究を進められている方が多くいることを知りました。絵の精密さ、記録のすごさに、とっても感銘しました。

 南方熊楠は、前から興味を持っていて、田辺の資料館、白浜の展示館にも、何度か行っています。また、南方熊楠について書かれている本も、何冊か読んだことがあります。日本が世界に誇る天才の一人なのでしょう。たぶん、この展示に紹介されているきのこの研究者たちも、天才の方々なのでしょう。深い探究の世界を創る天才は、どのように育っていくのでしょう。